少女達物語

Case1 お嬢様と養女ちゃん 後編

「……あれ？ 」

　どれくらい寝てたのか。気付いたら倉庫みたいなところに、ぐるぐる巻きにされて寝ていた。手足を縛られているだけで、それ以外は何もされていない。

(大声を出せば、助けが来るかも……！ )

　でも、もしもここが近くに人のいないような場所だったら？ 叫んでも意味がない。

「……どうしよう」

　私の悪い癖の一つだ。何か行動を起こそうとしても、直ぐに悪いことを考えて行動に移せない。レイちゃんにもよく注意される。

「何とかしないと……でも……でも……」

　一歩が踏み出せない私が、まごまごとしていると。

　バコンッ！

「何だお前らは！ 」

「警察だ！お前達を未成年誘拐の現行犯で逮捕する！」

「……えっ？ 」

　けい……さつ……？ どうしてここが分かったんだろう。私は何もしてないのに。

　私が困惑していると、倉庫みたいな場所のドアが壊される。警察の人と一緒に入ってきたのは。

「レイちゃん⁉︎ 」

「桜夜（さよ）！ 無事だったのね」

　レイちゃんが駆け寄ってきて、私の縄を切ってくれる。私は彼女に抱きつく。

「怖かったよ……。すごく怖かった……」

「よしよし。大丈夫だよ。……ところで、口を塞がれてないなら何で叫ばなかったの？また悪いことを考えちゃったのね」

「うぅ、ごめんなさい……。叫んでも聞こえなかったらって思って」

「言い訳はダメよ、もう……。今回は偶然、私がいない時でも助けられたけど、次は無理かもしれないわ。私があなたと一緒の学校に行きたい理由、分かったでしょ？ 人間は助け合いが必要なの。自分で何でもできるわけじゃないの」

「うん……」

「とにかく、もう一回よく考えてね。私と同じ学校に行くことを」

　それから私は警察署で事情聴取を受けて、レイちゃんと一緒に帰っていた。

「……あのね、レイちゃん」

「なぁに、桜夜？ 」

「私、やっぱりレイちゃんと同じ学校には行かない。ずっとレイちゃんに頼ってばっかりだと、私は成長できない気がするの」

「……そう。それがあなたの決断なら、私はそれを変えることは出来ないわ」

　そう言ってレイちゃんは俯く。その姿を見て罪悪感を感じるが、グッと堪える。これは私にとって大切なことなんだから。決めたことを覆すわけにはいかない。

「……ねえ、桜夜。一つだけ確認させて」

　レイちゃんがポツりと喋りかけてくる。

「なに？ 」

「桜夜は、私のこと好き？ 」

「もちろんだよ」

　即答する。レイちゃんのことは好きだ、お姉ちゃんとして。きっとレイちゃんは私が嫌いになって離れようとしているのだと思っているのはだろう。それは違うって伝えないと。

「そう。……私も大好きよ。桜夜のことが、すごくすごーく」

　そう言って私に抱きついてくる。私も強く抱きしめ返す。私は彼女を傷つけてしまったのだから。

「おはよー桜夜ちゃん！ 今年も一緒のクラスだねぇ」

「神羅ちゃん、おはよう。今年もよろしくね〜」

　あれから半年経って、私は家の近くの中学校に進学した。今日は入学式の日だ。クラス分けの掲示板には新入生がいっぱい集まっている。

「それじゃあ体育館行こうか。……ってあれ？ どっちだっけ」

「うーんとね、こっちかなー？ 」

　それから二人で順路の案内通りに体育館に向かったが、なぜかいつまでも着かない。

「困ったなー」

「あっ、私あの人に聞いてくる。待っててね」

「ありがとー」

　私は偶然見つけた、在校生みたいな人に声をかける。

「すみません、体育館に行きたいのですがどの様に……えっ？ 」

　私の言葉は途中で止まる。だって。

「あら、道に迷ったの？ もう、桜夜はやっぱり私がいないとダメね」

「レイ……ちゃん……？」

　その人はこの学校にはいるはずの無い、私の姉だったのだから。