番外編~研究所の記憶~

 これは、俺がライハイツ叔父さんと出会う前の話。

 俺は、生まれた時から、「ワンエイスの末路」という研究所にいた。

 一応、クウォーターの子供である、何かしろのワンエイスであることはわかっていても、何のワンエイスかは聞かされていない。


 親はいるらしいけど、会ったことはない。

 今、生きているのかどうかもわからない。


 俺は、研究材料であるがために、名前がないという話があったが、当時の俺は納得できなかったけど、大人たちに反発できるほどの勇気も、力もなかった。

 体の大きい大人に叶わないことは、一目瞭然だから。


 研究所にいる白衣を着た人たちからは、6歳と聞かされた。

 誕生日がわからない上に、本当にこの年齢なのかどうかもわからない。

 

 緑色の髪は、生まれた時から切ったことがなく、アキレス腱あたりまで伸びていて、よく髪の毛に躓いては、転ぶことがあった。


「この個体は、電気を使いこなせることがわかったようです」


「では、明日から電気を引き出せるようにしよう」


 俺は、その時は自分の個室にいた。

 この個体って、誰のことを言っているのかわからなかった。


 なぜなら、この研究所にいる子供たちは、みんな名前がない。

 どうして、名前がつけられないのかわからないけど、俺は心底「名前くらい、つけてあげてもいいのに」と思っていた。


 次の日になれば、白衣を着た一人の男性に俺は呼び出された。


「何でしょうか?」


 俺は、おそるおそる聞いてみた。


「君は、自分の能力を自覚しているか?」


 唐突な質問で、俺は動揺を隠しきれなかった。

 今まで、こんなことを聞かれることがなかったから。


「自覚・・・・していないです」


「そうか。


調べたところ、君は電気の属性を持ってい折るようだが」


「電気の・・・属性?」


 俺は、何のことだかさっぱりわからなかった。

 

 生まれた時から、研究所の個室の中に閉じ込められて、体を調べれるだけの日々の中で、自分自身のこともわかってすらいないのに、何の説明もなしに、能力のことを言われても、頭の中はクエスチョンマークでしかなかった。


「君は、特殊な力を持っているんだ。


だから、能力を引き出せるように頑張っていこう」


「はい・・・・?」


 俺は意味もわからず、返事をした。


 俺は、白い個室に戻る戻ることになった。


 白い個室には、白いベッドがある。


 本棚はあるけど、娯楽みたいなものはなくて、ぜんぶ勉強に必要な本だけだった。

 俺は、勉強というものを強いられてきたせいか、この年齢の子にしてみては、学力が高い方だと思う。

 すでに、ひらがなやカタカナの読み書き、漢字もできていた。


 俺は、研究所にある学校に通っていた。

 その子供たちは様々な年齢もいたし、中には年齢がわからない子もいた。

 子供たちは、研究所にいる時から髪を切ってもらえないために、髪の毛はみんな長かった。

 髪の色は、ピンク、水色、青、黄色、オレンジ、赤、白、銀、栗色、紫、緑などたくさんの髪の色がいて、黒髪が珍しいくらいだった。


 髪を切らないのか、切れないのかわからないけど、とにかく切らしてもらえなかった。


 研究所学級と言われる、この研究所内での学校は、0歳の段階で小学校1年生の学習を始めるけれど、できなければ、1年留年となる。

 テストに合格できれば進級する形のために、同じ学年でも、年齢は様々だった。


 俺はと言うと、6歳の段階で、中学1年生の学年にいて、同じ年齢の子供はいなくて、みんな年上のお兄さん、お姉さんだった。

 俺は、生まれた時から、一度も留年したことがなく、生まれた時から勉強ができる天才だった。


 そして、体の大きいお兄さん、お姉さんに絡まれることも多かった。


「やば、これが天才の?」


「こいつ、本当に6歳なのかよ?


年齢を偽称しているだけじゃないのか?」


 その度に、俺は我慢できずに言い返していた。


「研究員に言われたんだ、6歳だって」


「また、研究員のせいにしてる」


 そう、俺はお兄さん、お姉さんに笑われるだけだった。

 

 机も高すぎて、俺は足がつかなかいし、自分で座ったり、おりることもできないので、研究員に手伝ってもらうしかなかった。


 俺は、この時から、こんな研究所を抜け出したいと思うようになった。

 同じ年齢の子と、一緒に勉強したいと心から思っているから。

 

 中学1年生のクラスにいて、 不便なことはそれだけじゃなかった。

 制服も、ぶかぶかなものしかなくて、一番小さいサイズが140センチだけど、それでも当時の俺には大きすぎる方だった。

 だけど、これしか着るものがなくて、いつもお兄さん、お姉さんたちにバカにされていた。


 バカにされて、それが悔しくて、いつか復讐してやりたいとも恨みを持つようになっていた。


 学校が終わって、研究員に呼ばれ、俺は電気を出すための特訓を始めていた。

 だけど、なかなか電気なんてでないし、どうやって出すのかもわからなかった。

 

 呪文が必要なのかもわからないし、あってもどのように呪文があるのかも知らない。

 だから、電気が出るように念じるしかなかった。

 だけど、思っただけでは、電気が発動するわけがなかった。


「おかしいですね、電気がでないですね」


「やっぱり、勘違いだったんじゃないですか?」


「そんなことはないはずなのですが・・・・」


 研究員が、言葉を濁していた。


 研究員たちが集まり、俺の体を調べていた。

 

「やはり、電気の波動を感じるますね」


「ですが、電気が出せません」


「もしかしたら、奥の潜在的な部分で眠っているのかもしれません。


そこは、何としてでも引き出さなくてはなりません」


「ですが、そんな簡単に引き出せるのですか?


呪文とかも唱えられないみたいですし」


「たしかに、この子の詳しい家系図もわかっていませんし、祖父母の情報がないんですね」


「ということは・・・・?」


「我ら、研究所でも、この子には未知な部分が存在します」


「となると、自然的な方法で能力を引き出すことは、厳しい見込みですか?」


「厳しいってことは本来ならないかもしれませんが、正しい呪文もわからない、本人が能力を自覚していないとなりますと、そのような結果になります」


「そうか。


なら、無理やりにでも、能力を引き出せるようにするしかないな」


 俺は、大人たちの会話を聞いていたけれど、何のことを言われているのかよくわからなかった。

 幼い俺には、難しい内容でしかないのか、俺の方に研究所内での情報が共有されていないから、よくわからないのか。


 だけど、いやな予感しかしなかった。


「君は、学校を休学しなさい」

 

 研究員の一人が、俺の目を見て、そう言った。


「え?」


「君は、一度も留年することなく、進学を続けて、年上の人たちに囲まれている状態だ。


なら、一年や二年ぐらい、休学しても何の問題もないはずだ」


「はい・・・・?」


「中学一年生の学級なら、十年は休学してもいいくらいだ」


 俺は喜んでいいのか、反応に困った。


「では、明日から休学しよう」


「はい」


 俺は、この時は、あいつらに会わなくていいんだという安堵感もあった。

 不安になるとしたら、これから、何が起こるのかわからないということだ。


 この日から、俺は勉強をしなくなった。

 休学が決まったんだし、勉強をしなくていいように感じたから。


 次の日になると、研究員に言われた通りに、白い台の上に横になり、ベルトみたいなもので体を巻かれた。

 そして、電気が流れた。


 俺は、悲鳴をあげた。


「これは、まだ弱い方ですよ」


 それでも、痛いものは痛かった。


「まだ、覚醒する様子がありません。


もっと、強い電気を流し込んだ方がいいかもしれません」


 電気が止められ、俺は研究員に、体のあちこちに吸盤みたいなものをつけられた。


「お願いです、なんでもしますから、痛いのだけはやめてください!」


 幼い俺は、必死に助けを求める気持ちで叫んだ。


「だめだ、能力を覚醒するまでは解放できない。


解放するまでは、電気をひたすら流し込む。


それしかないんだ」



「能力を解放する方法を自力で探します。


ですので、解放してください!」


 俺は、毎日の電気の拷問を受けて、心身ともにボロボロの状態になっていた。


 早く、電気を出せるようにならないと、あの地獄が待っている。

 幼い俺は、それしか頭になかった。


 結果、俺は、電気を自発的に出せるようになった。

 弱い電気だったけれど、俺は使えるようになったことに、喜びのあまり涙がでるくらいだった。


「おめでとう」


 研究員の人に、喜ばれるくらいになれた。


「これから、君は、外の世界に出ることを許可されるようになったんだ。


これかは、戦うか、普通の人たちと同じように学校に行くか、どちらがいいかい?」


「戦うって、痛いのが待っているのはいや。


だから、学校の方がいいです」


 その時の俺は、後先のことなんて、あまり深くは考えてなかった。

 とにかく、今のこの状況から、抜け出せるのなら何でもよかった。


 こうして、俺は研究員が指定された通りに、私立の小学校に入学することになり、おじいちゃんとライハイツ叔父さんの家に来ることになった。


「初めまして」


「君は、誰?」


 俺は、返事に困った。

 ライハイツ叔父さんから、名前を聞かれているのかもしれないけど、俺に名前なんてないのだから、名乗りようがなかった。


「えっと、俺は研究所出身で・・・」


「つまり、君は研究員ってこと?」


「そうじゃないって。


研究所で生まれ育ったの」


「何か、病気とか持っていたの?」


「病気じゃないけど、研究所にいたの。


俺は、君の甥っ子です。

仲良くしてください」


「甥っ子って、名前なの?


よろしくね、甥っ子」


「俺は、名前ないの」


「名前?


今から、つけてあげようか?」


 ライハイツ叔父さんは、笑顔で答えていたところに、


「ならん!」


 と、おじいちゃんがやってきた。


「この子は、名前をつけちゃいけないのだ」


 おじいちゃんは、静かに答えた。


「どうして?


僕にも、名前はあるのだから、つけないと平等にならないって」


「とにかく、だめなものはだめなのだ」


「名前ないなら、わしは、孫と呼ぶことにした。


だから、ライハイツは、甥っ子と呼べばいい」


 おじいちゃんは、腕組みしながら答える。


「じゃあ、よろしくね、甥っ子。


僕は、ライハイツ。


本名は、らいはいとって言うんだ。


僕のことは、叔父さんでいいからね」


「うん。


だけど、おじいちゃん、俺も名前がほしいよ」


「ならん」


 おじいちゃんは、なぜか俺に名前をつけることを許してくれなかった。


 俺の小学校の入学が決まったけれど、同い年の同級生に、緑の髪と、髪がアキレス腱まで長いことをバカにされたので、髪を短く切り、黒く染めた。

 緑色の瞳もからかいの対処になったので、黒のカラコンをつけて、学校に通うことにした。

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