第2話

 あなたがいるということを、忘れることはない。あなたのことを考えるためのからだの器官が、常に動いているような感じ。それは基本的に、左の頬。

 ほおづえをついて眠るとき、必ず左頬だからなんだと、最近気付いた。眠っているとき、あなたがふれていると思っていたのは、わたしの左手。


 ひとりの部屋。他には誰もいない。生まれたときから、そう。最低限のものしかない。

 鏡。化粧品。充電プラグがたくさん。携帯端末がいくつか。枕。ぬいぐるみ。雑誌。棚。バックライト。自撮り棒。


 たくさんあるわ。ごめん。最低限からほどとおいね。ごめんなさい。


 分かっている。

 わたしは、ひとりでここにいる。ずっとひとり。

 だから、わたしにはあなたがいる。そういう、やつ。


 目についた雑誌。右手で取って、ぱらぱらとめくる。左手ほおづえ。

 恋人特集。この季節、絶対にゲットしたい彼。ライバルに勝つコーデ。


 あなたには。わたしは。ゲットできるだろうか。


 とりあえず、雑誌を投げ飛ばして。また、眠る。あなたの、もとへ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る