第140話 ダンジョン50階 3
は?
はぁーーーーーー!?
なになになに? どういうこと?
え? 俺のつよつよ弓がなくなっちゃったんだけど?
あ、あれだな女神様が持って消えたのだから、あとでパワーアップして戻してくれるとか?
いや、没収って言ってたか……………………。
こ、殺す…………。あの女神を殺るしかない。
俺の欲するものは、クソ女神の命のみ!
しかし、問題はどうやってあいつを倒すかだ。俺の攻撃はまったく通じなかった。偉業達成のお願いに『お前の命を寄こせ!』と言っても『ダメです』とか言われそう…………。
だが、許せん。なんとか100階までに手段を考えて、クソ女神をこの世から消し去ってやる!
「ご主人様…………。怖い顔をしてどうしたのですか?」
「そうだぜ、院長。お腹痛いのか?」
モモちゃんとカレンが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。クソ女神が消えたからか、時が動き出した様だ。
「弓を盗られた…………」 俺は何とか声を絞り出した。
言葉にすると認めてしまうようでつらい。実際にクレセントレイガンはもう手元にないのだから、諦めるしかないのだが、諦めきれない俺がいる。
「え? いつ盗られたんだ? 弓ってさっき宝箱からだした弓か?」
「そうだ。せっかくカレンが俺の為にだしてくれたのに、スマン…………」
「でも、ここに来るまでの間に誰とも会ってないぜ? 誰に盗られたんだよ」
「誰かは解らないが、白いローブを着た女だ。どうも時間を操れるらしく、一瞬のすきにやられてしまった」
本当は自ら手渡してしまったのだが、俺がバカみたいなので、そこは黙っておく。
「ふーむ、時を操る魔法使いが現れて、弓を盗んでいったというのか? 余はそのような魔法使いの存在を聞いた事がないな。もし本当に時を操れるなら、どうにもならないではないか」
「ワシも知らんぞ。そんな魔法があるのか?」
「でも、実際にみんな固まってたぞ。あれは時間を止めてたんだと思う」
「ふむ、まあマコトがそう言うなら、そうなんだろう。今後気を付けようと言いたい所だが、気を付けようがない所が問題だな」
「こちらに危害を加えるつもりはなさそうだったから、今は放っておくしかないかもしれない」
残念だが現状では俺たちがクソ女神に何か出来る事はなさそうだ。
「はぁ、あの弓は気に入ってたのにガッカリだよ…………」
「ご主人様、元気出してください。ご主人様は戦わなくていいんですよ。あの弓の分も私が戦いますから、ご主人様は見ててください」
モモちゃんは俺に気を使って優しいことを言ってくれるが、ただ見てるだけというのもタイクツなのだ。俺もつよつよ弓で無双したかった…………。
なんだか気持ちが萎えてしまったので今日のダンジョン探索は終了にして、50階のゲートから孤児院へと帰ることにした――。
せっかく50階を突破したのに良い気分が台無しだ。
本当は50階突破記念パーティーでもしようかと考えていたのだが、そんな気分にもなれない…………。
こういう時はとりあえず風呂だ!
地下の温泉に入りながら今後の事など色々考えてみよう――。
ふぅーー。風呂はいい。気持ちが落ち着く――。
さて、そもそもの話だが、あの女が泥棒とか詐欺師だった可能性はないだろうか? 俺の弓狙いで女神の名を語って近づいてきた、と言う事もあるのだろうか? あの弓にはそれだけ価値があるような気がする――。
それはさすがにないか、あの女は俺のことに詳しすぎる。
俺は自分が違う世界から来た事や、ステータス画面の事は誰にも話していない。今のパーティーメンバーは信用しているので別に話しても良いが、特別話す必要性も感じられないので話していない。ステータス画面を見せて上げる事ができるなら簡単に説明できるが、見えないのに話しても意味が解らないだろう。
そんな誰も知らないはずの事をあの女は知っていたのだ。この世界の管理者というのは本当の事なのだと思う。弓を盗られたので騙された気分になっているが、おそらくあの女は俺に嘘はついていないのだろう。
という事は、元の世界。日本に俺は帰れる可能性があるという事だ。
はっきり言って俺は帰るというのは諦めていた。帰れないのを前提に少しでもこの世界でいい暮らしが出来るように頑張ってきたのだ。
最近はここでの生活もなかなか良い感じになってきたと思う。
それでも帰りたいと思うか? それが問題だ。
俺は果たして日本に帰りたいのか?
俺は…………。
帰りたい!
という気持ちもある。
こちらに来て信頼できる仲間もできた。孤児院の経営という仕事もある。そのおかげで収入もあるし、充実した生活をおくれている。
日本に帰ったらまたニートだ。こちらで手に入れたものはすべて失ってしまう。
だがしかし、それでも日本にはコンビニがあるのだ!
コンビニで新作ポテチやチキン。それに甘くてシュワシュワした飲み物を買って家に帰り、アニメや動画やら漫画を見ながらそれらにむしゃぶりつく。
まさに至福の時、俺にはあの時間が必要だ!
そう、俺はこちらに来て気が付いてしまった。
幸せなんてコンビニで普通に売ってたと言う事に…………。
それに、続きの気になる漫画が多すぎる。俺には異世界移住なんて無理なんだ。確かに帰ったらまた無職のニートだが、今の俺なら日本でも普通に働ける自信がある。命をかけてダンジョンに潜るより過酷な労働が日本にあるだろうか?
こりゃ、何としてでも帰らなくては!
とも思うが、俺が急に帰ったらこの孤児院はどうなってしまうのだろう? モモちゃんは泣いてしまうのではないだろうか? できればユウを喋れるようにしてあげたいとも思うし、陛下と一緒に北の大陸にも行ってみたい気もする。戦争が終われば獣人の国にもガレフ達と行けるかもしれない。
急激につよつよ弓なんて、どうでも良くなってきた。俺にはもっと大事な物があったらしい――――。
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