第144話 ダンジョン51階 1

 新しいステータス画面の検証を終えたことで、皆の育成方針がだいぶ掴めたと思う。

 ただ、問題なのは『俺をどう育てるか?』という事だろう。

 良くも悪くも平均的で特徴のない俺は何を目指すべきなのか?


 パーティーメンバーのサポートに徹すると言うのなら、今の職業である奴隷マスターの道を進むしかないのだろう。この道の先になにがあるか、まだ良く解らないが弓スキルを上げても、皆の火力に追いつけるとは思えない。


 慌ててスキルレベルを上げる必要もないが、基本的に奴隷関係のスキルを上げていくという事で俺の育成方針は良いのかもしれない――。


 次の日。

 俺は皆を集めて、今後もダンジョンの下層をさらに目指していこうと思うが、どうだろうかと皆に意見を求めてみた。


「ご主人様、私に任せてください。100階でも1000階でも、どこまでも行きますよ!」


「マッピングは俺に任せてくれよな。未開のダンジョン探索なんて燃えるぜ!」


「…………」


「ワシも今のこのパーティーの戦力なら、まだまだ深く潜れると思うぞ。ただ探索者ギルド的には未探索エリアという事になっておる。この先の事前情報はなくなるから気を付けねばならないとは思うが、このパーティーなら大丈夫じゃ。もっと奥まで行って見るべきじゃろう」


「ふむ? 余は当然、まだ先に進むものと思っていたが、ここで辞める理由などあるのか?」


 俺が思ったより、みんなの士気は高いようだ。むしろここらで進むのを辞めようかなと思っていたのは、俺だけだったのかもしれない。

 ユウがさっそく外へと歩き出した。きっと彼女も先に進む気まんまんなのだろう。


 特に準備も必要ないので、それではこのまま51階に挑戦してみよう――。


 まずは50階のゲートへ移動。

 そういえば弓を取られたショックで51階には進まずに50階のゲートから戻ってきたのだった。


 まあ、あの放心状態で未知の51階に進むと言うのは危険だったと思う。特に考えていなかったが、我ながら良い判断だ。GJ! あの時の俺。


 50階の広い部屋を進むと奥に階段が見えてきた。実はちょっと警戒していたのだが、女神はもう現れないようだ。


 地下51階へと階段を降りると土がむき出しの洞窟の様な所に出た。50階の真っ白な神殿の様な景色とは、ずいぶんと様子が違う。

 洞窟の様なダンジョンを警戒しながら奥へと進むと、すぐに51階のゲートが現れた。


 特に次のゲートまで何も起きる事はなかったが、それは結果論だ。あの時の俺の判断が正しかったのは何も変わらない。


 ゲートの先、1本道の洞窟の様なダンジョンを先へと進むと、奥がやけに明るい。50階も明るかったが、さらに明るいようだ。もっと先へ進むとどんどん明るくなってくる。


 洞窟を抜けると草原が広がっていた。


 外じゃん。

 外に出てしまった。これでダンジョンは終わりなのか?

 いや、女神はまだ半分といっていた。まだダンジョンはあるはずだし、署長も50階より先があるような事を言っていたと思う。


 署長は忙しそうだったが、もっと詳しい話を聞きに行くべきだったかもしれない。


「外に出てしまったが、これで終わりという事もなかろう。マコトよ。この草原が51階という事でいいのか?」


「解りませんが、とりあえずここを中心に周囲を探索してみましょう。何かあるかもしれません」


「これじゃマッピングどころじゃないな。でも遠くの山とか近くの森をメモって現在地が解るようにしておくぜ」


 51階ゲートのある洞窟を中心に草原を探索する――。


 この辺りの魔物は恐竜のトリケラトプスのような形をした魔物だった。


 見上げるほどの大きさではないが、ゾウ位の大きさがあって今まで出会った魔物の中では一番大きいかもしれない。


 前面に生えた巨大なツノをこちらに向けて突進してくる様はなかなか迫力がある。トリケラトプスは49階ボスのミノタウロスよりも大きさだけは大きいようだ。

 はたしてモモちゃんはこの突進を受け止める事ができるだろうか?


 俺はモモちゃんを信じて後ろで身がまえていたが、ガレフは突進にひるむことなく前に出て魔法を唱えた。


「マッドスワンプ」


 トリケラトプスの足元が黒く染まり沼が現れる。突進してきたトリケラトプスは足を取られ、派手にすっ転んだ。

 ミノタウロスは軽く躱したマッドスワンプだが、トリケラトプスにはそういう知恵がなかったのだろう。警戒する様子もなく足を突っ込んだ。


 転んで勢いのなくなったトリケラトプスをモモちゃんが盾で抑え込む。その後はみなでタコ殴り。トリケラトプスの皮は鎧の様に硬くて時間はかかったが、危なげなく戦闘は終了した。

 ミノタウロスよりも巨大なトリケラトプスに警戒したが、戦闘が終わってみれば余裕の勝利である――。


 トリケラトプスの死体をマジックバッグに収納しているとモモちゃんが話しかけてきた。


「この子は美味しいですかねえ? いったいどんな味がするのでしょう?」


「え? 食べれるの?」


「え? 食べれないお肉なんてあるのですか?」


 どうかなあ? なんだか粘土みたいな色をしていて、この肉には食欲が湧かないのだが…………。


「この魔物のどこに価値が解らないから、解体は町の業者に任せようかな? どこでお願いできるか探索者ギルドで聞いてみよう」


「そうですね。私もこの子は解体した事ありません」


 そのあとは草原を探索しながらトリケラトプスを狩っていく、広いが見晴らしの良い草原には何もなさそうな事が解ってきた。


 草原に何もないとすると森に入っていくしかなさそうだ。カレンに声をかけて森へと向かう。


 ダンジョン内で森に入るとは思っていなかったが、この森には何があるのだろうか――――?



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