『見逃した人も大丈夫! これさえ見ればまだ追いつける! 悪鬼王就任パレード前半戦ダイジェスト!』改訂版地上波初放送!




 ということで翌日。

 何? いきなり諸々はしょってないかって?

 ああ、はしょってるよ。でも心配しないで。特別宣伝番組改訂作業の最終確認も、明日行われるガルム女史とグニパへリル重工経営陣の会談会場セッティングも、送迎バスの手配も、イバング側の動向チェックも手抜かりなくやっておりますから。

 じゃあなんでそれを書かないのかって?

 だってそんなのいちいち列記してたら話がどこまでも長くなってダレちゃうじゃないか。

 目下重要なのは、会談という名の脅迫がスムーズに進むようにすること、並びにニコラスの暴走を抑えることだ。

 違うかな?

 違ってたとしても本題に戻りますあしからず。


 ということで翌日。

 僕は相変わらず裁判の傍聴をしている――ふりをして、ファミリアゴーストでイバング周辺を覗き見している。

 日光東照宮のバスターミナル周辺には、対悪鬼抜刀部隊とグニパヘリル重役三人衆ギブス、ブルーム、レイチェルさん。

 カイたちもいる。

 チマキさんとその関係者は……いない。都市防衛を司る地位にいるものが壁の外に出るのは、やはりまずいのだろう。

「これで分かっただろう。ペルゴー隊長は何の目的もなく女狐のもとへ赴いていたわけではないのだ」

「そうとも、あれは情報を引き出すための作戦に過ぎない。二番隊隊長ともあろうものが対悪鬼抜刀部隊の本分を忘れ、悪鬼の囲い女にうつつを抜かすなど、そんなことあるはずがないではないか」

「なんか悪口言ってたやつ謝れ」

 ……なんか二番隊隊員が他部隊隊員相手に激しくオラついている。

 アルフがガルム女史とラブラブになってから、よっぽど肩身狭い思いをしていたんだろうなと同情する次第。

 そこから少し距離を取り、ニコラス、リューバさん、ファゴット、アニキ、アルフ、と全隊長が勢揃い。

 その近くにグニパヘリル三人衆がいる。

 皆、ひどく落ち着かない様子だ。ギブスが特にそうだ。アルフにしつこく話しかけている。

「頼みますよ、頼みますよ、どうかどうかわしらから離れないでくださいよ。悪鬼王が地上に作った牙城に赴くなんて、もう恐ろしくて恐ろしくて……取って食われかねませんで……」

 でもアルフは無視。ニコラスと話をしている。

「……で、これはなんだ、ペルゴー隊長。もちろん聞き出しているのだろう?」

「もちろんだ。スクリーンTVとかいうものらしい。まあ、いうなれば、映像付きのラジオか。稼働すれば、自動的に音や映像が流せるようになるんだとさ」

 そこにファゴットが入ってくる。

「……こちらに向かってプロパガンダを打つつもりか?」

 うん。その見立てある程度は当たってる――おおっ!? リューバさんちょっと、スクリーン剣で叩くの止めて!

 壊れはしないけど一応精密機械だからこれ!

「おいおい、止めろよリューバ。壊したら向こうさんが文句言ってくるぜ」

 アニキが止めに入ってくれた。

「黙れレヴィ。こんなもの一刻も早く破壊しておかねばならん。どんな仕掛けがあるか分かったものではない!」

 でもリューバさん止めてくれそうもない。

 そこに制止をかけたのは、意外にもニコラスだった。

「よせ。マカロフスキー。こちらから手を出させるのが、奴の狙いかも知れん」

 同僚の制止ではなく大隊長の仰せとあって、リューバさんもやっと剣を引っ込めた。

 アニキは肩をすくめ、カイと話し始める。

「しっかし、えらい派手なもんだなあ。悪鬼の国ってなあ、みんなこんな感じなのかね」

「悪趣味の極みだな」

 ハルキとサクラちゃん含める五番隊員は、大型スクリーンを眺めていた。

 言い忘れたがスクリーンには、大型時計と時刻表が表示されている――僕がそうしたのだ。何にも映してないのも愛想悪いかなと思って。

「鳴り物入りで始めた割には、時刻表スカスカだなー。一日二便しかないじゃん」

「朝と夕方だけとか、しけてんなー」

「これだと歩いて行って帰っても一緒ね」

 うるさいぞ君たち。イバングからの客入りがまだ全然見込めないんだからこれでいいんだよ。歩きで行き来は疲れるだろ。君たちゃ壁外活動で遠出に慣れてるかもしれないけど、一般人はそうじゃないんだよ。

  あーと、そこはさておき、バスの朝便30分前になった。

 悪鬼ランドTV、地上波初放送開始だ。

 大型スクリーンに映っていた時刻表と時計が消え、でっかい僕の顔(むろん着ぐるみ姿だ)が映し出される。

「えっ」

「あっ」

「おっ」

 戸惑いの声を上げる視聴者の前で、画面の僕は『ヤア』とぎこちなく手を振った。

『お集りの皆さん、本日はお日柄もよく絶好の会談日和ですね』

 むろんこれは録画放送。フィルムの改訂をさせた際、ビデオメッセージを冒頭に差し込んでもらったのだ。僕がガルム女史を強力に後押ししているということを示すために。

 そうすれば、これから始まる会談がスムーズに進むだろう。

『ニューイバングにおいて新規事業を起こされるというガルムさんの意思を、僕は最大限尊重するのであります。それによって当地に多くの働き口が生まれることを大歓迎するのであります。ニューイバングは門戸を開いて、移住者をお待ちしているのであります』

 ギブスたちの顔色がとことん悪くなった。思惑通りの心理的効果が与えられたようだ。

 さあ、本番はここから。

『さて僕からの挨拶はここまでといたします。送迎バスが到着するまでの間お暇でしょうから、特別番組を見てお楽しみください』

 僕の顔が画面から消え、20世紀FOXのパクリ効果音がとどろき渡る。

 そのあとの流れは――おおむね試写通り。

『見逃した人も大丈夫! これさえ見ればまだ追いつける! 悪鬼王就任パレード前半戦ダイジェスト! 新悪鬼王ボン・コスミ様の華麗なる日常シーズン1一挙放送!』から始まって、失われた百年云々のところはほとんどそのまんま。

 いや、ほんとはそこも表現抑え気味にしたほうがいいかなーって、チラッと思いはしたのよ? 大言壮語してるみたいだから。

 だけどメフィスト関連のあれこれ直すの予想以上に時間がかかっちゃってさ……。

「なんかすげえ景気良くなってんのか、悪鬼の国ってよ」

「バカ、こんなん盛ってるに決まっているじゃないか」

「ていうかな、百年続いた戦争って、向こうから仕掛けてきたんじゃないのか」

 うっ。やっぱり評判イマイチ。



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