「此処が外の世界。都市を護るような城壁ないんだな」


「いや、あれは城壁と言うか……逃げ出さないような牢屋にしか見えないよ。外の世界はそんなのないし、皆自由に暮らしてる。ほら、たくさんのビルがあって、沢山の人が楽しそうに話していて……素敵でしょ?」


 嫌な想い出しかない都市を数日離れるために、報告書や手帳、いくつもの書類と厳しい審査をやっと通過してやってきた世界。

 そこは明るく賑やかで華やかな笑顔溢れる都市。此処は死刑は解放されておらず、死体も何も目につく嫌な匂いもなかった。


「審査のせいでに数日しか居れないけど。まぁ、楽しくやろう。移住っても金持ってるの僕だから欲しい物あったら言ってね」


「ん、あぁ。なんか悪いな」


「別にあの都市じゃ物騒だからハヤトには毒出し。働きにくいでしょ。勝手に言っちゃもんつけられてバーンッて殺されちゃやだもん」


 同級生はケラケラ笑うと知っている場所なのか、迷いなく足を運ぶ。入り組む道を進み、大通りに出てはビジネス街ふきんのアパートの二階へ。二○一号室と書かれた部屋に入ると1LDKの小さな部屋。だが、移住キャンペーン企画と書かれた書類。注意事項かと軽く目を通す。


『不満があった場合や心地悪さにて耐えられない場合は即帰宅可能』―――。


 移住ということもあり、街側も親切にしてくれているのだろう。有り難い所だな、と同級生に「来れみろよ。あの都市とは待遇が違――」と振り向くが其処には誰もいなかった。

 仕方なく備えつけのテレビを付けると『○○様と○○様がおめでたく結婚のご報告』――。『今二十代で流行りの――』とテレビのニュースの幅広さに驚き、床に胡座をかき食い見るように見る。

 幸せな報道、楽しげな報道。あの都市にはない温かい内容に俺は酔いしれていると突然テレビの画面に【速報:俳優の〇〇さんが死亡】と静かな報道に無意識に黙祷。テレビ番組を配慮したテレビ局の対応に涙が出そうになった。



          ※



 それから数日。

 少し慣れたか「日給制で僕がお金稼ぐからハヤトは残りの時間を楽しみなよ」と同級生はどこかへ行くも俺は言われた通り街を楽しもうと【〇〇通り】と人気の大通りに向かう。靴屋、カフェ、何かのキャラの専門店、大型ショッピングモールと嫌いな都市と似ているが雰囲気派全く別。変な警戒心もない聞こえるのは笑顔に溢れた楽しい声。

 女性や子供がよく手にしている黒い丸いツブツブの飲み物を飲もうと並び、出稼ぎに同級生にお土産を買っていると――突然、悲鳴が聞こえた。


 人通りが多いため通行禁止区域の大通り。

 そこに猛スピードで車が突っ込む。


 スピードは止まらず、次々と車に人が轢かれ、更に押し倒され、逃げそうと人の波が俺を襲う。だが【死刑権解放同盟都市】に居たせいか、それ程度では恐れを感じない。逃げるどころか「あの、大丈夫ですか!!」と俺の近くで倒れている女性に駆け寄ると暴走した車は電柱にぶつかり停止。

 ゆっくりとドアが開き、出てきたのはフードを深く被った男。倒れているにも関わらず「助けて」と今にも消えそうな声を出す人をナイフで刺し殺してはゆっくり俺の元へ近づく。

 だが、たまたま出会した私服警官が男にタックル。「きみ、早く逃げろ!!」と俺を助けようと勇気ある行動に俺はやっとこの状況は異常だと気づいた。


「すみません。ありがとうございます」


 駆け出し死物狂いで逃げ出すとが関係ない人々を俺の目の前で殺していた――。


 だが、その男には見覚えがあり――「マッドサイエンティスト」とあだ名で呼ぶと二カッと笑ってこっちを向く。服を真っ赤に染めながら、邪魔な人をに切り捨て「やぁ、ハヤト。外の世界にどう? 楽しい? それとも、残酷?」と狂気じみた笑み。


「なんでこんなこと……」


「ん? あれ、まだわからない? これだから【死刑権解放同盟】に賛成してる。上手く利用すれば殺し放題だからさ。アハハッ意味分かるかな?」


 血の付いたナイフを袖で拭いながら「早く逃げたほうがいいよ。此処じゃ【死刑権解放同盟】は適用されないから――」と今まで見たこと無いほど狂気に染まった同級生。いや、。味わったことのない恐怖に足が竦む。


「そりゃあ、現役の罪持ちが守ってればそうなるよね。じゃあ、同盟に“賛成”してくれるまで――無実な人を殺してやる」


 思いっきりナイフを振り、血を撒き散らしながら大笑いする同級生に俺は声すら出ない。何故か俺だけを避けて周囲の人を殺す行動に理解が出来ず、混乱する脳裏。【死刑権解放同盟】は存在しなくでいい、と思っていたが徐々にそれは打ち砕かれていく。


「やめ……ろ。辞めてくれ……分かったからもう辞めてくれ!!」


 あまりのショックにだらしないが俺は意識を失う。すると「遅いんだよ。このバーカ。さっさと賛成してればこんなことにはならなかったのに、かわいそうなやつ」とバカにする声が微かに耳に残った。

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