第3-1話
はじめて魔物を倒した日から数日経ったが、いまだパーティーを組むことはできておらず、討伐依頼を受けることができないので、ひとりで採取依頼を受けてはたまに魔物を倒して過ごしている。
儀式では授かれなかったメインクラスを新たに得ることができたことを公表すれば、話題にもなるだろうし、パーティーも組むことができるかもしれない。
しかし、人は未知を恐れるものだ。今まで聞いたこともない正体不明のクラスを公表することで、また儀式の時みたいに不吉だなんだとあることないこと言われる可能性もある。そうしたことを天秤にかけて考えた結果、公表はせず秘匿することを決めた。
レベルも3に上がり、サブクラスについては先日試したメインクラスの強力なスキルを活かすためにも戦士にすることにした。直前に教会で確認したステータスはこんなカンジだ。
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ガラン 男 14歳 レベル3
■メインクラス : フェイスレス
倒した相手の持つスキルから1つを得る。スキルは全部で3つまで獲得でき、自由に使用することができる。
▶スキル1.サクイカヅチ
万物を切り裂く強力な力を持った雷を剣に纏わす。
▶スキル2.なし
▶スキル3.なし
▶スキル4.鑑定(スキル)
相手のスキルを覗き見ることができる。
■サブクラス : 戦士
戦士系初級職
▶スキル1.身体強化Lv.1
一定期間、身体能力が向上する。
▶スキル2.剣術Lv.1
刃のある武器を使用する際、攻撃力が上昇する。
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ちなみにまだスキルを持った魔物とは出会ったことはない。当面の目標はスキルを持った魔物を見つけて倒すことだ。
今よりレベルも上がってきたら、もっと強い魔物がいるところへ行ってみるつもりだ。
今日も依頼を探しにギルドに顔を出すと、ベローナさんから声をかけられた。
「ガランさんおはようございます。実はガランさんに指名依頼が来ておりまして」
「僕に指名依頼が?」
自分みたいな新人冒険者に指名依頼が?何故?
「はい。新人に指名が来ることなんて稀なんですが、ガランさんの特殊な事情を知って依頼してきたようで……」
事情というと、儀式でのことを噂で聞いて依頼してきたということか。あの司祭みたいな人からの依頼だったら願い下げだけれども……
「ああ、なるほど……それで、どんな方からのどんな依頼なんでしょうか?」
「女神様についてご研究されている学者様からのご依頼です。とにかくまず会って話をしたいとのことで依頼内容についてもその時に話すと仰ってました」
これはどうなんだろう。ここまで内容がないと判断がつかない。
「ベローナさんはその方と実際にお会いしたんでしょうか?」
「はい。お会いしています。決して悪い方ではないかと思います……多分。ま、まあ、指名依頼なんてなかなかもらえるものでもないですし、話だけでも聞いてみてはいかがでしょう?」
「うーん、話を聞いてみてから、依頼を断っても大丈夫なんですよね?」
「はい。それはもちろん!」
「じゃあ、会って話を聞いてみることにします」
「ありがとうございます! では、こちらが依頼主のご住所なのでこの後、訪ねてみてください」
そう言って、ベローナさんから住所の書いたメモ用紙を渡された。
さて、じゃあ早速その学者様とやらのお宅に行ってみますか。
街の外れまでやって来ると、依頼主の家があった。家というより小屋というほうがふさわしいだろう小さな住まいだ。
「すみません。冒険者ギルドから依頼を受けて来た者ですが」
声をかけ、ドアノッカーをコンコンと二度鳴らし返事を待つ。
「……開いているから、勝手に上がってくれたまえ」
許可を得て中に入ると、狭い部屋の中はとてもゴチャゴチャしており、棚や机には何かの材料だろうか良くわからない物が乱雑に置かれ、床には本棚に入りきらなかったであろう本が山と積まれていた。
周囲を観察していると、中にいた男から声がかかる。
「やあ、君が例の冒険者くんかな?」
「例のとは何かわかりませんが、冒険者ギルドで指名依頼について聞いて、話をしに来た冒険者です。ガランと言います」
「私はエンデルだ。よろしく。
「……本当です」
それを聞いたエンデルは、そうか! 本当か!!と嬉しそうにうんうんと頷いている。
「こちらも聞いていいですか? エンデルさんはどういった
ギルドで話を聞いてまず思った疑問を口にする。
「ああ、それを話すにはまず私の前世について話そう。多くの人は前世には囚われず全く違う人生を歩むが、私は前世の影響が特段に強いのか今まで、いずれの生でも多分に漏れず今の私と同様に何かしらの研究者をしていてね。何を研究するかというと儀式を受ける前の自分が一番興味を持っていたものを研究のテーマとすることが多いんだ。今世の私は、両親の影響もあってか小さい頃から女神の敬虔な信徒でね、先程もいったが今世では女神の作ったこの世の理について研究しているんだ。この世に生きる人はただ一人の例外もなく前世の記憶を持っている。だが、君は儀式を終えても記憶が蘇ることはなくクラスも授からなかった。これは今までに一度もなかったことだ。詳しい依頼内容についてはこのあと話すが、君という存在がこれまでの研究で立ててきたいくつかの説の立証に役立つのではないかと考えて、依頼させてもらったんだ」
どうやら彼は、純粋に研究のために依頼をしてきたようだ。
「なるほど。とりあえず、理由については分かりました。詳しい依頼内容についてもお聞かせいただけますか」
「うむ。君は魔王を封印した頃の勇者や賢者の逸話や伝説を聞いたことはあるかな?」
「えっと、勇者が山のような大岩を一振で砕いたとか賢者が海を左右に割って海底に道ができたとかそういう類の話ですか?」
「そうだ。では、今代の勇者や賢者といわれる人間に同じことができると思うかい?」
「……できないと思います」
「何故できない?」
「何故って……そういった伝説は実際の事実よりかなり誇張や脚色がされて今に伝わった話だと思うからです」
「今の勇者たちだけでなく、実際には当時の勇者たちもそんなことはできなかったと?」
「はい」
依頼の話を聞きたいのに彼はいったい何の話をしているのだろうか……?
「私はね、大岩を砕いた話も海を左右に割った話も本当のことだと思っているよ」
「……では何故、現代ではそれができないんですか?」
「私が考えるに、人が転生を繰り返すたびに能力が減退していってしまっているからではないかと思っている」
「そんなことが……!?」
「仮説だがね」
これが事実なら驚くべき事実だが、もしそんなことが起こっていたとして、今の今まで誰も気づかないなんてことあるのだろうか?
「でも、今までにそんな話は聞いたことはありません……」
「一回の転生での能力の減退は誤差で済まされるぐらいの微々たるものなのさ。だから誰も自分たちの能力が徐々に減退してるなんて思いもしなかった。皆、前世の記憶を持っていると言っても鮮明なのは一代前ぐらいでそれ以前の記憶はひどく曖昧なものだし、今でこそ、二代前の賢者がステータスボードを解析改造して数値化された能力が確認できるようになったけど、それ以前はスキルとクラスを確認するだけのものだったしね」
たしかに、一回の減少が少なくそれが数値的に見えないものであれば、意外と気付かないものなのかもしれない。
「お話は分かりましたが、仮にそれが本当だったとして何か重大な問題でもあるのですか?」
「今の時点では、問題はない。人が弱くなったことで魔物が倒せなくなったという話も聞かないし、この能力減退は魔物にも適用されるのであろう。ただ……」
突然、彼はここからが本題だと言わんばかりの真剣な顔つきになり話を続ける。
「一つ、私の中で
「な、なんですか?」
「遠いむかしに封印されたという魔王はどうなんだろうか……?」
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