第3話

「また、緑色の髪が生えてる・・・・」


 現在、俺は自分の家にいる。

 洗面台の鏡を見ると、緑色の髪が根本から生えていた。

 俺は、カラートリートメントを使って、髪を黒く染めた。

 何回染めたとしても、緑色の髪は生えてくるけど、その度に染めるしかない。


「おい、髪を脱色する必要があるか?」


 洗面台の近くにいる、スクイアットロが俺に声をかけた。


「普通でいたいから、染めるんだよ。


それに、緑色の髪でいても平気なのは、ライハイツ君とそのお母さんだけだ」


 そう、ライハイツ君の父親は人間であるために黒髪黒目だけど、ライハイツ君とそのお母さんは緑色の髪と緑色の瞳だった。

 本人はきにしてなさそうだった。


 俺と、俺の母さんは、髪も黒く染めて、黒のカラコンもつけている。

 緑色の髪と、瞳なんて、人間じゃないように感じるから。


「髪を染めるなんてことは、人間しかしないし、自然の摂理ではありえないことだが」


「俺は、れっきとした人間だから、髪を染めてるの。


しかも、俺のこの目・・・・」


 俺は、鏡に映る、自身の緑色の瞳を見て、



「マジで、大嫌い・・・・」


 これから、カラコンにより、黒の変えられる緑色の瞳だ。

 寝る時は、カラコンを外して、朝になってから、毎日のようにカラコンをつけている。


「そいえば、あの子も、よく緑色の髪を黒く染めておったな」


 スクイアットロが、そう呟くものだから、


「何の話?」


「こっちの話だ。


平行世界での、記憶はどうだい?」


「徐々に、かな。


平行世界に来た時は、何がなんだかわからなくて、戸惑っていたけど、その時の記憶が情報として脳に流れ込んでくるとか、ラッキーって思った」


 平行世界に来て、しばらくすると、その場所で過ごした記憶が流れ込んでくる。

 俺が過ごした記憶ではないけれど、平行世界ではそれが真実となる。


「思ったより、適応能力が高くて、関心した。


それで、学校の方はついていけているのかい?」


「中学一年の勉強なんて、ばっちりだからさ、中学二年の勉強から始められて、俺は最高にハッピネスとしか言いようがねえ」


「お主の喋り方も、平行世界になってきておるな」


 俺は、第二の人生をスタートさせる気持ちでいた。


「忘れてないだろうな。


お主は、はっきり言ったんだ。

三人の美少女を助ける、とな」


「助ける、時間がどのくらいかかっても、助ける。


ぜってー、約束は破らねえ。


だからさ、もーちょいだけ、待ってくれね?」


 俺は、機嫌がよかった。

 俺は、小学校からで、幼稚園や保育園の経験がなかったけれど、こちらの世界では幼稚園に行ったことになっていた。

 他の人には何気ないことでも、俺には幸せなことなんだ。


 髪を染め終えた俺は、家を出る。

 幼稚園の頃からの幼馴染である、ライハイツ君に会うために。


 緑髪で、超天然なツンデレであるライハイツ君と、待ち合わせの時間に間に合ったようだ。


「遅いじゃないか、人を30秒も待たせといて」


「そんなに待ってないじゃないか」


「待ち合わせは、僕より早く来てほしかったな」


「そこまでは、期待しないでほしいな」


 俺は、言いたいことを思いっきりここで発言したいけど、公共の場でそんなことはできなかった。


「とにかく、行こう」


「待ってよ、トイレ行ってもいい・・・・?」


「え?」


「待ち合わせの時から、トイレ行きたかったけど、我慢してたの。


いいでしょ?」


 かわいい声でお願いしているけれど、


「そういうものは、なるべく早く行けよ」


 と、ツッコミを入れてから「行きたいなら、早く行ってくれないか?」と冷たく答えたところ、


「さすが、僕の最高の幼馴染」


 俺は、ツッコむ気にもなれなかった。

 こいつには、事前の準備というものがないのだろうか?


 ライハイツ君が、トイレに行くこと1時間たっても戻ってこないので、心配になって、様子を見に行くことにしたけれど、男子トイレには、なぜかライハイツ君はいなかった。


 まさか、誘拐された?

 そんな不安が頭の中をよぎる。


 ライハイツ君のことだ。

 最強であるために、強引に拉致されることはないかもしれないけれど、変な勧誘とか受けそうだし、騙されての誘拐ならありそうだ。


 俺は、ライハイツ君のことを捜しに行った。


「すいません、緑髪の男の子はいませんでしたか?」


 俺は、知らないおばあさんに声をかけた。

 とにかく、この珍しくて、目立つ髪の色なら、見た人は忘れないような気がしたから。


「緑髪?


それなら、トイレの場所を聞かれて、教えたら、別の方向に向かったよ」


 あのド天然があ。

 

 こいつは、どの平行世界に行っても、天然なのか?


 トイレの場所を自分から聞いておいて、教えてもらった方向と違う場所に向かうとか、これがライハイツ君以外の人がやっていたら、俺は完全に見捨てていたと思う。


 こうして、俺はおばあさんに言われた通りの方角に向かった。


 あいつは、見捨てちゃいけない。

 トイレも、一緒についていかないとだめとか、女子かよ。

 完全に、女子かもしれない。


 そんなことを思いながら、俺は走っていった。


 俺は、緑髪の人を見つけた。

 あれは、ライハイツ君だ。

 ライハイツ君以外、ありえない。


 だから、声をかけた。


「ライハイツ君」


 俺が肩に手を置いた瞬間、振り返ったのは違う人だった。 


「ごめんなさい、完全に人違いだったみたいです」


 俺としたことが、人違いだったとか、恥ずかしすぎる。

 だけど、緑髪の人なんて、異世界ならともかく、この世界にいるか?

 それとも、髪を染めているのか?


 だけど、緑髪なんて流行っていないし、染めるやつがいるかと、そいつの髪を眺めた。


「何を見ているのですか?」


「え?」


「あたしの顔に何かついていますか?」


「そうじゃなくて・・・。


知り合いによく似てるなーって思っていただけです。


俺、急いでいるからこの辺で」


 俺が、その場を去ろうとした瞬間に、右腕をつかまれた。


「待つのです」


「え?」


 女の子に触られたことなんてないから、俺は反応に戸惑った。


「どこに行くのですか?」


「行くって、人を捜しに」


「それって、ライハイツ様のことですか?」


「なぜ、ライハイツ君を知っているの?」


「やっぱり」


 ライハイツ君と、何か関係があるのかな?

 そう思って聞いてみることにした。


「君と同じような緑の髪を持つ、ライハイツ君を見なかったですか?


トイレに行くと行ったきり、帰ってこなくて」


「帰ってくるわけないじゃないですか。


ライハイツ様なんて、最初からいないのですから」


「いない?」


 緑髪の子は、俺の腕をそこで離してくれたけど、俺は逃げる気にならなかった。

 話の続きが気になってしょうがなかったから。


「あたしは、ライハイツのいとこである、ライハイトと申しますのです。


君は、パラレルループという、能力をお使いにならなかったですか?」


 ライハイツのいとこの、ライハイト?

 どこかで聞いたことあるような気がするけど、そんなことより、こいつが何者なのかを問い詰めよう。


「君は、何者なんだ?


なぜ、パラレルループのことを知っている?」


「そのような質問をするということは、魔女の存在がわかっていないのですね」


「君が何者なのかということと、ライハイツ君がどこに行ったかもちゃんと教えてほしいんだ。


君のことにかまっている時間はない」


 緑髪の子に警戒心が強まっていき、俺はだんだんきつくて、冷たく突き放すような口調になっていった。


「いないのですよ。


いない人を捜して、どうするのですか?


見つけられるわけないのですよ」


「いたよ!


俺はライハイツ君と一緒に学校も行ったし、こうして遊びに行ったんだ!」


「自身の能力を自覚していないのですね。


君の能力は、死に寄せですよ。


君のまわりにいる人は、自殺、事故死、他殺のどちらかの運命が待っているのですね。


別名は、歩く死神なのです。


君のまわりには、必ず事件が起こるのですよ」


 死に寄せ?

 歩く死神?


 俺は、緑髪の女の子の言うことを、何一つ理解していなかった。


「あちゃー、ついに発動しちゃったか」


 どこからか、スクイアットロが現れた。


「スクイアットロ」


「おいらは前からわかっていたけれど、さすがに本人には言いづらかったかな。

 

ライハイト、久しぶり。


目覚めは、どうだい?」



「ライハイトとスクイアットロは、知り合いなの?」


「まあね。


この子は、異空間で100年も眠りについていたんだ。


だけど、この子は多少の記憶はあるみたいだな」


「初めまして。


あたしは、ライハイトなのです。

偽名みたいなのですが、本名は憶えていないのです。


長い間、樹木の中に封印されていたのですが、目覚めることができました。

あとの二人は、まだ目覚めていないみたいなのですが。


ほとんど、記憶はないので、どうして樹木として封印されていたかは、わからないのです。

ただ、あたしは樹木の魔法が使えるのですよ。


あたしは、何かの魔女だったみたいなのですが、何の魔女かも憶えていませんなのです。


この男の子からは、死に寄せの香りがするのですが、名前はなんていうのですか?」


 死に寄せの香り?

 

「この子は、おいらのパートナーとして選ばせてもらったけれど、いじめ殺しのワンエイスのために、名前がつけられないんだ」


「そうなのですか」


「だけど、ライハイトはどうして、急に目覚めることができたんだい?


誰かに封印を解いてもらったのかい?」


「あたしにも、よくわからないのです。


だけど、目の前にライハイツ様が、血だらけの状態で倒れていたのですよ」


「そうなると、ライハイツが封印を解いたと考えていいね。


やはり、ライハイツも事件に巻き込まれたということ、か」


「はいなのです。


時すでに遅しでしたのですよ」


「しょうがないね。


死に寄せの香りがする人間とずっと一緒にいれば、遅かれ早かれ、事件に巻き込まれていたか」


「何をのんきに話しているんだ!


ライハイツ君が、死んだというのに?」


 俺は、大切な存在を失ったことを知って、怒りが抑えられそうにない。


「死に寄せの香りを持つ、お主のことだ。


これから、何人でも、お主の近くにいる限り、人が死んでいく。


だから、平行世界での両親は、君を避けたのだろう。


お主自身が生きていても、まわりにいる人の命の保証はできない。


これが、死に寄せというものだ」


「そんなわけない・・・・」


 俺は、現実を受け入れたくない。


「ならば、自身の過去を振り返るがよい。


研究員でも、だれでも、殺人事件、自殺、事故死、どれかにあてはまる事件が起こらなかっただろうか?


しかも、何回でもだ」


「ある・・・・・」


 俺は、拳をにぎりしめて答えた。

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