第13話 村 2

 ぼんやりとこれからの事を考えながら広場に戻ってみると、何やら騒がしい。

 子供達が何やら騒ぎながら石を投げている。


「村から出てけ! このブタ野郎!」「臭えんだよ! 死ねや!」


 うわー…………。


 とんでもない事になっている。どこの世界も子供は容赦ないな。さすがに見てられない。


「おい! 俺の奴隷に何してる!」 大きな声を出しながら走り寄る。


「やべえ、飼い主が来たぞ!」 子どもたちはあっという間に逃げ去ってしまった。


 残ったのは頭から血を流したブタちゃんのみ。


「大丈夫か?」


 何事もなかったかのように普通の顔をしているブタちゃんは全然大丈夫そうだが、声を掛ける。


「はい、大丈夫ですよ。ご主人様」


「でも血が出てるぞ……」


「これくらいすぐ治りますよ」


 本人が気にした様子はないので、俺も気にしてない風にしておく。おそらくこれ位はブタちゃんの予想の範囲内なのだろう。


 俺は全然予想していなかったが、この世界ではこれが当たり前のようだ。


 差別とか人権とかそういう文化的な要素はまだ発達していないのだろう。あまり発達し過ぎていても息苦しい世の中になってしまうが、これはちょっとヒドイな。


 村の中ではブタちゃんから目を離さないようにしよう。


 買い物もあらかた済んだので、酒場で宿のシステムを聞いてみる。もうブタちゃんを1人で置いていけないので酒場まで連れて行くことにした。


 まだ昼間なので客はほとんど居ないようだ。


「すいません、こちらでは宿泊もできると聞いたのですが」


「ああ、食事付きの宿屋もやってるよ。1泊食事付きで銀貨5枚だ。食事なしは4枚」


「2人だと幾らになりますか?」


「2人だと単純に倍だが…… そのオークはダメだぞ! 部屋に上げないでくれ。裏に馬小屋があるからそっちに繋いでくれ、銀貨1枚だ」


「部屋に上げるわけにはいけませんか? 目を離したくないのですが」


「悪いが部屋はダメだ。次に部屋を借りる客が嫌がる。狭い村だからすぐに話が広まるしな」


「そうですか」 思ったとおり無理そうだ。しかも値段も高い。宿は諦めるべきだな。


「ご主人様、私は馬小屋で十分ですよ」


「いや、盗まれても困るし辞めておこう」 宿屋の主人の手前適当に言い訳して酒場を出る。


「少し村から離れた森にまた家を建てよう。しばらくこの辺りで狩りをして旅費を稼がなくてはならない」


「はい、獲物の解体はお任せ下さい」


 村を離れて人や建物が目に入らない森まで移動した。小川を探して近くに家を建てることにする。


「もう人目もないから、首輪をはずそうか」


「首輪は着けたままで良いですよ。紐だけ外して下さい」


「そうか」 首輪はもうはずす気がないようだ。紐は邪魔なだけだからさっさと外してあげる。


 今回はブタちゃんも手伝ってくれるから、石と粘土で壁を作る事にした。ブタちゃんには大きめの石を集めてもらい、俺は川のそばで粘土を探す。


 石を運んで貰ったら俺が集まった石を四角く並べている間に今度はブタちゃんには粘土を運んできて貰う。


 石を並べたらその上に粘土を載せて、その上にまた石を積む。


 ブタちゃんには石と粘土の運搬を頼み俺は石を積む。ブタちゃんがデカイから高さは2.5mは積まないと狭い。


 かなりの重労働だが、一番疲れる運搬をブタちゃんがやってくれるから助かる。俺1人だったらこの建築方法を取る事はできない。


 もうすぐ日が暮れる。


 壁はまだ途中だが今日は諦めて、屋根がわりに葉のついたままの枝を切ってきて隙間なく載せておく。雨が降らなければ大丈夫だろう、続きはまた明日にする。


 家の真ん中で火をおこす。今日はフライパンを置けるように石を周りに積んでおいた。


 今日は野菜が手に入ったから、楽しみだ。


 それと小麦粉!


 こいつは色々使える。今日はシンプルに水と塩と小麦粉を混ぜてねって薄く伸ばしてフライパンで焼く。パンにはならないがこいつで肉と焼いた野菜を挟めば美味いはず。


 ブタちゃんに小麦粉をこねてもらい、その間に買ってきた野菜を切っておく。


 こねてもらった生地を薄く伸ばしてフライパンで焼くと見た目はピザとかナンみたいな感じだ。

 イースト菌があればふっくらするのだろうが、そもそもイースト菌ってなんだろうか?


 解らない。


 重曹でも混ぜれば膨らんだと思うが……。重曹が何なのかまでは知らない。まあパンを売っている所を見かけたから、そのうち手に入るだろう。


 次は干し肉と野菜を焼いていく。ズッキーニは意外とただ焼くだけでも美味しい。


 ブタちゃんは大人しく見ているだけだ。俺の料理の腕を信用してくれているのであろう。しかし料理らしき事をするのはこっちに来てから、初めてなんじゃないかな。


 今までは肉を焼いただけ、と言ってもあれはあれで火加減が難しかったが……。


 実家のIHヒーターやオーブンレンジが懐かしいな。今日はフライパンで焼いてるから直火よりはマシだが、焚き火で弱火とかは難しかった。


 野菜とナンもどきも焼いたから、今までよりは料理をしていると言う気分にはなれる。干し肉と野菜が焼けたらナンもどきに乗せて折りたたみ完成だ!


 ブタちゃんに手渡すとさっそくパクつく


「ご主人様、これは美味しいです! 何という料理なんですか?初めて食べました」


 料理名? 考えてなかった……これは何だろうか?


「俺の地元のサンドイッチという料理だ」 色々違うと思うが一番近いのはサンドイッチだろう。


「聞いたことあります! これがサンドイッチだったんですね。美味しいです」


 説明するのも面倒なので、そういうことにしておこう。俺も自分の分を作って食べてみる。なかなか美味いな。久しぶりの野菜が美味すぎる。ナンも素朴な味で悪くない。


 欲を言えばナンがボソついているので油を混ぜたり生地を発酵させたりすると良いのだろうな。


 俺は一つで腹が膨れたがブタちゃんが足りなそうなのでドンドン焼いて渡す。野菜は貴重なのでブタちゃん用に肉増しサンドだ。


 俺はデザートにリンゴを半分に切って食べる。俺の知っている普通のリンゴだ。


 こっちの世界と食べ物は殆んど一緒な様だな。異世界と言っても共通点が多い気がする。違うのは亜人とモンスターと魔法の存在くらいで後は今のところ違いが解らない。


 俺が知らないだけって事もあるとは思うのだけど…………。


「美味しくて、いくらでも食べれますね」


 考え事をしている間もブタちゃんは食べ続けていたようだ。残りの半分のリンゴも渡す。


「あ、これも美味しいですね。リンゴでしたっけ? 私の村には無かったです」


 他の地域との交流や流通がないと食べる物も限定されてしまうようだ。そういう意味では日本は世界中の食材や料理が食べられるから恵まれていたね。


「オークはパン焼いたり料理とかしないの?」


「オークは肉を焼くだけですね。塩すらしない事もありますよ。私は味のない肉は苦手だったのでご主人様の作ってくださる料理は最高です」


 ブタちゃんは喜んでいるようだが何でもウマイと言いそうだから、あまりあてにならないな。お腹がいっぱい。今日もたくさん働いた。もうすでに体力の限界……。


「あ、ご主人様。寝るならこちらに来て下さい」ブタちゃんが呼んでいる。


 ブタちゃんに寄りかかり本日も就寝。良く眠れそうだ――――。

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