既読スルーしたい‼️😭高嶺の花🌹の生徒会長様が👑俺🧒にだけオジサン構文📝😘送ってくるんだが⁉️⤵️😱😅
鳥尾巻
既読スルーしていい?
『
俺は手の中のスマホの画面を穴が開くほどに見つめた。なんだこれ、どうしよう。どうしたらいい?
世の中には知らなくていいことがたくさんある。そんなことは高校生ともなれば自然と分ることだ。
俺も例に漏れず。
身長は高校に入って少し伸びたけど176cm現在。多分もう伸びない。太っても痩せてもいない。平凡を絵に描いたような顔立ち。強いて言えば糸目。
人生の主役は自分だなんて言うけれど、そんな大変そうな役はこなしたくない。舞台袖にひっそり立って気付けばいなくなってるくらいで十分なんだ。
余計なことは詮索せず、出過ぎて打たれる杭になることもなく、勉強も遊びも適当にこなしていれば平穏な学校生活が送れるはずだった。
……はずだった!!
昨日、俺は生徒会の仕事を終えて帰ろうとしていた。
やる気は全然なかったけど、クジ引きで適当に選ばれて、生徒会の末席でひっそりと書記をしていた。
議事録を作ったり月に一度広報を発行したりする仕事は、案外向いていたようで、それなりに楽しく活動していた。
それに密かな楽しみもある。
我が校の生徒会長、
容姿端麗、才色兼備、文武両道。立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
腰まであるつやつやの長い黒髪、切れ長の涼しげな瞳、内側から光っているような白い肌、高い鼻、刷毛で淡い桜色を刷いたような艶のある唇。ピンと伸びた背筋、手足は長く、所作には品がある。
使い古された褒め言葉がぜんぶ当てはまり、家は代々続いた財閥のお嬢様。今さら俺なんかが付け足すこともない完璧な美人。
俗な言い方をすればスタイル抜群で出るとこ出て引っ込むとこは引っ込んでるナイスバディ。だからと言って下世話な想像を許さない凛としたたたずまい。
そうでなくとも副会長を始め優秀な人材がガッチリと周りを固めていて、不埒な奴らはつけ入るすきもない。
まさに高嶺の花。世が世なら本物のお姫様だ。遠くから眺めて愛でるくらいがちょうどいい。
忘れ物をしたことに気付いて生徒会室に引き返すと、中から音が聞こえてきた。
ガサゴソと何かを探し回る音。書類でも落としたのかバサバサッと紙が落ちる音。
こんな時間に誰?泥棒?俺は恐る恐るドアの隙間から中を覗いて愕然とした。
俺が数十分前に整理したはずの書類やファイルが床に散乱し、足の踏み場もなくなっている。
その中央に立っていたのは……生徒会長。掃き溜めに鶴、という言葉が一瞬脳裏に浮かんだが、その考えが消し飛ぶほどの惨状に思わず声がひっくり返った。
「会長!?」
「縄文時くん」
「なに、やってるんですか?」
「うん、あの、もうすぐ文化祭だからね。去年の予算案を見ようと思って……」
なぜかこちらを見る会長の白い頬に赤みが差す。いつもはツンと澄ましている印象の彼女が、叱られるのを恐れる童女のようにモジモジしている。
「それは右の棚の上から二番目のファイルに入っています。ていうか、パソコンにもデータありますよね?」
「あ、ああ、そうね。ありがとう」
「こんな時間におひとりですか?お迎えは?他の方はどうしたんですか?」
動揺のあまり矢継ぎ早になってしまった俺の質問に、彼女は目を泳がせる。
「あ、えーと。今日はみんな用事があって……」
そんなはずはない。周りを固めているのは彼女の家に代々使える警護の者たちだし、お金持ちのお嬢様が1人で行動しようものなら誘拐されかねない。
俺は辺りを見回してみたが、確かに他の人の気配はないようだった。常に誰かに囲まれている彼女を単体で見るのはレアな気がしたが、だんだん陽も暮れてくるし、1人でここに置いていくのは心配だ。
「ファイルは明日出しておきますから。今日は片付けて帰りましょう」
「え、ええ。ありがとう」
間近で頷いた彼女から、爽やかな花の香りが漂う。美人は香りもいいんだな、とか、書類を集める姿まで綺麗だな、とか、余計なことを考えてドキドキしつつも、動揺が悟られにくい糸目で良かったと思う。
いやしかし、ちょっと待って?なんか整理整頓下手過ぎねえ?
美しい所作で雑に集めた紙を適当に会長用のデスクに置き、その上に分厚いファイルを乗せる。それだとちょっと触っただけで雪崩起こすと思うんですけど。
細くて分かりにくい俺の目線の行方に気付いたのか、会長がまた頬を染める。
「私、片付けが苦手で」
「……そのようですね」
「いつも周りの人がやってくれるから益々できなくなってしまって」
「なるほど」
「だからいつも縄文時くんがしっかり管理してくれて助かってるわ」
不意打ちの褒め言葉と、ふわりとほころんだ笑顔の破壊力。ただのモブを撃ち殺す気なんでしょうか!?
「控えめで落ち着いてるし」
いや、俺がでしゃばる隙も無いですよね?周りのガード知らないんですか?
「整理整頓も上手だし」
あ、やっぱ褒めポイントそこなんだ。普通だと思うけど。会長が駄目過ぎるだけだと思うけど。
「クールでかっこいいし」
んん?クール?かっこいい?誰のこと?糸目で感情読みにくいだけじゃ?今、かなり動揺してますけど!?
ていうかなんでこんな俺褒め祭りになってんの?ドッキリ?カメラどこ?
「あの、それで、良かったら個人的に連絡先を交換していただけないかしら」
「は?え?」
脈略もなく繰り出された攻撃に頭が真っ白になる。柔らかくて細い両手の指が俺の手を包み、手の中に紙の感触。
「飛鳥様〜!どちらにいらっしゃるんですか〜!」
遠くから誰かが会長を呼んでいる声に、彼女がビクリと細い肩を揺らす。
「迎えが来たようです。それでは!ごきげんよう!」
耳まで赤くなってパタパタと走り去る後ろ姿を呆然と見送った。シンと静まり返った生徒会室の真ん中で、恐る恐る頬をつねる。
痛い。
夢でもなんでもないらしい。
チャットアプリに生徒会用のグループはあるが、個人的につながることは誰もしていない。というか、許されてない。
会長直々に渡されたとはいえ、これがバレたら俺は殺されるのかもしれない。特に武闘派で鳴らした副会長あたりに。
手の中の桃色の小さな紙切れを眺め、そこに書かれたIDを目で追う。
【squidflyingbird】
しかしこれは何かの罠じゃないだろうか。もしくは壮大なドッキリ。暇を持て余した金持ちの遊び。
家に帰る間も夕飯の間も風呂に入っている時も悩みに悩み、結局誘惑には勝てずIDを打ち込んで、後は野となれ山となれとばかりにベッドに潜り込んで寝た。
翌朝、目を覚ましてやっぱり夢だったんじゃないだろうかと思った矢先に届いたメッセージが、コレである。
『
え?誰?間違えて別人のID入れちゃった?
これはいわゆる、ある一定の年齢層の男性独特のメッセージ様式と名高い「オジサン構文」では?
起き抜けの寝惚けた頭が一気に覚醒し、パジャマ代わりのTシャツから出た腕にゾワリと鳥肌が立つ。
やっぱり壮大なドッキリ?俺の個人情報見ず知らずの他人に晒される危機?
いやでも会長がそんなことする人だとは思えないし……。会長本人からのメッセージだとしても、これをどういう感情で受け取っていいのか分からない。
悩み続ける間にも、メッセージの着信を知らせる軽快な音がポコン♪ポコン♪と響く。
『智司クン、まだ寝てるのかナ( ̄▽ ̄)😪お寝坊サンだネ(# ̄3 ̄)(^^;;(´;ω;`)遅刻しちゃダメだゾ♡(^^;(;^_^A😘』
『また学校で会おうネ🤗♡♡智司クンに会えるの楽しみだナ😍😘ナンチャッテ(;^_^A(笑)』
ちょ……これ、どうすればいいの?好意的な、というかあからさまに好意を伝える文面ではあるんだけど、反応に困る。
何度目かの通知に、俺は震える指で「おはようございます」という土偶のスタンプを送った。
◇◇◇◇◇
扉絵
https://kakuyomu.jp/users/toriokan/news/16817330659068290134
一話完結にしようと思いましたが収まりがつかなかったので数話構成にします。
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