筋肉フェチの一色さんと横山先生 「G’sこえけん」参加作品
陽咲乃
第1話 一色さんと横山先生
コンテストの特性上、登場人物二人の会話劇が中心。地の文はト書きかモノローグです。本日2話公開。明日から毎日1話投稿します。
――――――――――――――――
登場人物
横山
とある私立高校の生徒指導室。
テーブルをはさんで向かい合う横山と一色。
「一色、なぜここに呼ばれたのかわかるか?」
「わかりません」
「全然?」
「はい。授業は真面目に聞いていますし、期末テストの結果も学年で10位以内に入っています。風紀を乱した覚えもありませんから、なぜここに呼ばれたのか検討もつきません」
「そうか。そうだよな……実は、おまえがあちこちで男子に色目を使ってるから、やめさせてくれって苦情がきてるんだ。一応担任だから、放っておくわけにもいかなくてな」
「大変ですねえ」
「……完全に人ごとだな。まあ、いい。それで、色目とやらを使った覚えはあるか?」
「いえ、まったく」
「ちなみに、名まえが上がってるのは、陸上部の高橋、バレー部の工藤、あとサッカー部の小池とかだな」
「はあ……」
首をひねる一色に、横山が畳み掛ける。
「おまえがしょっちゅう部活の練習を見に来てるって聞いたんだけど、それもデマか?」
「いえ、見学にはよく行きますけど……あ、もしかして、ヒラメ筋と腹筋と
「は?」
「すみません。筋肉は覚えてるんですが、顔とか名まえはちょっと……」
「え、なになに? どういうこと?」
「おそらく、彼らの筋肉を鑑賞していたのを、色目を使ったと勘違いされたのではないかと」
「もしかして、一色は筋肉フェチなの?」
「はい、そうです」
「なるほどそういうことか……ちなみに、それってやめられ――」
「やめられませんよ」
食い気味に答える一色。
「相当好きなんだな」
「はい!」
「だけど、相手は年頃の男だ。『もしかして俺のこと好きなのかな』なんて勘違いするやつもいるから気をつけろよ」
「ハハ、まさかそんな」
「いや、いるんだって! それで揉めてるカップルが何組もいるから、俺のとこに苦情がきてんだよ」
「なんで先生のところに?」
「直接言いにくいからだろ。教師のなかでは俺が一番若いしな」
「先生、なめられてますもんねえ」
「え、そうなの?」
「言っておきますが、わたしは躍動する筋肉を
「そうなんだろうけど……うーん」
唸る横山。
「たとえば先生だったら、女性のどこに最初に目がいきますか?」
「そりゃあ、おっ……顔かなあ」
一色が冷たい目を向ける。
「先生がおっぱい見てても誰にも注意されないのに、なんでわたしだけダメなんですか!」
「そんなこと大声で言うんじゃありません!!」
(なんだよ、この子。真面目で成績優秀な模範生徒だって思ってたのに、ギャップありすぎだろ。見た目美少女だから筋肉少年たちが惑わされちゃうし、このままだと俺が顧問の先生たちから睨まれちゃうじゃん。まったく、担任なんてなるもんじゃないな)
「……それで、一色はいつから筋肉に目覚めたわけ?」
横山に聞かれて、一色の目が輝く。
「実はですね、幼稚園のときに、大人気子ども番組〈マッスルおにいさんといっしょ〉のスタジオ収録が当たったことがあるんですよ。あれ? 知りませんか? マッスルお兄さん。見たことないかなあ」
椅子から立ち上がり、歌い踊る一色。
「ムッキムキムキ、マッスルー♪ はじけ飛ぶ胸のボタン、かわいいあの子が見てるぜ、おれの大・胸・筋!」
(え、なにこのふざけた歌詞。ダンスも変だし。これ、ホントに子ども番組なの?)
なかなか終わらない歌とダンスに、心の中で盛大な突っ込みを入れる横山。
「ふう。名曲ですよね」
一色がハンカチで汗を拭きながら椅子に座る。
「すみません、話の途中でしたね。そのステージ上で、なんとマッスルお兄さんがわたしを抱っこしてくれたんですよ! すごくないですか!?」
「スゴイスゴイ」
「もっと感情込めてください! 一番の自慢なんですから。マッスルお兄さんが抱っこしてくれたときの、逞しい身体の感触が忘れられなくて。たぶん、あれがきっかけで筋肉愛に目覚めたんです」
「気持ち悪い幼稚園児だな。でも、一色って確か父親いたよな? 抱っことかしてくれなかったのか?」
「父には贅肉しかありません」
「あ……なんか、ごめん」
「いえ、いいんです。家族に理想の筋肉を求めるつもりはありません。わたし自身、いくら鍛えても筋肉がつかないので、そういう家系なんでしょう。だから、せめて遠くから愛でるだけでもと思って見学してたのに、それをやめろだなんて……」
悲しげな声を出す一色。
「悪いな。なんとか我慢してくれるとありがたいんだが」
「だったら、代わりに先生の身体を見せてください」
「俺の?」
「はい」
「いや、なに言ってんだ? だいたい、俺の身体なんか見たってしょうがないだろ」
「は? そっちこそ何言ってるんですか。わたしの目は誤魔化されませんよ! 長年培った筋肉センサーがビシバシ反応してます。先生って、大きめのスーツで隠してますけど、実はいい身体してますよね」
一色の目がギラリと光る。
「ひっ」
思わず両手で身体を隠す横山。
「さあ、出し惜しみしないで見せてください」
「や、やめろ、こっちに来るな」
「ハアハア」
「やめて―――!」
しばしの沈黙。
「うっ、ひどい。もうお婿に行けない」
「大袈裟ですねぇ。ちょっと腹筋見ただけじゃないですか」
「どこの世界に教師をひん剥く女子高生がいるんだ!」
「いやあ、それにしても見事な
「わー、そこはダメ!」
「いいじゃないですか、ハアハア。ここまで来たら一緒ですよ。観念して――」
「いい加減にしろ!」
横山が一色の頭にゲンコツを落とす。
「いったあ。ひどぉい、暴力反対!」
「正当防衛だ。まったく、女生徒に触るわけにもいかないから我慢してりゃあ、やりたい放題だな」
「まあいいです。いいもの見せてもらったので」
「じゃあ、もう筋肉の鑑賞はやめるんだな?」
「しょうがありません。約束ですからね」
「よし。じゃあ、この件はこれでお終いだ。帰っていいぞ」
「はい。では、失礼します」
「おお、気をつけて帰れよ」
指導室から一色が退出する。
「ああ、疲れた。なんなんだ、あいつは。でもまあ、これで一件落着だな」
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