第二章 暗躍
☽第一夜 兎と亀
掴みどころのない男
全力疾走をしてきてまで心配していた昂は、狛と同時に青年を引き
そしてそのまま昂は俯いた顔を睡蓮の頭から覗かせて、恨めしそうに上目遣いになりながら言う。
「蛇が人間て……。つまり、こいつも使わしめってことか」
「ああ。でなければここへ辿り着くまでに、何重にも張った結界を超えられるはずがない」
しれっと言う狛に、昂は白眼視を向ける。
「What!? そっちの君もこの世の者ではないようだね!」
他の使わしめと同様に日本語を話す青年に、はっと顔を上げて目を丸くした昂だが、そもそもの話だったことを今更ながらに気付いたらしい。何せ使わしめたちが自分たちの言語を話していること自体、疑問に思っても良かったのである。
昂は頭が痛くなったのか、睡蓮を抱き寄せていた腕を放して額を押さえた。
「Ok. 君は石上昂くんだね! マイプリンセスは……睡蓮! 美月睡蓮ちゃんだね? 何、そんなに驚く必要はないさ。それくらい僕にはお見通しだからね! Haha!」
青年は自分に釣られて笑顔になる睡蓮へ、翡翠色の瞳を縁取る長い睫毛を寝かせて目を細めた。
彼は見た目だけの年齢で言うと、太秦と同じく二十代半ばくらいだろうか。腰の辺りまで伸びた長髪も太秦と同じだが、髪色は真逆で真っ白に染まっていた。
バスローブのようにゆったりと袖を通す白の着物には、瞳と同じ翡翠色の刺繍が施されていて、その下に着たラフなカットソーやズボンも白で統一。
しかし中の洋服は着物とは異素材なので、同色だとしても膨張して見えたりなどはなく、むしろ腰紐を結んでない分、身体との間にしなやかな隙間が出来るので、見る者の目には華奢に映るのだった。
「あの……もし宜しかったら蛇さんのお名前を……」
「ん? Oh, Sorry. 僕は
「は、はい……!」
蛇壱の握手を睡蓮は笑顔で応える。寝込みを襲われた形だったが、蛇壱への警戒心は解かれたようだ。
「ではマイプリンセス、ぼくは用事があるからここらで失礼するよ。Seeyou- ☆」
「え? あ、あの?」
戸惑う睡蓮をよそに、蛇壱は鼻唄を歌いながら部屋から出て行ったのだった。
「変な奴……」
「あいつは面倒事や縛られることを嫌う。悠々自適な
「太秦!?」
蛇壱の履いていた草履の音が遠のくと、それと入れ替わって部屋に入ってきたのは太秦だった。隣にはまだ眠そうに瞼を擦る髪がぼさぼさの白狐と黒狐も居る。太秦は昨日と変わらない服装だが、二人は甚平姿だった。寝巻だろう。
「悠々自適って、ただの掴みどころがない男だろ。ったく……」
「あ! そうでした!」
睡蓮が突然大きな声を出したため、昂を始め使わしめたちの視線が彼女へと集まる。
「ど、どうした睡蓮。そうでした?」
「すみません昂くん、皆さんも……。実は目が覚める前に夢を見ていたのですが」
「「夢!? 巫女さま夢を見たのッ?」」
「は、はい」
「そうか。陽の巫女、大御神にお会いしたんだな?」
「美月、話してみろ」
「は、はい」
だが昂が割って入ると、睡蓮は落ち着いたのか口をゆっくりと開いた。
「……ということがあったのです」
「へ~さすがは巫女さまッ!」
「じゃあ次はユキトとゲンキのところだなッ!」
「へ?」と、きょとんとする睡蓮へ、白狐と黒狐がにこにこ顔で頷いた。
そして声を揃えて言う。
「「ウサギとカメ!」」
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