第98話 ダンジョン40階ボス

 ダンジョン40階ボス部屋に到着――。


 40階ボスはブラックローズという巨大な黒いバラ1体のみだ。ラフレシアに似ているが、もっと大きく、ツタも棘になっていて長く太いらしい。


 今回、色々な魔法を覚えたが、どの魔法がブラックローズに効果的かと考えると悩ましい。正直どれも効果が薄いような気がする。


 陛下の魔法

 ヴェノムバグ:バラがハエを嫌がるとは思えないが、毒状態にできれば効果あるか?

 ソーンウィップ:バラが動き回るとも思えないので、意味なしか。

 ダークミスト:目がないので効果は薄いと思われる。


 ガレフの魔法

 クレイウォール、ストーンウォール:壁系はダンジョンで出せない。

 マッドバレット:ダークミストと効果が被っている。

 ストーンバレット:ガレフのメイン攻撃手段。

 ピットフォール:ダンジョンでは使えない

 マッドスワンプ:動きが少ないバラには効果薄い、むしろ邪魔。

 プロテクト:唯一のバフ。切らさないようにすること!


 一通り考えてみたがストーンバレットとプロテクトは普段から使える魔法なので

 除外すると、40階ボス戦で特別有用な魔法はなさそう…………。


 土魔法と闇魔法は効果的な相手とそうではない敵の差が激しいような気がする。


 今回は火魔法であったら効果的であっただろう。またデバフは効果がない敵もいるが、バフだったら必ず戦闘が有利になると思う。


 もしかして闇魔法が微妙なのか? まあまだ闇魔法については、これからポテンシャルが発揮されるのであろうと期待したい。


 しかし、そうなるとこの40階ボス戦は力押しでの総攻撃となる。戦闘が始まったら前衛は突っ込み、後衛は攻撃開始。相手の息の根が止まるまで、ひたすら攻撃あるのみ。

 作戦という程のものになってないが、今回はこれしかないだろう。

 いつもこんな感じな気もするが…………。



 パーティーメンバーの皆には魔法の効果が微妙なので、最初から総攻撃をかけるように伝える。脳筋ぎみな前衛は解りやすい作戦にテンションが上がる。ユウですらなんとなく嬉しそうに見えた。


 ボス部屋の扉をあけて中に入る――。


 思っていたよりもブラックローズがデカイ…………。本体らしき黒いバラの部分もトラックぐらいあるが、その周りを蠢く棘(うごめくいばら)が取り巻いていて、本体の花の部分までたどり着くのが大変そうだ。


 前衛はあの棘を搔き分けて中心までいかなくてはならないのか…………。

 どうやらここは遠距離攻撃が得意な俺が頑張るところのようだ。


 前衛がブラックローズの中心部に向けて走り出し、俺とガレフは遠距離からの攻撃を開始する。しかしガレフのストーンバレットは直線的に放たれるので棘に阻まれ中心部には届かない。


 俺の矢は放物を描き、うまく棘を避けてブラックローズの中心部に刺さり、ダメージを与える。


 その時、前衛たちは棘までたどり着くが、予想通り棘に阻まれ先には進めない。先に進めないどころかモモちゃんが棘に巻き取られ、さっそく身動きが取れなくなってきているようだ。


 これはあまり時間を掛けられない。俺は急いで矢をつがえてブラックローズの中心に向かって放つ。しかし、このまま俺の矢だけのダメージでブラックローズを倒しきれるのだろうか?


 確実に花の中心に矢は刺さっていて、ダメージを与えているという手ごたえもあるが、倒すのに時間がかかってしまう気がする。モモちゃん達がそれまで耐えられるかが問題だ。


 ん? ユウがいない! 茨に飲み込まれたか?


 俺は矢を放ちながら、ユウを探す――。


 ユウは見つからないが、ブラックローズに異変がみられる。大きな黒い花弁が飛び散り、徐々に端が削られて、花が小さくなっていくように見える。


 俺はその小さくなっていく花の中心部に狙いを定めるが――、


『バンッ』


 大きく中心部が爆ぜて、大きな黒い花弁が噴き上がる。その大量の黒い花弁は天井より部屋全体に降り注いだ。


 俺は何が起きたか解らずに一瞬ボケっとしてしまったが、真上から落ちてくる花弁に気が付き慌てて身構える。


 自分に向かって落ちてきた花弁を思わず避けたが、地面に落ちた花弁をみるかぎり害はなさそうであった。


 辺りを見渡すとモモちゃん達を取り巻いていた棘も力なく地面に落ちていて、今はもう動いていない。いったい何が起きたと言うのだろうか?


 ブラックローズが爆ぜた中心部にはなぜかユウがぼんやりと佇んでいた。


 あそこにユウが居るという事は、これはユウがやった事であろうと思うのだが、何したんだ…………。


 戦闘は終了してしまったようなので、ユウを見つめるモモちゃんと陛下と合流した。


「いったい何が起きたんだ?」 俺は前線にいた2人に声をかける。


「解らん。余が見たのは剣を構えたユウが敵の棘に触れるほど近づいた瞬間にパッと消えた所だ。余たちは巻きついてこようとする棘に苦戦するだけであったが、次にユウを見た時には中心部の花を剣で切りつけている様に見えた。それも一瞬だけユウが現れて、また消えてと剣で切りながら瞬間移動しているように見えたぞ」


「それではやはりユウがブラックローズを倒したのですね」

 モモちゃんは少し悔しそうだ。


「そうだろうな。ユウの剣は速いと思っていたが、まさか余の目でも追えないほど速いとはな」


 うーん、これが疾風剣なのだろうか? はやく新しい技を見てみたいと思っていたが、まさか速すぎてみえない技とは思わなかった…………。


「私は巻きつかれて何もできませんでした…………」


 モモちゃんはガックリと落ち込んでいる。剣で薙ぎ払う事は出来ると思うが、メイスでツタの様な棘を薙ぎ払うのは難しいだろう。


「モモちゃんとブラックローズは相性が悪かったね。棘に巻きつかれていたけどトゲで怪我してない?」


「心配してくれて、ありがとうございます。でも大丈夫です。もう治りました」


 まあ、あのくらいのトゲでの擦り傷はモモちゃんなら怪我の内に入らないか……。


 ユウがゆっくりとこちらに向かって歩き出した。本当はユウに何したのか聞きたいのだが、教えてくれないだろう。疾風剣もただ速く移動しているだけなのか、ワープしているのかとか検証したい。

 なんとかしてユウともっとコミュニケーション取りたいのだが…………。


「宝箱あったぞー!」


 カレンの元気な声が広い部屋に響き渡る――――。


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