第138話 ダンジョン50階 1

 49階ボス部屋を出て階段を下り、50階に到着――。


 明るい。


 50階は今までと景色が全然違う。床は今まで薄汚れた石畳だったが、50階の床は大理石ではないだろうか?


 床だけでなく壁も白い石で作られているせいか、やけに明るく感じる――。


 しばらく歩くと広い部屋に出た。この部屋も同じ材質で出来ている様だが、広い部屋の天井を支える為に何本も柱が立っているのが見える。


 署長の話では何もなくて魔物も居ないと言う話だったが、油断しない方がいいだろう。あの署長が信用できないと言う事ではないが、ここはダンジョンの中だ。

 何が起こるか解らない――。


 しかし、何もないだろうという気もする。静かすぎるのだ。聞こえるのは我々の靴が床を叩く音だけ――。


 急に先頭を歩いていたカレンが立ち止まる。つられてメンバー全員止まったように見えた。

 まるで時が止まったかのように、全員が動きを止める。


 魔物か? 耳を澄ますが、何も聞こえてこない。


 辺りを静寂が支配する――。


「カレン、どうした? 何かあったのか?」


 返事がない。


 それどころか誰もピクリとも動かない。顔を覗き込んでみても、瞬きすらしていない。

 何が起きた…………?


 俺が混乱していると――。


 *カツンカツン*


 部屋の奥から足音が聞こえてきた。誰かがこちらに歩いてきている。

 白いローブを着た女の様だ。


 まだ誰も動くことができない。

 俺は何故か抵抗できたようだが、何かしらの魔法を掛けられたのだろうか? 

 みんなが動けるようになるまで、俺が時間を稼がなければならない。


 俺は新しく手に入れた弓を構え、クレセントレイガンを放つ。


 ヘッドショット!

 狙い通り光が女の顔を撃ち抜いた。


 あ、いきなり頭を狙うのは良くなかった様な気がしてきたぞ……。

 足を狙って足止めをするべきだった。慌てすぎて冷静に判断する事が出来なかったようだ。


 俺は罪悪感を感じたが、女は何事も無かったかのように、こちらに向かって歩いている。

 どういう事だ? 


 確かに光の矢はあの女の頭を撃ち抜いたはずだ。俺は慌ててマジックバッグから、今度はコンポジットボウを取り出して、矢を放つ――。


 クレセントレイガンは何故か効かなかったようなので、普通の矢で攻撃するしかない。矢は女の胸に刺さった様に見えたが、そのまますり抜けて地面に刺さる。


 この女は実体がないのか? 幽霊とか、そういう存在か? 

 しかし、だんだん近づいてきた女からはしっかりと実体があるように見える。


 どうしたらいいんだ? 貯めてあるスキルポイントを使って弓スキルか奴隷スキルを上げるか? しかし、どちらを上げても現状を打破できるとは思えない。

 だからと言って、このまま弓で攻撃をしていてもダメだろう。

 俺の攻撃は全てすり抜けている。


 さっきまでの全能感は何処に行ったんだ。俺たちは強くなった。

 むしろ最強じゃね? と思っていたのに、今は絶望感しかない…………。



「マコトくん。おめでとうございます! よくここまでたどり着きました。50階はこのダンジョンのちょうど中間地点です。最奥を目指して、もう一踏ん張り、頑張りましょう!」


 なんか普通に話しかけてきた!


「えーと、あなたはどなたでしょうか? こんな所で何をしているのですか?」


「あ、私はこの世界の管理者的な存在です。女神と考えて貰ってもいいですよ。ほら、それらしい格好してみたのですけど、どうですか?」


 たしかにこの女が身にまとった白いローブは神様が着てそうな古代ギリシャの服みたいだ。でも女神かと言われると何かが圧倒的に足りない。彼女からはオーラとか神の力みたいな物を感じられない。


「それで、管理者さんはここで何をしているのですか? 私は弓であなたを攻撃してしまいましたが大丈夫ですか? そして俺の仲間に何をしたのですか?」


「あなたのお仲間には何もしていませんよ。2人でお話しできるようにマコトくん以外の時間を停止しているだけです。あと、ここはダンジョン内なので、当然マコトくんから攻撃をされると思っていました。だからそれも問題ないです。それと私の事は女神さまと呼んで頂けると、わざわざこんな格好したかいがあるという物なんですが…………」


「それはあなたが光の神ルミエルだと言う事ですか?」

 この世界に神は2人だけという話だ。まさか暗黒神の方を名乗ったりはしないだろう。


「いえ、それは別にいますので、違いますね。私はこの世界を管理している女神的な存在です」


「では、管理人さんですね」 

 彼女は全くもって女神っぽくないんだよなあ。


「ま、まあ何と呼んで頂いても構いませんよ。ちょっと悲しいですが…………」


「それで、どんなご用件なんですか?」


「まずは女神の祝福を与えに来たのですが、それは必要なかったみたいですね。あとは予想より進行が速いので、情報開示レベルを上げようかと思っています」


「え、女神の祝福? 女神様、祝福が欲しいです!」


「? そのくだりはもうやりましたよね? 最初におめでとうございます! って言いましたよ?」


 あー、祝福って本当におめでとうって言うだけなのか…………。


「あれがそうだったんですね。女神の祝福っていうレアスキルみたいなのが貰えるのかと思いました…………」


「マコトくんはレアスキルなんて要らないでしょ? そんなものなくても立派にやってますよ。ああいうのが生きていくうえで、あまり役に立たないというのは、マコトくんが一番よく解ってると思います」


 ? この人は何を言っているんだ? 


 俺ほどレアスキルを欲している人間が他にいるだろうか? なんせパーティーメンバーは全員魔法が使えたりレアスキルを持っているのに、俺だけ持っていないのだ。


 でもまあ、みんながレアスキルを有効活用して幸せに暮らしているかといえば、そんな事はないだろう。どちらかと言えば不幸な人生をおくっている。そういう意味で言えば女神様(自称)の言ってることは理解できるかな。


 だからといってレアスキルが要らないという事にはならない。貰えるなら欲しいぞ。


「要ります! このダンジョンをもっと奥に進むなら、俺にもレアスキルが必要です!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る