第9話 平行線の会話
「こんなところで生徒会長さんに会えるとは思ってもいませんでした。」
誰かが話している声が、かすかに聞こえる。
「偶然通りかかったら、うちの生徒が妙な男に襲われていて、慌てて警察を呼んできたの。」
「待ち伏せていたのでは、ないのですか?」
「何を根拠に言っているの?」
「全ての流れがあまりにも都合が良すぎるからです。」
「都合が良い?」
「ええ。八ヶ崎さんにとってとても好都合に事態が流れていました。」
「言っていることが、私には分からないのだけれども。」
「では、単純明快に言います。今回のこの暴行事件は仕組まれていたのではないですか?」
「気絶している彼が暴行されるように仕向けたと?」
「ええ。そもそも事の発端は乃木口くんの机の中にあった暗号です。あの男の人がもしも全てを仕組んだ人間ならば、どのように高校の教室に入り、さらに続く体育倉庫のメッセージを用意したのでしょうか?」
「そんなこと言われても、私はその暗号もメッセージのことも知らないのだから、答えようがない。」
「しらばくれますか?」
「ええ。貴女が最初の暗号の正解を彼に黙っているのと同じように、私も黙り続ける。」
「やっぱり、」
「そうよ。中々七面倒な手筈だったけれども、彼は進んで正義のヒーローに立候補してくれた。自分達しか知らない謎を追っていると思い込んでね。」
「そして、ストーカーに乃木口くんを襲わせて、警察に捕まえさせる。」
「その通り。だって、警察はたとえ真名理がストーカー被害を出したところですぐに動いてくれない。ならば、何か別の事件の現行犯で捕まえてもらうのが、脅威を取り除く手っ取り早い方法だと思うでしょう。」
「その為に、関係ない人を巻き込んだんですか?」
「関係なくはないのよ。真名理があの男の告白を蹴ったのは、好きな男性がいたからなの。」
「もしかして、」
「そういうこと。だから、一肌脱いでもらうことにしたの。」
「でも、それなら最初から素直に伝えれば、」
「へえ、貴女から素直に伝えろだなんて、そんな言葉が出るなんて思わなかった。暗号の本当のメッセージを隠匿しているのに。」
「……、」
「まあ、貴女も十二分に働いてくれたから、これ以上虐めたりはしないから安心して。きっと貴女なら、間違った暗号解読を彼に伝えてくれると思った。そして、その通りに働いてくれた。ありがとう。」
「私の行動も、織り込み済みだったんですか、」
「当然でしょう。ワトスンとホームズは二人でワンセットなのだから。お陰で、彼は自分が特別な人間だと思って行動をした。悪い数学者と名探偵に操られているとも知らずにね。」
「そんなことありませんよ。彼は、特別です。」
「まあ、それは主観によって分かれるところでしょうね。少なくとも、私にとっては貴女も彼も、特別な存在ではない。私は私を信じるものしか信用しない。それ以外は全て無価値なの。利用するだけの道具。貴女が私を信じるというなら、今後私は貴女の仲間になってあげても良いけれども?」
「お願いします――なんて言うと思っていませんよね? 私は私の信じるものだけを信じます。」
「残念。それじゃあ、さよならね、」
「ええ。さようなら、
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