会社辞めました

茶漬三郎

第1話 最初の一歩踏み外す

 この世に生を受けて20数年、私は大学を卒業し、無事社会人へと歩みを進めることができた。しかしこれはゴールではなく、新たなるステージの始まりであり、到底めでたいものだとは思えなかった。

この企業に在籍し、自身のキャリアを構築していく。100人以上いる同期たちと切磋琢磨し、10年後の姿を想像して行くのだ。


 この時私は想像していなかった。その選択肢が茨の道であり、如何に曖昧な環境で自分の視野が狭いということに。


数週間で得た企業理念や今後の事業展開などどれもフワッとしており深掘りするにしてもできなかった。同期たちとも呑みながら、机を囲みながら話したが、頭のいい奴らほど答えが出てこなかった。その内容は雲のように軽く、わたあめのように水に溶けてしまいそうだった。

結局、研修は気の合う同期数人と知り合ったこと以外、何も得たものはなかった。


 暗雲漂う夏を迎えた。今後の経営方針や事業展開に自分たち新人がどう貢献できるのか考えるまもなく現場へと送られたのだ。

それは苦情の始まりであった。

なぜなら他人に抑圧されつつ、目標のない人生を送るほど、時間の浪費を実感することはないからである。

何のために生き、上を目指すのか。1日の業務を終えると1人反省会である。理想と現実のギャップでいつしか睡眠もままならなくなっていった。思考を放棄すると夜な夜な財布を片手に出歩くようになった。


給料のほとんどは酒、食、タバコに消えた。これも自己投資と思えばいい。飲み屋で知り合った人生の先輩方は口を揃えて言った。彼らのような地元の方々と交流していくと、自分のための自分がより出来上がってくる実感があった。

これは負のループである。

日に日に確立されていく自己像は会社の型にはまらなくなっていった。加えて同期が自分の希望する部署へ配属され、仕事をこなすようになったり、学友のキラキラした投稿をSNSで目の当たりにすると自分が一層小さくなっていくように感じられた。


毎日を生きるのに必要なのはもはや気合いであった。花咲くその時までじっと耐え、起床も就寝も上司や先輩の意見にうなづくことも、全て心の中にある何かによって動かされていた。

夜は当分明けそうにない。吹かしたタバコの火だけが自分の希望であった。

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