四角い円
@o714
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部長が失踪した。
なるほど日頃から責任感なんてものがまとわりつくのを嫌がっていたけれど、何にしても突然のことだった。そしてあの性格から、余計にこの失踪の事件性が見えてくる。
彼は面倒くさがりであったけれど、無責任という訳ではなかった。
文化祭の前日。部員全員がいつになってもやって来ない部長を諦めて部室の準備をしているとき、教卓からメモが見つかった。ペラ紙一枚に一言。
『この埋め合わせはいずれ!』
部長がぼくらへの債務をどう履行したのかについては割愛するが、つまるところ彼は実に律儀な男なのだ、打算的ではあったろうが。
という訳で、ここ数日姿を見せない部長を心配する数少ない連中は、下校時刻もいよいよという部室で顔を突き合わせている。
「やっぱり、家にでも行ってみるか?」
「大げさだろ」
「でも、先生の方にも連絡は入ってないって」
「それじゃあ、ここで借りをつくるっていうのはどうだ?」
「それはいいね」
「まさか。今からじゃないですよね」
「まあ今日じゃなくてもいいが、どうせ暇だろキミたち」
「それじゃあ、飯食ってからいきますか」
部長抜きで食べてから行くのはさすがに躊躇われるという真っ当な意見が出たのだが、先輩の持つ副部長の権限に仕方なくぼくらは従わざるを得ず、皿と次いでサカナ、最後に酢飯も回ってくるという珍妙な軽食屋に出向いた。
先輩は言い訳するように「昼食べてなかったから」と付け足したが、横に座ったオオムラなんかは全く関係なく腹が空いているから気にする必要などないのだが。
四人でテーブルを囲み、最初は遠慮する風に食べていたのだが、胃に何かが侵入したことを感知した脳がぼくらを勝手に操り、食道も喜んで食べ物を奥へと送り出す。
とは言っても常識を弁えたぼくらではあったから、先輩の顔が青からまた違った色に替わりだす前には箸を置く。
「やっぱり、アイツ連れてきた方がよかったな」
「先輩が腹減ったとかいうからですよ」
「ごちそうさまです」
「おれの所為かよ、まあそうか」
案外あっさりと店を出て、一つ伸びをするとだんだんどうでも良くなってくる。
「部長、家に居ますかね」
「正直わからん」
「まあ今日は奢りで寿司連れてきてもらったってことで」
オオムラがそう言って解散しようとすると、引き止められた。
「どっちにしろ行ってみる価値はある。最悪書置きでも残していこう」
部長の家は店から駅を挟んでちょうど反対にあるのだが、それは位置関係だけの話であって、向こう側は狭い住宅地で入り組んでいる。ぼくも電車から見たことしかなかったからなんだが少し浮かれたような気分で着いていく、まあおそらく満腹感の仕業だ。
小奇麗なアパートのエントランスで部屋番号を押し呼び鈴を鳴らす、もちろん誰も出ない。そこで都合よく出てきた住人とすれ違って三階に向かった。
扉の前でまたふたたび、呼び鈴を鳴らす。
するとガチャガチャ、と音がして扉が開かれた。
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