第141話 ダンジョン50階 4

 お風呂のリラックス効果なのか、とても優しい気持ちになれたが弓のことを思い出したらまた怒りがこみ上げてきた。

 やはり、あの女に何とかやり返したいという気持ちが、まだ残っている。


 とりあえず俺はダンジョンの地下100階を目指すべきだろう。日本に帰りたいという気持ちもあるし、地下100階に行けば、またあの女がノコノコ出てくるだろうから、そこで何とか一矢報いたい。


 物理的にやっつけるみたいな方法は女神を名乗るだけあって、あの女には難しいかもしれないが、100階に到達するまでに何かいい方法を考えようと思う。


 しかし、俺の行動はどの程度、あの女に監視されているのだろうか?


 あまり見られていると何かしらの作戦を俺が立てても、『知ってますよ?』とか言われて復讐達成ならずとなってしまいそうだ。それ以前に何かしようと準備しても気が付かれたら、すぐに邪魔してくるかもしれない………。


 うーん、でもどうだろう? あの時の女との会話を思い返してみるとクレセントレイガンをどうやって手に入れたのか? とか聞かれた気がする。


 もしかして俺が調子に乗って、出会い頭にヘッドショットとか決めたからクレセントレイガンの存在がバレただけで、元々は俺がつよつよ弓を手に入れたことは知らなかったとか?


 それはありえるか……。


 そうすると弓を盗られたのは俺のミスという事になるが、まあ過ぎたことは仕方がない。だいたいクレセントレイガンもぶっ壊れだが、それよりカレンの因果律操作の方が危険だと思う。


 あの女が本当にこの世界を管理しているなら、あのスキルを放置する事はできないだろう。もし知られたら弱体化か、もしくは消去されてしまうかもしれない。まだ何もされてないと言う事は知られてないと考えてもいいと思う。


 もちろん女が知っているが何らかの理由で放置してると言う事も考えられるが、とりあえずあの女にはこちらから情報を渡さない方が良さそうだ。あとはユウのスキルポイント2倍貰えているのも知られない方がいいだろう。あれも強い。


 もし次に現れることがあったら、その辺は要注意だ。逆に俺は弓を盗られた事なんて気にしてませんよ? という風に接して、向こうの情報を聞き出して弱点を探らなければならない。現状では打つ手なしだ。もっと情報が欲しい。


 あの女には100階到達前に何度か現れて情報を落としてくれると助かるな。

 それに日本に帰るかどうかも、100階到達までに考えればいいのだ。こちらの世界に来たばかりならさっさと帰るが、今はもうただ帰るというわけにはいかない。


 すべての人類を幸せにしようとなどとは思わないが、身近な人くらい幸せにしてあげたい。これも何か妙案を考える必要がある――。


 すっかり考え込んでしまった……。

 これ以上、風呂に入っていてはのぼせてしまう。とりあえず目標ははっきりとした。ザパッと風呂から出た俺は――


「地下100階を目指す!」


 俺はフルチン仁王立ちで高らかに宣言した。


 この時に偶然、風呂場に双子姉妹あたりが現れて恥ずかしい所をみられたり、俺が覗かれた被害者なのに『マコトさんのエッチ!』などと変質者扱いされた上に暴行を受ける。

 などという理不尽なイベントが起きる事はなく、この後に飯食ってグッスリ寝ることができたのは、俺がこの世界の主人公ではないという事だろう。


 なぜ急にそんな事を考えたか? それは急に話が動き出して、俺がまるで物語の中心人物かのような錯覚を覚えてしまったからだ。


 しかし、これで俺が主人公ではないというのは証明されただろう。こういうのは俺が主人公なら必須イベントのはずだ。


 もしくはカレンがそういうのは望んでいないのかもしれない。あの子が望めばスキルが発動して実際にイベントが起きてしまいそうだから怖い。

 カレンが望みそうなイベントは戦闘系の熱いバトルだろうか? 

 それも嫌だな……。


 あの弓がないと俺に楽な戦いなどないだろう。

 この先、あの女に目をつけられてしまった俺はチートスキルを手に入れて俺が無双するというのは、もう諦めないといけないのかもしれない。派手に俺が暴れるのは控えた方が良さそうだ。


 今まで通りパーティーメンバーに頑張ってもらって、俺は後方指示とサポートに徹するべきなのかもしれない。


 最近は調子にのりすぎていたのだろうか? そう、レベルが上がって俺も強くなった気になってしまっていたのだ。

 いや、実際に強くなってはいるのだが、他のパーティーメンバーが強すぎて、比べてしまうと全然弱い。


 メンバーと張り合うべきではないのに、それでムキになって無理していた気もする。時間を止められてしまった時も、以前ならいきなりこっちから攻撃なんてしなかったかもしれない……。


 やはり人には向き不向きがあるのだろう。

 男なら一度は俺ツエーしてみたかったが、性格的にも前線に出るのは向いていない気がするし、強くなったらなったで調子に乗って失敗するのも良くわかった。


 地下100階を目指すと決めたのだから、俺にできることでパーティーに貢献していこう。


 幸い、主人公系チートキャラは十分揃っている――。


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