第110話 ロレッタの復讐 3
「ほら、言ったでしょ。ジレットの野郎は用心深くて、なかなか出てこないのよ」
俺とロレッタは顔を見合わせる。
署長はなぜジレットが現れなかったか解っていない様だが、俺は解ってしまった。おそらくロレッタも気づいている。
モモちゃんとユウは頭脳労働をする気がないので、考えてもいないだろう。ロレッタから貰った串肉を幸せそうな顔をして食べている。
2人は自分の仕事をしっかりとこなしたからね。当然の報酬だ。
さて、何故ジレットは現れなかったか? その真相だが俺は町の外に出てすぐに気が付いてしまった。署長が目立つ!
署長はただ普通に前を向いて歩いているだけなのだが、周りの人からはチラチラと見られていた。この町の変わった格好をした有名人なのだろう。当然バウンティーハンターギルドの署長であることも知れ渡っているはずだ。
はたしてその署長の近くで犯罪を犯そうなどと思うだろうか? 俺もこの作戦を実行する前に気づくべきだったと思うが、俺は署長の影響力を過小評価していたように思う。
実際に署長が町の外を歩くと、商人などの一般人はチラチラ署長の事を見ていたが、ゴロツキの様な探索者たちは下を向いて目を合わせないように必死だった。もし犯罪者があの場にいれば署長の視界に入らないようにあわてて逃げ出すであろう。
バウンティーハンターギルドでも似たような囮を使って、おびき寄せるというような事をしたようだが、その時も署長の影響力からジレットは出てこなかったのだと思う。
こうなると署長はバウンティーハントに向いてないのでは? と思ってしまうが彼女の主な仕事は拷問のようなので、賞金首を捕まえた後は仲間の居場所を吐かせたり、隠し金のありかを吐かせたりと大活躍なのだろう。
この署長はハンティングの際には邪魔になる! という事が解った訳だが、どうしたものか? 署長を抜きでやれば、すぐにジレットは出てきそうだが、捕まえ損ねてロレッタだけ攫われたなんて事になったら悲惨すぎる。
ロレッタはまた3歳の頃に戻ってしまうだろう。その時に俺はどうなるか解らないが、試してみたいとは思わない。
ジレットから見つからないように、ロレッタのそばに署長を配置できれば良いのだが、果たしてそんな事が可能だろうか――?
「署長。ジレットはおそらく署長にビビッて出てこなかったのだと思います!」
俺は直球で攻める事にした。
「私もそう思います。バウンティーハンターギルドの署長の近くでは、さすがのジレットも拉致誘拐をしようとは思わなかったようです」
やっぱりロレッタも気づいていたようだ。
「そうかしら? 私はだいぶ大人しく歩いていたわよ? 今日は歩きながらムチを振り回すのも我慢したのよ? いつもパトロール中はムチで威嚇しながら練り歩くんだからね。それが治安の向上に役立っているのよん」
やっぱりこの人は頭がおかしい。レベルアップの恩恵は知性に反映されないのだろうか? レベル82だぞ…………。
「署長は歩いてるだけでオーラが凄いので、犯罪者が逃げ出してしまうのだと思います。ジレットが署長を見かけたら絶対に出て来ないでしょう」
「ちょっと何よ。私、抜きでやろうっていうの? それはロレッタちゃんが危ないわ。あなた達が思っているよりもジレットは厄介よ」
「ええ、俺もロレッタを危険な目に遭わせるつもりはないです。そこで署長には身隠しのマントを装備して貰いたいと思います。身を隠した状態でロレッタの背後に居て貰えれば、ジレットからは見えないですし、ロレッタが攫われる事もないでしょう」
「そういえば、最初はロレッタちゃんに身隠しのマントを使うとか言ってたわね。ふーん、それなら上手くいきそうな気がするわ。ケチケチしないで最初から使いなさいよね」
「今、思いついたので……。ただ、これからもう一回ロレッタが町から出てくると言うのは怪しすぎるので明日の同じ時間にもう一度、今度は署長に身隠しのマントを装備して貰って挑戦するというのは、どうでしょうか?」
「確かに何回もロレッタちゃんがウロウロしていたら、罠かもしれないと警戒されちゃうかもね。私は大丈夫よ。明日も空いてるわ」
「そうですね。もう夕飯の時間になりそうです。今日はこの辺にして孤児院に帰りましょう」
ロレッタ母さんが夕飯の心配をしだした、これは早く帰らなければならない。
「じゃあ、ここで今日は解散して、また明日バウンティーハンターギルドに伺いますよ」
「あら、解散なんて寂しいわ。ちょうどお腹もすいてきたから、私も夕飯にお呼ばれしちゃおうかな」
まずい! 署長がこちらをチラ見している。あれは夕飯にご招待される気満々だ。できれば孤児院に部外者を入れたくないのだが、断る理由が思いつかないぞ。
「ご飯は大勢で食べた方が美味しいですよ! だから、私たちと一緒に夕ご飯を食べましょう。孤児院のご飯はとても美味しいですからね。それにお風呂もありますよ。私がお背中流してあげます」
モモちゃん…………。せめて地下のお風呂の事は内緒にしてほしかった。
でも、まあしょうがないかな。夕飯の席にみんながキレイさっぱりのホカホカ湯上りで出てきたら署長も気づくだろうし。
「そうですね。署長には明日もお世話になりますから、今日は夕飯にご招待して、おもてなしさせて貰いますよ」
「あら、そう? 悪いわね。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな? でもさすがにお風呂はないでしょ?」
「それがあるんですよ。地下を掘ったらお湯が出てきたので、天然温泉かけ流しのお風呂を作ってしまいました。他の人には内緒にしておいてくださいね」
「あらあら、それはすごく楽しみね。さっそく孤児院に帰りましょ!」
こうなっては仕方がない。今日の事でこの町での署長の強さと影響力がよく解った。仲良くなっておいて損はないだろう。
精一杯おもてなししてやろうじゃないか――――。
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