犯人との対決

 私は、ソメイヨシノの間に居た。ここに泊まっているのは、臍鬱仁丹。そう彼こそドッペルゲンガーを騙る者だったのだ。思えば、おかしなことが沢山あった。やけにドッペルゲンガーに詳しすぎること。探偵という素性の怪しさ。

「当然、部屋に鍵をかけているわよね」

 私は、林田勲と共に、地下室へと向かう時に、マスターキーを借りていた。そう、あの場にいた人間が犯人ではないと断定できた私は、協力を仰いだのだ。そして、私は鈴宮楓にアイコンタクトをした。それは、阿久魔弥吉や南野天使、林田勲も全員を引き留めるために協力してくれているだろう。マスターキーを使い中へと入った。表向きは、何も無い。だが奥にある布団をしまう襖を開けて呆然となる。端の机の上にまるでコレクションするように置かれていたマスク。何枚もの名刺。その中に一枚の明らかに違う名刺があった。梶木プロダクション所属、渡来司ワタライツカサ。そう臍鬱仁丹なんて探偵は、どこにも存在しなかったのだ。これは、アナグラムだった。自己顕示欲の強い犯人は、この偽名に俺が犯人だと堂々と宣言していたのだ。名前を平仮名にすればわかりやすいだろう。『へ、そ、う、つ、じ、ん、た、ん』これを並び替えると『へ、ん、そ、う、た、つ、じ、ん』となる。そう変装達人だ。俳優である自身とドッペルゲンガーである自身。彼は、相手を油断させるため完璧になり切って、殺していた。なのにどうして安藤保志には、バレたのか?面識があった?それだけがわからない。そして、テレビの画面には、全ての間の映像が残されていた。そこには、殺人を犯して、カメラに向かって勝ち誇る臍鬱仁丹こと渡来司の一部始終が残されていた。それらのデータをコピーする。証拠は確保した。地下室へと戻り、犯人に突き付けるだけだ。地下室へと戻ると臍鬱仁丹が女将の桜舞を人質にとっていた。

「いやはや、まさかまさかバレてしまうとは、思いませんでしたよ」

「舞を離せ」

「離してあげてもいいのですけどねぇ。道筋、アンタが舞さんの代わりに死ぬ覚悟があるのならねぇ」

「気持ち悪い。義母様の声で、そんな言葉を吐かないで」

「貴様が環を殺してやる」

「まっちゃん、私をもう一度殺すの?」

「うぐっ」

「兄貴、惑わされんな。アイツは、環義姉さんじゃねぇ」

「わかってはいるが環の声で言われると」

「もっちゃん、まっちゃんにあのことをバラしても良いの?」

「なっなんのことだよ」

「勿論、ワ・タ・シとの不倫のことよ」

「なんじゃと力持、貴様、環とできておったのか?」

「兄貴、耳を貸すんじゃねぇ」

「渡来司、桜舞さんを離しなさい」

「へぇ、刑事さん。そこまで辿り着くとは、やるじゃねぇか。まぁ、あの双子は、使い物にならなくなったし、後は、この女将だ。俺を殺す気満々だからな。正当防衛だよな」

 女将を殺そうとした渡来司の前にメリーが現れる。メリーは、女将と桜道筋を入れ替えた。

「お前、何しやがる」

「サイゴグライ、ママノヤクニタッテパパ」

 ザシュッと桜道筋の首にアイスピックが突き刺さり鮮血が飛び散る。

「あがァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 しかし、これで終わらない解放された桜舞が包丁を取り出し、渡来司へと襲いかかる。それを止めたのもメリーだった。

「どうして私の邪魔をするの。そこを退きなさいメリー」

「ママ、ダメ」

「アンタがそれを言えるのかい殺人鬼のメリーさんよぉ」

「ワタシ、ママヲ、ドウシテモ、マモリタカッタ。ママガ、カイダンカラ、オトサレテ、ナクナル、チョクゼン、ワタシノ、オモイニ、メリーガ、コタエテクレタ『私も大好きなママを守りたい。私の身体を使って』ト」

「そんなことって、じゃあ、貴方は産まれるはずだった私の娘なの?」

「ウン。ダカラ、ワタシノ、イノチヲ、ウバッタ。アノ、サンニンガ、ニクカッタ。デモ、チガッタ。ワタシノ、イノチヲ、ウバッタノハ、パパダッタ」

「立派な正論並び立ててるけどよぉ。俺と同じ殺人鬼に変わりねぇよ」

「ソウダネ」

「そんなことない。メリー。ううん芽里メリ、ずっとそばにいてくれたのに、私はなんてことを」

「イイノ、ママガ、サツジンキニ、ナルノトメラレタ。ワタシハ、ソレデ、マンゾクダヨ。メリ、ステキナ、ナマエヲ、アリガトウママ」

「芽里、何をする気なの」

 メリーさんは、渡来司に向き合うと今まで殺された人々の怨念を具現化させて、動けなくした。

「グググ。何だよ。俺が殺した奴らじゃねぇか」

「貴方の犯行の証拠は全て手に入れたわ。一つだけ聞かせてくれないかしら?」

「何だよ?」

「どうして、私にだけピンポイントで妨害電波を流せたの?」

「アンタは、俺が情報を与えた馬鹿2人からサイトを教えてもらっただろう?」

「えぇ」

「あれにはよ。ちょいと仕掛けを施してんだ。サイトにアクセスした人間のデータを抜き取るウィルスをな。仕込んでんだ」

「成程、それで私が警察に電話しようとした時、妨害電波を出せたのね。でも、鈴宮楓の電話にも妨害電波を出せたのは何故?」

「簡単なことだよ。そばにアンタが居た。その声を聞いて不味いと思って妨害電波を出したのさ」

「メールの妨害はどうしてしなかったの?」

「しなかったんじゃねぇ。できなかったんだよ」

「できなかった?」

「あぁ。あん時、アンタは不審な動きをしなかった。アンタの携帯のデータは盗んでるから送り先によって妨害電波を流せたが、こいつの携帯に関しては、全くだ。ミスったと思ったよ。コイツもライターなんだから、情報流して、裏サイトに誘導しておくんだったよ」

「もう一つ聞かせて、安藤保志とは顔見知りだったの?」

「あぁ、あの裏サイトを見たのならわかるだろ?破滅させられた俳優ってのは、俺のことだよ」

「個人的な恨みだった?」

「あぁ、そうだな。アイツの書いた密会の記事のせいで、俺は愛する妻と別れ。刑務所に入れられる一歩手前まで行ったんだ」

「詳しく聞かせてくれるかしら?」

「ハニートラップに引っかかった。といっても回避したんだ。でもよ。その女は、俺に白い粉の入った袋を渡してきた。それも返したんだ。でもな、アイツは記事にこう書いたんだよ。『俳優渡来司、不倫と大麻に溺れる』ってな。俳優はイメージが大事だ。当時俺は、主演作の公開を控えていた。このネタが流れるとスポンサーは、俺を下ろさなければ降りると。妻にも何度も弁解したが信じてくれなかった。公開を控えていた主演作を下ろされたらどうなると思う?待ってるのは、多額の賠償金だ。事務所は、どうせ払えない。その全てが俺に降り掛かる。しかも大麻だ。警察の取り調べも受けた。そっちの容疑は晴れたが。貼られた世間のイメージは、そうそう覆らない。俺は、スター街道を登る階段から一気に地獄へと落とされたのさ」

「そうだったのね」

「もう身体の感覚がねぇや」

「メリーさん、この怨念を解除して」

「ソレハ、デキナイノ。コノ、オンネンタチヲ、ホウチシタラ、アクリョウカ、シチャウカラ。カレノ、カラダヲ、バイタイニシテ、ワタシガ、コロシテシマッタ。サンニンノ、タマシイモ、ヒキウケテ、アノヨニ、ツレテイクノ。ソレガ、ワタシノ、サイゴノ、シゴトダカラ」

 渡来司の身体に大量の怨念が入ると膨張して破裂した。その後、メリーさんから抜け出た魂が全てを吸収して、あの世へと昇って行った。引き受ける前、メリーさんから抜け出た魂は、桜舞の元に向かい。

「ママノモトニ、ウマレテキテ、アゲラレナクテ、ゴメンネ。コレガ、ワタシニ、デキル、サイゴノチカラ」と言い桜舞のお腹に手をかざすと「バイバイ」と言って、悪しきモノを全て吸収して、天へと昇って行ったのである。こうして一連のドッペルゲンガーとメリーさんの事件は解決を迎えるのである。

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