第89話 ダンジョン37階

 36階のウッドゴーレム1体は今のパーティーメンバーの相手ではない。どうもこのダンジョンは魔物のバランスが悪い様に感じる。35階に比べて36階の難易度が低いのだ。普通は逆だろうと思う。


 でも、まあウッドゴーレムも弱いわけではないので、相性の問題なのかもしれない。例えば自分1人だったらウッドゴーレムは倒せない。矢は刺さるがダメージを与えている様には見えないからだ。


 逆にラフレシアやマタンゴなら俺でも倒すことは出来る。もちろん危険なので1人で戦おうとは思わないが……。


 俺、個人ではウッドゴーレムの方が相性悪いわけだが、パーティーで考えると逆になる。このパーティーは雑多な寄せ集め感が凄いが、様々な魔物に対応できるという点で優れたパーティーなのかもしれない――。


 などと考えていたら37階についてしまった。


 ぼんやり考え事などしていたのは36階で急に暇になってしまったせいだが、37階からはウッドゴーレムが複数出てくるので俺も忙しくなってきた。


 対スケルトンの時に覚えた関節に矢を打ち込んで動作を鈍らせると言うのが、ウッドゴーレムにも有効だったからだ。


 味方に当てない様にウッドゴーレムの関節を狙うのは難易度が高いが、シュパッと刺さって上手くいくと大変気持ちがいい。


 ユウもここでの戦いに慣れて来たのか、ウッドゴーレムの首を刎ねる事が多くなってきた。


 俺が膝に矢を打ち込み、動きが鈍ったウッドゴーレムの首をユウが刎ねる。このコンビネーションが決まると、さらに俺は脳汁が吹き出し興奮する。


 戦闘も上手くいくとなかなか楽しい。これなら陽キャがサッカーやバスケではしゃぐ気持ちも解る。当時はウザイと思っていたが、こういう感じだったのだろう。これは学生時代にも味わいたかった…………。


 37階のウッドゴーレムを狩りつくし、38階のゲートより帰還する――。


 ダンジョンの外に出るとすっかり暗くなっていた。


 今日はちょっと頑張りすぎたのかもしれない。俺も途中から楽しくなってきて、張り切りすぎてしまった気がする。皆もいつもより口数が少なく、これは疲れているのだろう。


 体が重い…………。


 こういう時、日本だったら風呂に入りたいのだが、こちらに来てから風呂は見かけていない。ないのだろうか? 銭湯があれば最高なのだが。


「カレン、この町に風呂ってないのか? 今日はみんな長くダンジョンに籠って疲れただろうから、風呂に入って英気を養いたいんだけどな」


「うーん、俺は風呂なんか入った事ないぜ。貴族の屋敷にはあるらしいが、俺は見た事もないから、どこにあるかは解らないぞ」


「確かに、こんな時はひとっ風呂浴びるのがいいと思うぞ。余も狩りの後は必ず風呂に入っていたものだ。我が城の風呂は大理石で出来た自慢の一品であってな、よく客人に羨ましがられたものよ」


「そうするとこの町に公衆浴場みたいな物はないのかぁ」

 なんか陛下の話を聞いたら余計に入りたくなったな。


「誰でも入れる風呂なんてものはないぜ」


 うーむ、これは由々しき問題だ。日本人である俺の快適な異世界ライフに風呂はかかせない。


 今までは我慢していたが、この町のどこかにあるだろう、金に余裕ができたら入りに行こうと思っていたのに、まさか存在しないとは…………。


 作るしかないのか? 五右衛門風呂みたいなものか、お湯を貯める桶を作るか? どちらを作ったとしても入るのに手間がかかるな。


 体が疲れた日に入りたいのに、風呂に入る準備に手間がかかるようでは、意味がない。


 どうしたものか…………。


「温泉なら地下から掘り当てられるぞ。深く掘ればだいたい出てくるものじゃし、孤児院の地下からは匂いがするから、少し掘れば出てくるはずじゃ」


「おお、ガレフ! 素晴らしい発見じゃないか、なんで今まで教えてくれなかったんだ?」


「地面を掘れば、水やらお湯やら出るのは当然じゃろう。問題はそれをどう処理するかなんじゃ」


「そんなもんなのか? あまり地面とか掘った事ないからなあ」


「まあ、この町は川まで下水道が完備されてるから排水は問題ない。それで、地下に浴場を作るか? 露天もできるが、地上にお湯をあげるのは大変だぞ」


「簡単な方で良いよ。はやく入れるようになった方がいいからね」


「それじゃあ、ワシは先に帰ってとりあえず掘ってみるぞ。運が良ければそのまま入れるからな」


「ガレフは疲れてないのか? 今日は大変だったろ?」


「ワシは別に疲れておらんな。まだ魔法は使えるから問題ないぞ。じゃあ後でな」


 ガレフが1人急いで帰ろうとするので、慌ててカレンとユウを付けてあげる。1人行動は危ないし、モグラ族1人で歩かせるのはトラブルの元だろう。


 残った3人はギルドに換金へと向かう――。


 大量の魔石を換金して貰い、ローズさんに凄い凄いと褒めて貰う。

 今日は大変儲かった。

 昨日購入したポーションが高くて、懐が寂しくなっていた所なので、とても助かる。


 ギルドを出た所で――。


「余はエールを所望する。風呂上がりには冷えたエールが必要だ」


 おお、風呂上がりの飲み物は考えてなかった。俺はビールよりもスト〇ングゼ〇の方が好みだったが、風呂上がりならビールもありだな。


 たしかエールはあんまり苦くないビールだった気がする。近所のスーパーで何とかエールとして売られていたのを飲んだ覚えがある。


「エールってなんですか? 食べ物ですか? 私はお腹が空きました」 グー


「エールはお酒だから、モモちゃんは辞めておいた方がいいかな……」


「あ、お酒は頭が痛くなるので辞めておきます。私はお肉がいいです」


「それがいいね。肉はまだマジックバッグにあるから、広場にエールを買いに行こう」


 エールも前にワインを買った所で売っているだろうか――

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