第2話 スライムまみれ聖女
「では、奥に進みます。シャーロット、防御魔法をかけるからこっちに立って」
先輩が言うと、画面にもう一人フレームインしてきた。黒髪クールな美人である先輩とは対象のような、ふわふわの金髪で小柄なかわいらしい女性である。
〝シャルたん!〟
〝シャルたんキタコレ〟
コメントがまた盛り上がっているのも理解できた。……しかし、魔法とは?
呆然としている僕をおいて、先輩は胸の前で両手を組む。
「癒やしの女神……ア、じゃなくてイ、じゃなくて……」
「エーテュウスです、聖女様」
「うん、そのなんたらよ。可憐な穢れなき乙女に祝福を与えたまえ、乙女が傷つかぬよう聖なる帳を与えたまえ。ホーリーバリア!」
だいぶグダグダではあったが、女性の足下に魔方陣が出現した。陣から放たれていた水色の光が女性にうつり、そしてかき消える。ハリウッド真っ青の特殊効果だが、今の動画ってこんなことまでできるのか。
補助が終わると、先輩とシャーロットさんは奥へ進んでいく。すると、前方をグミのような赤いぶよぶよした物体が塞いでいるのが見えた。
「おやおや、スライムですねえ。RPGの雑魚として定番ですが、実は結構頑丈で強
いんですよ」
先輩が解説する。その間に、シャーロットさんがじりじりとスライムとの距離をつめていった。彼女の手には、よく研がれたであろう細身の剣が握られている。
「はっ!」
気迫と共に、一番手前のスライムが真っ二つに斬られた。スライムは悲鳴のかわりに、内臓をぶちまけてじゅうじゅうと気味の悪い音をたてる。死骸からは真っ赤な煙
がのぼっていた。
「毒持ちスライムです! 補助魔法がかかっていない者は下がりなさい!」
シャーロットさんが後方に向けて叫ぶ。画面には映っていないが、他にも誰かいるようだ。どれだけ手間のかかった撮影なのだろう。
〝あ、聖女さま食われた〟
〝スライムまみれ聖女〟
〝地味にエロい〟
僕が画面の外に気をとられているうちに、コメントが物騒なことになっていた。
「食われたって……そんな……うわああああ!!」
画面中央で、うねうねとスライムが積み重なっている。その透けた体の向こうに、先輩の姿が見えた。完全にのしかかられていて、中でさっきの赤い煙が揺らめいているのも見える。
「なんで、いきなり、ホラーに」
僕は完全に恐れおののいていたが、コメント欄は歓喜であふれかえっていた。
〝いつものいっとく?〟
〝無敵の聖女を見せてくれ-!〟
コメントは高速で流れ続け、もはや一つ一つを目視するのも辛いほどになっている。僕だけがドン引きしていた。
「ここから何ができるっていうんだよ……!」
戸惑う僕の目前で、急になにか赤い物が動いた。──それが、飛び散ったスライムの残骸だと脳が理解するのに、数秒を要する。
「ふはは、相変わらずやわいスライムだこと!!」
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「さらばスライム」
「ホラーからコメディへの切り替ええぐい」
「服が溶けないなんて嘘だ!!」
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