少女達物語

しょうさん(硝酸)

Case1 お嬢様と養女ちゃん 前編

「はじめまして、桜夜さよ。わたしがレーチェルよ。きがるにレイって呼んでね」

「あ、え、えっと……よろしくお願いします。その……レイさん」


 それが私とお嬢様ーーレイちゃんとのファーストコンタクトだった。


 私、桜夜はとある一つの家族に生まれたが、そこから追い出されたーーいわゆる捨て子だった。道端に捨てられていたのを施設の人に保護されて、育てられて、お金持ちの家に引き取られた。その家の一人娘にして、私の姉となったのがレイちゃんだった。

 レイちゃんは少し変わった事がある人だった。

 まず、私みたいな養女とやたらと一緒にいたがる。私がお勉強をしていたせいでお風呂の時間がずれた時には私を待って一緒に入るし、私が一人でお散歩にでも行こうとするといつの間にか付いてきているし、私が習い事を始めたら一緒にやり始めるし。

 次に、私が『レイちゃん』以外の呼び方をすると怒る。私が初対面の時にレイさんと呼ぶと怒られたし、ある時にお姉ちゃん呼びを提案したらすごく怒られたし。とにかくレイちゃん以外の呼び方は認められないらしい。

 最後に、なぜか格闘技を独学で学んでいる。理由を聞いても教えてくれない。

 そんなレイちゃんと姉妹になって二年と五ヶ月。私は十二歳の誕生日を迎えた。


「ハッピーバースデー、桜夜! うふふっ。もうあなたが来て二年と五ヶ月なのね」

「ありがとう、レイちゃん。時間が経つのって早いね〜」


 私は今、レイちゃんと二人でお誕生日パーティーをしている。お友達とはさっきやった。旦那様と奥様ーー口ではお父さん、お母さんと呼んでいるけど、心の中では旦那様、奥様と呼んでいるーーは大事な仕事だからいない。私とレイちゃんと、メイドさんの三人で夕食兼パーティーをしているのだ。


「それで、貴方がバースデーを迎えたってことは、それは小学校の卒業が近いことを指しているのね。何処の中学校に行くか決めた? 」

「うーん……。近くの中学校でいいかなぁ。いいところを説明されても全然わからないもん」


 そう、私は何処の中学校に通うのかを、よくレイちゃんに聞かれている。私は近くの共学の中学校でいいと思っているけど、レイちゃんは自分の通う女子校を薦めてくる。旦那様と奥様にも許可は貰っているが、私は悩んでいる。それは。


「何を言っているの! 違う学校に行ったら私がいざという時に可愛い妹を守れないじゃない! 」


 このシスコンを治すためには違う学校に通うべきだからだ。なぜ私のような唯の養女にこんなにベッタリなのか分からないけど、流石に恥ずかしいのでやめてほしい。レイちゃんが小学生の時も、休み時間ごとに私のところに来ていた。


「でも私ももう十二歳だもん。自分の身は自分で守れるよ」

「ぐはっ……! 桜夜が私の言うことを聞いてくれない。これが反抗期というものなの、カーチャ」

「反抗期だとこれ以上の拒絶が待っていますよ、お嬢様」


 レイちゃんがカタリナさんーーカーチャさんと謎の会話をしている。あれで学業の成績がいいのだから、不思議だ。


「とーにーかーくっ! 私と同じ中学校に来なさい!それ以外は認めないわっ! 」

「うーん、どうしようかな……」

「桜夜っ! 」


 私としてもレイちゃんと離れたくないし、本当は一緒の学校に行きたい。

 でも、私は本当にこのまま彼女に頼りっぱなしでいいのかな? 一人で色々とできるようになって、独立しないといけない気がする。

 この二つの相反する気持ちが直ぐに答えが出せない理由だ。



 そんなこんなあって、気付けば十月になっていた。そろそろどうするか決めないと、レイちゃんの学校は“面接”っていうのを受けないといけないらしいし。どんなのかよく分からないけど。


「じゃーねー桜夜ちゃん」

「うん、バイバイ」


 お友達と別れて一人で帰り道を歩く。その間も考えるのは進学のこと。


「うーん、うーん……」


 私は考え事をすると周りが見えなくなるっぽい。だから後ろにいる不審者に気付かなかった。


「んっ……! 」


 いきなり後ろから口を押さえられ、体を持ち上げられる。暴れるが抜け出せない。

 私を抱えた男の人は、一言も喋らずに素早くそばにあった車に乗った。そこにはもう一人男の人がいて、その人が車を発車させる。


(これって誘拐っていうのかな? どうしよう……レイちゃんに迷惑かけちゃう。それに、もしかしたら殺されちゃうかも……)


 私が今後の心配をしていると、いきなり私を捕まえている男の人が私の口から手を離した。


(逃げれるかもっ! )


 そう思って扉の方へ行こうとした瞬間、首のあたりの強い衝撃で私は意識を失った。

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