Case2 自由っ子ちゃんとお姉ちゃん 1話

 私、結城千早ちはやには妹がいる。とっても可愛くて、素直で、優しくて、そして……。


「お姉ちゃん見て見て〜!ほらっ、本タワー十段できた〜! 」

「何をしてるの巳錫みすず! その本は図書室の本よ!」


 ……とにかく自由なのだ。気分によって遊びの誘いに乗るか乗らないか変わるし、授業に出るか否かも変わるし……。妹の同級生からは『気分屋のお姫様』と言われて厄介扱いされているらしい。昔は素直でいい子だったのに、二年前あたりからこんな子になってしまった。

 可愛いから勿体無いと思う。


「あっ! そういえば今日って月刊誌の発売日だった〜。先帰るね〜」

「ちょっ! この本を元に戻しなさい……って行っちゃった」


 ……今日も気分に従って動いてる。でも今日は実はちょっと有難い。


「…………」


 私の手元にあるのは手紙ーー所謂ラブレターである。今日の放課後に図書室に来て欲しいというものだった。私はこの差出人を待っていて……巳錫に絡まれていた。


「あの……結城先輩」


 ホッとしていた私に声をかけてきたのは、妹の後輩の女の子だった。


「どうしたの?えっと……」

「私、みち 絶香せつかです。その……わ、私のお手紙を見て頂けましたか? 」

「えっ……み、見たけど……」


 ……待って欲しい。この子がラブレターの差出人? ってことは……。


「私っ、ずっと先輩のことが好きでした! お付き合いして頂けませんか⁉︎ 」


 ……どうしよう。初対面の後輩に、しかも同性に愛の告白をされた。どう返せばいいんだろう。……とりあえず、お互いを知ることが大事だよね?


「えっと……お友達から、でいい? 」

「えっ……」

「あの、私たちって初対面でしょ。だから先ずは互いのことを知らないとね」

「なるほどです……」


 真剣な顔で頷く後輩ちゃん。


「分かりました。では、私を知ってもらうために今日は一緒に一夜を過ごしましょう! 」

「えっ……」


 その日、私は後輩ちゃんと一緒に帰った。話をしてみると私と趣味も合って、喋りやすかった。私のことは遠くから見ていたとか何だかで、向こうは私のことをよく知っていた。しれっと家に上がろうとして来たから、必死に止めた。

 巳錫が帰って来たら、後輩ちゃんのことを詳しく聞こうと思う。確か同じクラスだったし。


「ねえ、巳錫」

「どうしたのお姉ちゃん? 」

「途 絶香って子について何か知ってたりしない? 」

「えっ……」


 私は今日のことを(告白の件を除いて)巳錫に話した。話を聞いた彼女はウンウン唸った後。


「私は話したことないや〜。ごめんね」

「そう、なら仕方ないわね」


 まあ、彼女のことは今後知れるだろうし。



「そっか……。絶香さん……ね」


☆ ☆ ☆


 後輩ちゃんとお友達になって数日後、妹のクラスで何か一大事があったと聞いて、私は彼女の教室に向かった。教室の前にいた生徒の一人に話しかける。


「あの……どうしたの? 巳錫は無事? 」

「あっ、結城先輩。巳錫ちゃんは大丈夫だと思います。それより……」


 彼女の視線の方向をみると、そこには……。


「絶香……ちゃん……? 」


 そこには、教室の机に、巨大な棒を使って固定され、顔の潰れた絶香ちゃんの姿が……。

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