009:ドジ神に愛された男と大聖女

「ええ知っています。実はたまたま・・・・この病に関して知識があって、それを思い出したのです」


 ウソおっしゃい。優男、あんたさっき〝鑑定〟を使ったでしょ?

 聖女は騙せても、大聖女の私を騙せると思ったら大間違いなんだから。


 でも……どうして隠すのかな? う~ん、まぁいいや。


「おお! それは心強い。してその治療法にピンテール茸が必要だとおっしゃるのか?」

「はいそうです。それというのもこの雌牛、アネモネが教えてくれたんですよ」


 何を言い出すのよ優男。そりゃ私が教えたけれどさ、牛にそんな事が分かるわけないって普通思うよね。

 ほらぁ、バカを見る目で見られているってば。


「「すごい! そんな事が分かるなんて神の御使い?!」」


 牛を見て何言ってるの?? 親子そろってバカなのかしら!?

 ま、まぁ慈愛の女神様の御使いには違いないけどね! ……元だけど。グスン。


「そうなんです、アネモネが甘野草で治ると示してくれました。それで思い出したんです、この病の事を」

「なるほど、野生動物の本能というものですかな。それでピンテール茸をどうお使いになるのじゃね?」


 だまりなさい愚民一号そんちょう。誰が野生よ! 乙女に失礼な事言わないでよねマッタク。さてと……ちょうどいい場所があったかな。


「そうでした。鍋と包丁、それとすり潰す物を貸していただけないでしょうか?」

「それは当然問題ないのですが……なにぶんまだ動くことができませぬので。おまえはどうだ?」

「ごめんなさい、私もまだ動くことが出来ないみたい」


 それを聞いた優男は、「大丈夫、僕が取ってきます!」と勢いよく駆け出すと、もっと勢いよく足元の鍋につまずき転ぶ。


 私、確信しました。


 ぜったいこの男、天性のドジスキルを持っているはずだと。

 きっと、ドジ神様に愛されているのです。だってほら……。


「うわッ、なんで足元に鍋が!? って、包丁やすり鉢までっ――あ痛ぁ」


 と言いながらまた転んでるし。

 あんたちょっとは落ち着きなさいよね。ハァ~、どうして〝すりこぎ棒〟に吸い寄せられるみたく乗るの? 

 

 まったく仕方ないなぁ。襟をかじってよいしょっと。


「うわッ!? 起こしてくれたのかい? ありがとうアネモネ」

しっかりしなさいよねもぉぉぉぉぉ~


「って、まさかすでに道具を用意してくれてたのかい? キミって一体……」


 ちょうど雑貨屋が後ろにあったから、そこから拝借しただけだよ。

 それに、おどろく暇なんて無いんだからね?


 症状はかなり深刻だから、早くピンテール茸を採取しなきゃなんだから。


「村長さんすみません、アネモネが勝手に雑貨屋から持ってきたみたいで」

「いいんじゃ。それをもって行っとくれ。ピンテール茸の群生地は、村を出て東に行くと湿地があり、そこに大量に生えとりますじゃ」

「私はもう少ししたら、なんとか動けそうですので、村民に甘野草を持っていきます」

「わかりました、よろしくお願いします。では早速行ってきます! アネモネは待っていておくれ」


 む~り~。

 本当は面倒で行きたくないけどさ、優男ひとりじゃきっと失敗するもん。

 この短い付き合いだけど、なんかそれが分かっちゃった。

 ほら、さっさと行くんだからね!


「うわ、そんなに押さないでよ。わかったわかった、キミも連れて行くから」


 わかればいいのよ、わかれば。

 そ、それに一人はなんか嫌だし。ついていってあげるから感謝なさい!


 ちょっぴり憤慨ふんがいしていると、年長の男の子が覚悟を決めた顔つきで駆け寄ってきた。何かしら?


「あんちゃん、俺たちにも手伝わせてくれよ!」

「キミたちは……うん、わかった。甘野草って知ってるね?」

「うん、いつも噛みながら遊んでるから、いっぱい生えている場所もしってるぜ?」


「それはすごいね。じゃあ夕暮れ少し前までに、そこにあるカゴいっぱいに摘んできてもらえるかい?」

「まかせといてよ! よし、じゃあお前ら行くぞ!!」

「「「うん!!」」」


 年長の子が子どもたちを引き連れて森の中へと入っていく。

 無事に帰ってきなさいよ・・・・・・・・・・・、死にぞこないが待っているんだからね。

 あんな子供なのにやるじゃない。私たちもがんばらないとね。


「さ、出発しようアネモネ」

「ももぅ~」


 荷物を整理した後に、優男と一緒に村を出る。

 場所は意外と遠いらしく、徒歩で一時間ほどの道のりだと愚民一号が言っていたっけ。

 その事を思い出していると、優男が私の背中に右手を乗せながら優しげに話す。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る