第2-2話

 冒険者ギルドをあとにすると早速、街を出て森に入った。まずはじめに、森の中で魔物がでないような比較的、街道に近い部分で依頼の薬草を探していく。

 しばらく辺りをくまなく探索しているとお目当ての薬草が何本か生えているところを見つけ採取する。儀式の前の一年間で身につけた知識で薬草がどんな形をしているか把握していたので簡単に見つけることができた。

 

「よし、これで依頼の本数は揃ったな」

 

 あとは、レベルアップのために魔物を見つけるだけだ。さすがに一人で魔物の群れに遭遇したら危険なので、群れからはぐれた魔物を見つけよう。

 森の深くまで入っていき、敵に見つからないように慎重に魔物を探していると、視界の先に一匹の魔物を捉えた。

 

 (コボルトだ! 周りに他の仲間は見当たらない。一匹だ。武器も見すぼらしい棍棒のみ。おあつらえ向きの相手だ)

 

 どうやら食事中のようで獲物の肉を押さえつけ、歯をむき出してうなり声をあげている。獣だったであろう肉を一心不乱に食べる姿はとても醜悪で、そこから聞こえる生々しいバリッ、グチャッという骨を砕き肉を裂く咀嚼音に恐怖を感じる。

 覚悟を決め、村を出るときに持ってきたショートソードを構えると、そっと気づかれないように背後に回り込み斬りかかった。

 

「ふっ!!」

「ギャアアア!」

 

 突然、背中を切りつけらたコボルトが叫び声をあげる。

 

(少し浅いか……?)

 

 一撃では仕留め切れず、すぐに体制を整えたコボルトが手に持った棍棒を振り下ろして反撃してきた。咄嗟に剣で受け止めると辺りにガキィンと鈍い音が鳴り響く。

 

(お、重い。最弱と言われるコボルトでもこんな力があんのかよ!!)

 

 思いもよらぬ魔物の力に面食らいながらも何とか弾き返し、間髪入れずに横薙ぎに剣を振るう。コボルトも棍棒で受け止めるが、見すぼらしい見た目通り寿命だったのか、棍棒はバキッという音を立てて根本から折れ、横薙ぎされた剣がそのままコボルトの胸を斬りつけると赤い血がドバッと勢いよく吹き出した。

 

「グギャッ!」

 

 コボルトが苦しむような声をあげる。

 止めとばかりに追撃を加えようとした時、コボルトが持っていた棍棒の柄を苦し紛れに投げつけてきた。咄嗟に反応し剣ではたき落とすが、その間に、コボルトのタックルを食らいその場に倒されてしまう。

 

「く、くそ!」

 

 組みつかれ、逃れようと必死に藻搔いていると、コボルトの鋭い牙が肩に突き立てられる。

 

「ぐわぁあああ!」

 

 肩に激痛が走り、叫び声があがる。

 それでも、肩を噛みちぎられまいとコボルトの顔に手を当て、血走った目に指を突っ込ませると目の痛みに驚いたコボルトは僕の肩から口を離し後ずさった。

 その隙をつき、コボルトの喉元に向け剣を突き刺すとコボルトの口からは血が溢れ出し、その場にうち伏したまま動かなくなった。

 

「はあ、はあ。倒したのか……?」

 

 乱れた息を整え、倒れてピクリ動かないコボルトを確認する。どうやら本当に絶命したようだ。

 すると、体の中から力が湧いてくるような感覚が全身を廻った。これがレベルアップした感覚だろうか。

 しかし、魔物一体相手に本当にギリギリの戦いだった。下手したら死んでいたかもしれない。こんな状況でまた魔物に遭遇したら今度こそ終わってしまう。肩の傷の応急処置を済ませ、コボルトの素材を回収したらすぐに街まで戻ろう。


 

 その後、無事に冒険者ギルドまで戻ってくることができた。ベローナさんはいるだろうか?

 受付で事務仕事をしているベローナさんを見つけ、声をかける。

 

「ベローナさん。依頼を達成してきたので確認をお願いします」

「ガランさん? その傷はどうしたんです! 肩なんてズタズタじゃないですか!?」

「薬草を探していたら魔物に遭遇してしまい、ベローナさんに言われたように逃げ出したんですが、ちょっと逃げきれなくって……でも、運良く倒すことができました」

 

 一応、逃げ出したと嘘をついておく。

 

「倒した!? ハァ……いろいろ言いたいことはありますが、まずは、おかえりなさい。無事に帰ってきてくれて良かったです。冒険者登録したその日に帰ってこなかったなんてことになったら私も悲しいですから」

「心配おかけして申し訳ありません。これ、依頼の薬草とコボルトの魔石です」

「もう、本当に気をつけないと駄目ですよ。じゃあ、確認してきますんで、ここでしばらくお待ちください」

 

 しばらく待っているとベローナさんが戻ってきた。

 

「依頼の報酬と素材の買い取りあわせて銅貨5枚と銀貨1枚になります。お確かめください」

「ありがとうございます」

「それから、ちゃんと教会に行って傷を見てもらうんですよ? 必ずですからね!」

「はい。ステータスも確認したいので必ず行きます」


  

 ベローナさんに別れを告げ、教会へ向かう。

 教会へ着くとステータスボードが設置されている場所までやってきた。

 

(さて、どうなるか……)

 

 緊張した面持ちでステータスボードに手をかざすと文字が浮かび上がってくる。


________________________________________________


 

ガラン 男 14歳 レベル2

27腕力 25器用さ 26耐久 25敏捷 27知力 24精神力


メインクラス : フェイスレス

 倒した相手の持つスキルから1つを得る。スキルは全部で3つまで獲得でき、自由に使用することができる。

 また、相手のスキルを確認できる鑑定スキルを上の3つのスキルとは別に得る。


スキル1.サクイカヅチ

 万物を切り裂く強力な力を持った雷を剣に纏わす。

スキル2.なし


スキル3.なし


スキル4.鑑定(スキル)

 相手のスキルを覗き見ることができる。


サブクラス : なし 


________________________________________________


  

 おお! やった! 聞いたこともないクラスだけどメインクラスがついてる!

 ステータスの上昇が大きい。それにスキルも4つある。どうやら特殊職のクラスを得たようだ。スキルについても読むかぎり非常に強力だ。

 倒した相手のスキルを得るとなっているけど、はじめからあるこのスキル1はなんなんだろう? コボルトがこんな強そうなスキルを持っていたなんてことはないだろうし……

 まあ、今はそんなことどうでもいいか! 無事、クラスを得ることができたんだ!

 サブクラスについてもメインクラスを得たことで問題なくつけれそうだ。これはよく考えてから戦士系のいずれかのクラスをつけるとしよう。

 ステータスの確認が終わったので、ベローナさんに念を押された肩の治療をしてもらってから教会をあとにした。


 

 教会を出て宿に向かっている時だった。前から儀式の時に嫌味を言ってきた村の連中が歩いてきて、僕を見つけると馬鹿にしたようなニタニタした笑みをうかべながら声をかけてきた。

 

「あれれー? からっぽのガランくんじゃないですかー。もしかしてその格好は冒険者になったのかな?」

「ああ……」

「クラスもないのに無謀じゃないのかな? 上級職を授かった俺が稽古をつけてあげようかー?」

「せっかくだけど、遠慮しとくよ。じゃあな」

「まあまあ、そう言わずに付き合ってよ。」

 

 関わり合いたくないので、すぐに話を切り上げて去ろうとするが、道を遮られて止められてしまう。

 そして、こっちだと言われ、人気のない裏路地に連れてこられた。

 

(面倒なことになったが、せっかくの機会だ。スキルやステータスの上がった今の実力を試してみよう)

 

 そんなことを考えていると相手から威勢のいい言葉がかけられる。

 

「村では負けなしでいい気になってたみたいだが、今じゃあクラスもない初級職以下のクソ雑魚だ。ギッタンギッタンにしてやるから覚悟しろよ」

「そっちこそ、御託はいいから、早く構えろよ」

「てめぇ!」

 

 こちらも挑発してやると、激高した相手が間髪入れずに斬りかかってきた。

 上級職というだけあってなかなかに鋭い剣撃が飛んでくるが全て剣でいなしていく。

 ステータスが上がったせいか、コボルトより強いであろう相手の攻撃も軽く感じる。

 

「はあはあ、クソ! 避けてばっかいねーで、テメェも攻撃してきたらどうだ!」

「じゃあ、お言葉にあまえて……」

 

 剣を構え直すとスキルを発動させる。

 

(サクイカズチ!)

 

 心の中でスキルを唱えると持っている剣の刀身に青白い雷が纏いだし、バチバチと音が立てはじめる。

 

「なんだそりゃあ……?」

 

 突然起きた現象に相手は戸惑いを見せた。

 構わずに相手へ向かって大きく踏み込むと天井を引っ掻くように真上から大きく剣を振り下ろす。

 

「シッ!」

 

 相手が頭上で剣を受けようとして、剣と剣が交わったと思った瞬間、相手の剣はバターのようにスパッと切れて弾け飛んでいった。

 

(やっべ!!)

 

 振り下ろした剣が間一髪、相手の鼻先で止まる。

 

「ば、化け物……」

 

 剣を突きつけられ戦意を喪失した相手は尻もちをつきガタガタと震えながらそう言った。

 

「じゃあな。もう絡んでくるんじゃねーぞ」




  

 格好つけて去ってみたものの、僕は内心めちゃくちゃ焦っていた。

 

(なんだあのスキル! やばすぎだろ! 危うく人を殺してしまうところだった!)

 

 今後、人に向けてあのスキルを使うのは絶対にやめようと心に誓うのだった。

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