第25話 ダンジョン 4

 町に入るが門番はもう何も言わない。覚えられたのだろう。探索者ギルドは北門から入ってすぐにあるので真直ぐ建物に入る。


 探索者ギルドに入って正面のカウンターが受付の様だ。大きな会社の受付嬢みたいな女性がカウンターの向こうに座っている。


「いらっしゃいませ、こちらは探索者ギルドです。どの様なご用件でしょうか?」


 カウンターに近づくと向こうから声を掛けられた。


「こんにちは。買取をお願いしたい」


 チラッとケインを見るとケインは頷き、鞄からオオトカゲの目をカウンターに出す。


「かしこまりました。買取はこちらのカウンターで承ります。素材はオオトカゲの目ですね。1、2、3……56! 新鮮な状態ですが、今日1日で狩ってきたのですか?」


「はい、そうですね」


「凄い! 1日で28匹もオオトカゲを狩る事が出来るのは中級者でも難しいと思います。探索者ギルドには入会されてますか?」


「いいえ、ギルドには入ってないです」


「それでは探索者ギルドについて簡単に説明させて頂きます。探索者ギルドとはダンジョンを探索する人同士の互助会です。素材の買取はギルド員以外の方からも承りますが、あちらの掲示板の依頼はギルド員でないと受ける事が出来ません。またギルドで実績を積みますと融資を受けたり特別な依頼を受ける事が出来ます。またダンジョン内での情報について共有することが出来ます」


 なるほど…………。依頼か、昨日少し掲示板見たけど何かの素材を3個募集とかそういうのみたいだ。


 現状素材を限定されてしまうのは美味しくないので依頼はスルーで良いな。


 融資も必要ないし、特別な依頼と言うのは気になるけど今は必要なさそう。


 ダンジョン情報の共有は気になる。色々教えてもらいたいが、こちらも教えないといけないのかな?


「ダンジョンの情報共有というのは具体的にどんな事ですか?」


「ギルド員になるとダンジョン内で起きた事の報告が義務付けられます。たとえば未踏破エリアを探索したらマップの報告をお願いしますし、普段現れない場所で見た事ない魔物が出没したら報告して頂きます。それらの情報を元に2階の図書室の資料が更新されます。ギルド員は図書室の資料の閲覧が許可されますので、それを参考にダンジョン探索のプランを立てる事が出来ます」


 これは凄いメリットだ。今はケインが居るから必要ないけどケインもそのうち知らない事が出てくるだろう。


「図書室は良いですね。ギルド員はいつでも入室できるのですか?」


「はい、いつでも可能です。入室料は金貨1枚で何時間でも滞在できます。料金に関しましてはギルド登録料が金貨1枚、年会費に金貨1枚を収めていただきます」


 お金かかるのか……それじゃあ急ぐ必要はなさそうだな。


「解りました。説明ありがとうございます。将来的にはギルド加入したいと思いますが、今はまだ辞めておきます」


「そうですか……いつでも加入出来ますので、ご希望の時は言ってください。お待ちしております――。あ、ちょうど精算が終わりました。オオトカゲの目は銀貨1枚ですので56個で金貨5枚と銀貨6枚になります。お納めください」


 ギルド員になるには3人で金貨6枚は必要になるからしばらくは無理だなあ。他に必要なものがいっぱいある。


「ありがとう。あ、そうだ。アイテムの買取もここで良いのかな?」


「はい、こちらで承っております」


「この皮の手袋なんだけど……」ブタちゃんの方を見るがブタちゃんは良く解ってない。


 しょうがないので俺がブタちゃんの手袋を外して受付に置く。


「査定して参りますので少々お待ちください」 受付のお姉さんは皮手袋をもって奥へと行ってしまった。


「皮の手袋は金貨1枚だぜ」 確かこのアイテムが出た時もケインはそう言っていたな。


「お待たせしました。皮の手袋は金貨1枚になります。そちらでよろしければ買取致しますが、如何なさいますか?」


「今回は自分たちで使おうと思いますので辞めておきます」


「解りました。またのご利用をお待ちしております」


 皮手袋を受け取りブタちゃんに渡す。


「今日は色々ありがとうございました。また来ます」


 これで今日の儲けは金貨6枚と銀貨6枚に確定したな。


「ケイン、今日の取り分だ」ケインに金貨2枚と銀貨2枚を渡す。


「本当にこんなに貰っていいのかよ」


「ああ、良く働いてくれた。これからも頼むよ」


「ありがとな、じゃあまた明日!」ケインは駆け足で去っていく。


「金も手に入ったし飯にしようか」 「はい!」


 酒場に行こうかと思ったが、この飢餓状態のブタちゃんを連れて行ったら今日の儲けが吹っ飛ぶ恐れがあるのではないか?


 そうするとお肉屋さんで肉を買って、またダンジョンの前で大量に焼いた方が安上がりだな。そうしよう、しかしそうなると今夜も野営か……。


 食べてからまた町に戻って宿に素泊まりするのも面倒だし、何か良い方法はないものか。


「よし、お肉屋さんで肉をいっぱい買おう」 いい考えは浮かばないので肉を焼く。


「私はイノシシの肉が良いです!」


 ブタちゃんは野営でもお腹いっぱいになれば、それで良いのだろう。野営ならば節約できるというメリットがあるから、浮いたお金で装備を整えていくべきか…………。


 実は気になっていた事がある。ブタちゃんのこん棒が細くなっているのだ。これは木製ではブタちゃんの怪力に耐えられず削れていってるのだと思う。


 折れてしまう前に金属製のこん棒にグレードアップしなくてはならない。


 お肉屋さんでイノシシ肉を大量に買ってから武器屋へと向かう。この町は広場の周りにお店が集まっているので、買い物にはとても便利だ。


「こんばんはー」 「へいらっしゃい!」


 武器屋にはいると恰幅の良い男が挨拶をしてくれた。


 壁一面に様々な武器が並んでいるのをみると、思っていたより大量の武器があると感じる。さすがにダンジョンの町という事なのか……。


 どうやら壁に掛かっている武器は高級品のようだ。金貨20枚やら30枚の値札が付いている。棚に置かれているものは金貨一桁台だがそれでも手が出ない。


 奥のカウンター横に金貨3枚の文字が見える。どうやらカウンター横の木箱に突っ込まれている武器はどれでも金貨3枚らしい。


 素材は銅かな? 様々な形の剣やらメイスやらが何本もある。


「ブタちゃん、このメイスはどう?」 適当にその中のメイスを1本ブタちゃんに渡す。


「ちょっと軽いですね」ブタちゃんが持つとそのメイスは短く細く見える。


「この中から好きなのを1本選んでみてよ」


 見た目ではあまり代り映えしないが持つと違うかもしれない。


 ブタちゃんがメイスを選んでいる間に弓を見に行く。弓はどうやら一番安いのでも金貨5枚からの様だ。


 次は革の鎧などを手に入れたいので弓を買うのは当分先になりそうだな。


「ご主人様、この中だとこれが良さそうな気がします。さっきのとあまり変わりませんが……」


「じゃあそれにしようか」 一番安い武器では満足いかないのはしょうがない。いつか特注のデッカイメイスを振り回して貰いたいものだ。


「いいのですか? ご主人様の弓を先に買った方がよろしいのでは?」


「いや、良いんだ。戦うのはブタちゃんだし、木のこん棒じゃいつ折れるか不安だからね。そのメイスも今だけだ。すぐにもっと良い武器に買い替えるよ。じゃあそれカウンターに持って行って」 ブタちゃんがカウンターにメイスを置く


「これお願いします」 「銅のメイスは金貨3枚になります」


 会計を済ませて外に出るとすっかり辺りは暗くなってきている。


「遅くなってしまった。急いで野営の準備しよう。そして肉を焼こう」 「はい!」――


 大量の肉を焼きブタちゃんにどんどん食べさせると、みるみるうちに元の体形へとブタちゃんは戻っていく。


 やはり戦闘すると消耗が激しいようだ。これはダンジョンに潜っている間は自炊しないといけないな。


 それとももっと稼げるようになれば食堂や酒場で食事しても大丈夫か? 


 いや、装備を揃えるにはかなり金がかかりそうだ。しばらくは節約自炊生活を送る必要がある。ある程度強くなって安全に稼げるようになるのはまだ先の話だろう。


 その頃には宿屋で生活できるようになっていると良いが……。

しかし食費が…………。


 今日買った肉を全てブタちゃんに与え終わったので寝る事にする。ダンジョン探索後のエンドレスBBQ。もう疲れた……。


「おやすみブタちゃん……」


「おやすみなさい。ご主人様。今日もお肉美味しかったです!」


 ブタちゃんの満足そうな笑みをみると混乱する。本当に俺がご主人様なのだろうか?


 いやきっと気のせいだ。疲れているだけだ。早く寝よう、そうしよう――――。


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