第59話 奴隷3人目 2

 思っていたのとは違う結果になってしまったが、良い買い物ができたと思う。そう思いながらガレフを見ると、いつの間にかフードを被っていた。ガレフは古びた魔法使いが着るようなローブを着ていたが、そのフードを被ったようだ。先っぽだけ外に出ている鼻がヒクヒクしていて可愛い。


「ガレフのローブはずいぶん古そうだな。新しい服を買いにいこうか?」


「ワシはボロでも構わないが、主人が気に入らないなら他の服でもいいぞ。しかしフードか帽子は被らせて貰わないと、眩しくて昼間は外を出歩けないんじゃ。モグラ族は夜目は利くが光は苦手じゃ」


「そうなんだ、まあガレフは魔法使いだからフード付きのローブか、つばの広いとんがり帽子なんかもいいかもね」


「とんがり帽子? まあ装備は主人にお任せじゃ」


「あとは杖とかはどうだ? 魔法使うときに必要か?」


「魔法を使うときに必要なものというのは特にないんじゃ。杖やらワンドはあれば使うが無くても困らん」


 そういったものか。ガレフの装備はダンジョンで魔法を使ってみるまではとりあえず保留にしておこう。

 暗くなってきたので、孤児院に帰る事にする――。


「ただいまー、新しい仲間を連れて来たよ。今日からここでみんなと一緒に暮らすから、よろしくね」


 夕飯時なので食堂に集まっていた子供たちに報告すると、みんなの視線がガレフに集中する。子供たちは何が起きたか解らないと言った様子で困惑中だ。


「ワシはモグラ族のガレフじゃ。この主人の世話になる事になったから、よろしくな」


 ガレフが子供たちに挨拶をするが、反応は薄い。ケインをみると何か言いたそうな顔をしてこちらを見ている。たしかケインにはインテリ奴隷教師を買いに行くと言って出かけたのに大きなモグラを買ってきたから怪しんでいるかもしれない。金貨50枚もしたと言ったらもっと驚くであろう。


「みんなー、このモグラさんは魔法が使えるんだよ」


 ブタちゃんが微妙な空気に耐えられなかったのか、ガレフが魔法使いだという事を勝手に話してしまった。別に秘密と言う訳ではないので、孤児院で話す分には問題ないのだけど…………。


 案の定、子供たちは魔法が見たい! と大騒ぎになった。最初はひいていた子供達も今はガレフを取り囲んで魔法をみせてとせがんでいる。こうなってはしょうがない。危ないからダンジョンの中でと思っていたが……。


「ガレフ、庭でちょっと魔法を見る事できる? 危なくないかな?」


「ワシの魔法はまだ危険な魔法は少ないから問題ないと思うぞ」


「じゃあ、安全そうな魔法を少し頼むよ」 みんなを連れて孤児院の庭に移動する。どんな魔法を使うか解らないが、庭は十分な広さがあるので大丈夫だろう。


「主人よ、ワシが今使える魔法はクレイウォール、マッドバレット、ストーンバレット、ピットフォールくらいじゃ。ストーンバレットは少し危ないから辞めておこう」


 魔法の名前を聞いた感じで、どんな魔法かなんとなくは解るがみてみたい。


「それではいくぞ。クレイウォール!」 ガレフの差し出した手の方向に土の壁が出現する。崩れにくそうな粘土状の壁だ。


「マッドバレット!」 次にガレフの手から泥団子の様なものが飛び出して土の壁に当たり、ビシャッと潰れて飛び散った。


「ピットフォール!」 土の壁の手前に人が1人すっぽりハマれる程の穴が開いた。


 現象としては凄いことが起きたわけではないが、いきなり物質が出てきたり消えたりするのは驚きだ。周りの子供達も『スゲー!』と興奮している。ただ凄く戦力になるかと言えばこれは微妙だ。


「どうじゃ? 主人よ。ワシの魔法はこんな感じじゃ。あの穴は後でクレイウォールを使って埋めておくぞ」


「魔法凄かったです! いきなりドーン! って大きな壁が出るんですね!」 ブタちゃんも大興奮だ。ユウは魔法を見たのか見てないのか……。相変わらずの無表情で遠くをみつめている。


「いやあ、結構迫力があったね。マッドバレットは目つぶしになるんじゃない?」


「そうじゃ、顔に当てれば一瞬ひるませる事ができる。ダメージは与えられないから、そっちはストーンバレットじゃな。クレイウォールも習練を積めば、ストーンウォールを使えるようになるらしいんじゃ」


 たしかガレフの土魔法のレベルはまだ5だったから、今のガレフの話だとレベルをあげていけば新しい魔法を覚えていくようだ。何を覚えるのか楽しみだな。


「みなさーん、ご飯が出来ましたよ。夕食にしますから食堂にもどってくださーい」


 ロレッタがみんなを呼びに来た。今日の献立は何だろうか? 具材が少し変わるだけで基本シチューなのでたまには違うのが食べたい。唐揚げとか懐かしいな…………。


 作るか? 醤油がないから塩唐揚げになってしまうが、油とニンニクは売っているのを見かけた、小麦粉もある。鶏肉も売っているだろう。明日の帰りに買ってみようか――。


 食堂に戻り、食卓にみんな座るがガレフが座ろうとしない。


「おいおい、奴隷がそんな偉そうに座っていていいのかな? 主人と一緒に飯食うのか?」


 子供達と一緒に席に座ってパンが配られるを待っているブタちゃんを見て、ガレフは驚いているようだ。


「いいのです。ご飯はみんなで食べた方が美味しいと優しいご主人様は言うので、ここでは奴隷も一緒に同じものを食べるのです」


 そんなこと言ったかなあ? いや、全然ブタちゃんが言ったその通りだとは思うのだけど、そんなこと言う前に普通に今の席にブタちゃんは座っていたような気がするのだけど…………。


「まあ…………。そういうことだから。ガレフも早く座って、ロレッタのシチュー美味しいよ」


 ブタちゃんに突っ込むのは諦めよう。おそらくブタちゃんの中では俺がそう言ったという事になっているのだろうし、それで問題はない。しかし本来は奴隷と主人の立場というのはガレフの考えの方が正しいのかもしれない。俺とブタちゃんは出会った時から2人で食料を分け合って、同じものを食べてきたから気にもしなかったけど…………。


 ガレフはシチューを気に入ってくれたようで、パンと一緒にたくさん食べてくれた。その後、すっかり子供たちの人気者になったガレフはユウと同じように寝室へと拉致されてしまった。


 ガレフ用の小さいベッドも頼まないといけないな。まあ、娘が来てからでいいか――――。

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