悪魔の子
わざお
第1話 忘れていてごめん
君は受け入れられるだろうか、平和を奪い、自由を奪う奴を!家族を、故郷を、未来を奪われる理不尽さを!殺してやる!殺してやる!殺してやる!
状況を報告する。東暦296年6月、原油を主なエネルギーとした文明が発達し、コンピューターの技術も進化し始めた現代の出来事である。人類は悪魔という本能的に人類を滅ぼそうとする生命体と種の存亡をかけた戦いを遂行している。ヴィマナ王国は人海戦術で押してくる悪魔に抵抗しているが、領土の6~7割を悪魔に占領され、国家存亡の危機に瀕している。しかも自国以外の国家は既に悪魔に滅ぼされたらしい。
ヴィマナ王国のとある都市、ヴォーノン市から東方に約30km離れた地点では、ヴィマナ王国陸軍と悪魔が戦っている。
「CPこちら13中隊、突撃破砕線を突破されそうです!敵が突破してきます!」
悪魔が兵士の目前に迫る。
「ヤバい!死ぬ!ああーー!!」
悪魔は刀の様に鋭い手を人の胸に刺し、心臓を貫いて殺す。
ある兵士はとにかく逃げた。
「死にたくない、死にたくない、死にたくない!」
心の中で念じつつ全力で走るが、すぐに追いつかれて背中から一突きされた。
ある兵士は勇敢に小銃を撃って戦い続けた。
「国王陛下、万歳!兄ちゃん!生きろ――――!!!」
死体と血の池が広がる地獄が完成した。
その頃、戦場から離れた街のヴォーノン市はまだ平和だった。
「ただいま!」
「エゴン、お帰り。」
「お兄ちゃん!もうすぐ夕飯らしいよ。」
「おいクルト!今日もケンカ勝ったぞ!隠れてさ、相手が油断するまで待って殴りかかってさ!そしたらいつもより楽に勝ててさあ!」
「なんか今日は卑怯だね。正々堂々戦いなよ!」
「え~、夢の中で正々堂々は強い人のエゴだって、教えてもらったんだけど。」
「夢?」
「ああ、何か今日授業中に変な夢見たんだよな…何だったっけ?」
エゴンがボーっとしていると、クルトが先に食堂に入り、ドアを閉めた。エゴンはドアに正面衝突する。
「おい!」
年季の入った一軒家で二人はドタバタする。
二人兄弟の兄はエゴン・クリーガー、この時は10歳。運動能力が高い元気な少年である。クルトという二つ下の弟がいる。父の悪魔学の研究を継ぐという夢のために熱心に勉強している。二人は海が見えて心地よい潮風が吹く美しい街、ヴォーノン市で暮らしていた。
「エゴン!何でそんなに服が汚れているの?またケンカしたの?」
「いや…」
「そんなことしてないで、勉強しないとちゃんとした大人になれないよ!」
「でも…」
「まあまあ、元気なのはいいことだよ、平和な間に思いっきり遊ばせてあげなよ。将来は将軍になる子なんだし。」
母がエゴンを叱ると、父親が止めに入る。
父の名前はミヒャエルという。悪魔学者として悪魔の研究をしている。母の名前はアンドレアという。専業主婦である。
「そうそう!俺、将来は英雄になるからそのための訓練だよ!」
「エゴン、たしかに優秀な軍人は強いけど、優秀な将軍は勉強もできる。勉強ができると戦い方が上手になるんだよ。」
「どういうこと?」
「少数で多勢を倒せるようになる。」
父はエゴンを諭すとおもむろにある本を取りに行った。
「この兵法書を読むといい。」
そう言って本を渡した。
「この本の内容を理解できれば将軍になれるよ。」
「本当に!ありがとう!やったー!」
エゴンは喜んだ。父も微笑む。しかし、いざ本を開けば難しい言葉ばかりだった。
「まぁ、勉強しないと読めない本だけどね。」
エゴンは悔しそうな顔をした。
「クルト!勉強教えてくれ!」
「いいよ!」
「ありがとう!」
「兄として恥ずかしくないの?」
「たしかに…まあでも、将軍になれればOKです!」
「「「「www」」」」
みんなが笑顔になった。
この日の一か月後、ヴォーノン市には地響きが鳴り渡った。空軍機が空を飛び交い、街に兵士が集まった。そして、遠くに身長100mを超える巨人や戦闘機と戦うドラゴンが見える。悪魔がついに市街地に攻め込もうとしているのである。
「エゴン、クルト、大切な荷物を早くまとないと疎開列車に遅れるわよ!」
「わかった!」
エゴンは父からもらった兵法書を大事にかばんにしまう。クルトも父からもらった、悪魔学の書物、父が書いた論文、医療書、初等学校の教科書、中等学校の教科書をかばんにしまう。
「お父さんとお母さんは荷物ないの?」
クルトが不思議そうに尋ねる。
「荷物は大丈夫。疎開先で用意できるから。」
父が笑顔で答えた。家族全員で駅に行った。疎開する人で溢れるなか、何とか三等車の乗車口にたどり着き、そこで母が重い口を開く。
「エゴン、クルト、ここから先は二人だけで行きなさい。お父さんとお母さんはこの街に残らないといけない。」
父も話し始める。
「お母さんとお父さんは市民義勇軍に参加することになったんだ。だからもうエゴンとクルトと一緒にはいられないね。」
エゴンとクルトの動揺は止まらなかった。市民義勇軍は民間人で構成される部隊で主に市街地防衛戦の時に徴兵される。身分の低い人が招集されやすい。
「ごめん…」
父と母は涙を流す。クルトも泣き始めた。
「ここまで来て何言うの?列車は目の前だよ!乗っちゃおうよ!ばれないから大丈夫だよ!」
エゴンが両親を説得する。父はエゴンにビンタした。
「しっかりしろ!エゴン!未来の将軍がそんなんじゃ見苦しいだろ!もし、ここでお父さんとお母さんが列車に乗れば国家反逆罪として家族全員処刑だぞ!」
「じゃあ俺も残る!」
「バカを言うな!将軍になるんだろ!だったらそのために頑張れ!ここで無駄死にするな!」
エゴンも泣き始めた。
「大丈夫だよ。親が子どもを守るのは当然のこと、気にすることはない。エゴンは強いからクルトを守ってあげて欲しい。クルトはよく勉強ができる。お父さんの研究を継いで欲しい。二人とも誰が何と言おうと自分が正しいと思う道を進み続けて夢を叶えてよ。わかった?」
エゴンとクルトは泣きながら頷いた。
「エゴンとクルトを産めて幸せだった。」
母が二人に最後の言葉をかける。
「人類を救うのは君たちだ。」
頭を撫でながら父も最後の言葉をかけた。号泣する子どもが列車に乗った。汽笛が鳴り、列車がゆっくり動き始めた。
「置いてかないで。私もあの列車に乗りたかった。死にたくない!死にたくない!」
アンドレアは号泣した。ミヒャエルも号泣しアンドレアを抱擁し合った。
「俺も死なずに済むなら死にたくない。」
数日後、エゴンとクルトは目的地の駅に到着した。出口に向かって歩く。その途中、一等車から降りる二人の子どもと親が見えた。
「お父さん、お母さん、新しい家はどこにあるの?」
その家族はエゴンとクルトと同じ家族構成だったが、大商人の一家で第一身分市民、特権階級であった。
「親が子どものために死ぬのは当然なのか?」
エゴンは怒りの感情を抑えながらクルトに問う。
「当然じゃないよね。戦争がなければ。」
クルトは戦争を憎んだ。
「腐っている!この国は。」
エゴンは身分制度を憎んだ。
この後、二人は軍需工場で働いて生計を立て、夢を実現するために進み続けた。疎開してから約三か月後、悪魔たちに包囲されていたヴォーノン市の防衛部隊が殲滅されたことが新聞で知らされた。だが二人が泣くことはなかった。
悪魔の子プラスアルファ!
・悪魔
他の大陸から海を渡って人類を攻撃してくる謎の生物である。食べ物を必要とせず、また、コアが破壊されない限り欠損箇所を再生する能力がある。スピードやパワーでも人類に勝っている。コアを破壊するには7.62mm弾を数発撃ち込む必要がある。数でもヴィマナ軍を圧倒していて、具体的な数は不明だが通説ではほぼ無限にいると考えられている。
・巨人
悪魔と共に人類を攻撃してくる謎の生物である。大きさは様々で100m級の個体から10以下の個体まである。特徴も様々で、大型の巨人はゆっくり圧倒的なパワーで攻撃してくるのに対して、小型の巨人は素早い動きで攻撃してくる。悪魔と同様にコアを持ち、これを破壊しない限り死亡しない。破壊するために必要な火力は個体差があるが確実に重火器が必要である。
・ケルベロス
犬のような外見であるが、大型で口から炎を吐いて、悪魔と共に人類を攻撃してくる謎の生物である。全長は20mから40mで、走攻守のバランスが取れている。悪魔と同様にコアを持ち、これを破壊しない限り死亡しない。破壊するためには戦車砲(120mmAPFSDS)を直撃させる必要がある。
・ドラゴン
空中を自由に飛び回り、悪魔と共に人類を攻撃してくる謎の生物である。体当たりや火炎放射によって攻撃してくる。悪魔はドラゴンを様々な形で運用している。ヴィマナ空軍の戦闘機と空中戦を行ったり、悪魔を空中から輸送したり、地上に降りて歩兵や戦車と戦うこともある。悪魔と同様にコアを持ち、これを破壊しない限り死亡しない。破壊するためにはミサイルを直撃させるか、機関砲弾を複数発命中させる必要がある。また、空中を飛翔中に近接信管のミサイルを頭部に命中させれば、視界を奪い、混乱させて地面に落下させることが可能である。さらに翼にも複数発命中させれば、バランスを崩して落下する。高速で落下させることでコアを破壊できる。
・ヴィマナ王国
ヴィマナ大陸を領有する絶対君主制の封建国家である。国王と13の有力貴族が国全体を支配している。世界的に見ても大国であり、19世紀以前は圧倒的な国力を誇っていた。ヴィマナ大陸は他の大陸から離れた場所に位置していたが、圧倒的な海軍力によって各地に植民地を持っていた。しかし、近年は悪魔の侵略に対して抗しきれず、遅滞戦闘を行うのが精一杯の状況で海岸部の多くを悪魔に占領され、通信衛星も何らかの原因で全て故障したため、諸外国との通信が全くできていない状況である。
・ヴィマナ王国の身分制度
ヴィマナ王国の人民は上から第一身分市民、第二身分市民、第三身分市民に分類される。第一身分市民には貴族、大商人、兵器開発者などが含まれる。第二身分市民は自作農、中小商人などが含まれる。第三身分市民は小作農や工場労働者などが含まれる。
・悪魔学者
悪魔の生態を研究する学者である。巨人やドラゴンなど、悪魔と共に人類と戦う生物に関しても研究する。ほとんどの悪魔学者が政府から経済的な援助を受け、軍から悪魔に関する資料の提供を受けて研究をしている。主に悪魔の生物学的な特徴について研究が行われている。ミヒャエルは研究分野としてはマイナーな悪魔の言語に関する研究をしている。悪魔学者にも身分制度があり、上級と呼ばれる政府から良い評価をされた学者は第一身分市民、中級と呼ばれる普通の学者は第二身分市民、下級と呼ばれる研究への貢献度が低いと判断された学者は第三身分市民に属することになる。悪魔の言語に関する研究者は「悪魔のスパイ」と揶揄されることもあるほど評価されにくいため、ミヒャエルと家族は第三身分市民に属している。
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