第12話 期待と落胆
「はい」
「俺、
「すぐ行くわ」
守梨はインターフォンを切ると、1階に降りて玄関を開ける。立っていた祐ちゃんは守梨の顔を見て、少しほっとした様に息を吐いた。
「顔色、ようなったな」
「え、私そんな顔色悪かった?」
守梨が意表を突かれて慌てると、祐ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「少しな。あんま食べてへんかったやろ」
「……うん、まぁ」
今度は守梨が苦笑する番だった。祐ちゃんの前で取り
「祐ちゃん、いつもごめん」
「何が? それより邪魔してええか?」
「あ、うん、もちろん」
祐ちゃんは何も無かった様に言うと、スニーカーを脱いで上がって来る。
「おやっさんとお袋さんと話したいから、店の方、ええか?」
「うん。でも話って」
「うん、ちょっとな」
守梨は首を傾げながらも、祐ちゃんと連なってお店の方に向かう。住居エリアとお店は廊下で繋がっていた。普段は施錠しているドアを開けると、厨房に出た。サンダルが置かれているので、ふたりはそれを履く。
祐ちゃんは厨房をぐるりと見渡し「こっちや無いな」と呟き、フロアに向かう。守梨も続いた。
そしてフロアに出てすぐ「あ、いてはった」と、顔を綻ばせた。祐ちゃんの目線の先は厨房と繋がるドアの付近。昨日両親がいると祐ちゃんが教えてくれたところと変わらなかった。
どうやら両親は昨日からそこを動いていない。守梨が昨日今日と話しかけていた場所には、両親がいてくれたということだ。どこにいても両親はきっと話を聞いてくれていただろうが、、守梨はほっとする。
祐ちゃんは両親がいると言う場所に話しかけている。時々
「ありがとうございます!」
そう言って頭を下げた。どういうことだ。祐ちゃんは幽霊が見えても、声は聞こえないと確かに言っていたはずだ。なのに今、祐ちゃんは両親と会話をしていた様に見える。
祐ちゃんが右手をお父さんに
守梨が呆然と祐ちゃんを見ていたからか、祐ちゃんは守梨を安心させるかの様に口角を上げた。
「実はな、先生にこれ作ってもろて来てん」
そう言って祐ちゃんが青いシャツの胸ポケットから出したのは、濃紺のお守り袋だった。
「中は開けられへんけど、これがあったら、俺でも幽霊と話できんねん」
「先生って?」
祐ちゃんだって社会人なのだから、学校などの先生のことでは無いだろう。
「霊能者の先生。俺が幽霊見えるって分かってから、何かあった時には世話になってんねん。大国町に住んではる」
「初めて聞いた……」
なんとなくショックを受けて呟くと、祐ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「何や言うたら引かれると思ってな」
「引かへんよ。当たり前やん」
そう思われることが心外だった。秘密のひとつやふたつぐらい、誰にだってあるだろう。だが、守梨は祐ちゃんが幽霊を見ることができることを知っている。なら霊能者と呼ばれる人と関係があっても驚きやしない。
それと同時に、祐ちゃんには自分が知らないところで苦労があったのだろうと察せられた。守梨はこれまで色んな話を祐ちゃんに聞いてもらっていたのだが、祐ちゃんにはきっと守梨に言えないこともあったのだろう。それはきっと、守梨に嫌な思いをさせないためだ。
「祐ちゃん、私、怖いこととかあれへんから、もし祐ちゃんが良かったらお話して欲しい。私ばっかり聞いてもろて頼って、悪いもん。私や頼り無いと思うけど」
守梨が訴えると、祐ちゃんは面食らった様に目を白黒させる。
「守梨を頼り無いなんて思ったことあれへんよ。ただ、幽霊の話なんか、聞いてもおもんないやろ」
「そんなこと無い。もちろんいちばん頼りになるんは、その「先生」やろうし、私は話を聞くことしかできひんかも知れんけど」
自分が幽霊のことに関して役立たずなんてことは百も承知だ。だが話をすることで、祐ちゃんが少しでも楽になったり気が晴れたりするのなら、それぐらいはできると思うのだ。
祐ちゃんはふわりと頬を和ませた。
「ありがとうな」
「……ううん」
お礼を言われたことが嬉しくて、守梨ははにかんだ。
「あ、ねぇ祐ちゃん、そのお守り、それがあったらお父さんとお母さんの声が聞こえる様になるってこと?」
「そうやで」
「じゃ、じゃあさ、それがあったら、私もお父さんお母さんと、お話できる様になるん?」
「どうやろ、俺は霊感があるからいけんねん。守梨には霊感が無いから、あかんかも知れへん」
「やってみて、ええ?」
「うん」
祐ちゃんはあっさりと守梨にお守りを渡してくれた。守梨は祈る様にお守りを両手で包み込み、両親がいるはずのところに目線を向ける。やはり姿は見えないが、せめて声だけでも聞くことができたら。期待と願いを込めて、守梨は両親を呼んだ。
「お父さん、お母さん……?」
だが、守梨の耳には何も届かない。響かない。やはり霊感の無い守梨には、お守りは意味が無いのか。守梨は落胆した。
「やっぱり……あかんかぁ……」
泣き笑いになってしまう守梨の肩を、祐ちゃんがそっと撫でてくれた。
「でも、守梨の話は聞いてくれてはるから。もしおやっさんたちが守梨に言いたいことがあったら、俺が伝えるから」
「……うん」
守梨は溢れて流れそうになった涙を、手の甲でそっと拭った。
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