旋律に誘われて
室内を照らしている月明り。
柔らかな蒼白い光に包まれた睡蓮は艶っぽく、コロンは静かに寝息を響かせていた。
「……眠りましたか。コロンは毎日、私よりも早起きをして昂くんのお家に行っているみたいですもんね。起きた時には居なくなっていたものですから、初めはとても心配したのですよ?」
睡蓮は憂いを帯びた眼差しでコロンを見つめた。
「あの時もまた、おかしな夢を見てしまったのかと思いまして私は……」
しばらく睡蓮は隣りで眠るコロンの背中を撫でていたが、手を止めると布団に身体を寝かせた。
「さあ明日も早いです、私も寝ましょう。お父さんお母さん、今日も見守ってくださりありがとうございました。おやすみなさい」
だが睡蓮は、なかなか目を閉じない。虚ろに天井を眺めたまま、どこか物思いに耽ていた。
しかし早朝から寮生たちのために精を尽くしているだけあって、次第にその瞼も重くなってくる。疲労に勝てず、睡蓮はうつらうつらと瞬きをし始めた。
「……なんでしょうか、この美しい音色は」
「クウーン?」
そわそわと落ち着かない睡蓮に気付いたようでコロンが目を覚ます。左右に小首を傾げて顔を覗き込むコロンに、睡蓮は「すみません」と謝った。
「あ、あの、コロンも聞こえますか? ハープのような音色を」
「クゥー……――!?」
コロンは目を見開くと、すぐにドアの下部に取り付けたペットドアから部屋の外へと飛び出した。
「どうしたのですか、待ってください!」
睡蓮も慌てて立ち上がり、コロンの後を追いかけた。
ドアを開けて目の前。
「コロン!」
どうやら声が届いたようだ。一度閉まったペットドアからコロンが顔を覗かせた。
だがコロンは睡蓮を見上げて「ワンッ」と吠えると、再び顔を引っ込めてしまうのだった。
「待ってくださいコロン! あっ……また音色が聞こえてきます。今度は少し遠い……きっと外からです。もしかしたらコロンも音色の方へ向かったのかもしれません。今あのように吠えたのも私を呼んでいるみたいでしたし、なんだかいつもと様子が違っていてとても心配です。ここは早く追い掛けましょう……!」
そうして階段を駆け下りようと身体を向き直そうとした睡蓮だが、顔を上げるとはっと息を呑んで動かなくなった。
睡蓮の瞳に映っていたのは、眩い光を纏った髪の長い女性だった。
『怯えないで。私の可愛い巫女』
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