第22話 手作り人間工房
オレンジ色に染まる公園のベンチに2人の少女が座っていた。
「アリス、紹介するね」
長い髪を2つにくくった少女が公園の入口へ視線を向けて、手招きをする。
すると隠れていた少年がおずおずと公園内に入ってきた。
アリスと呼ばれたショートカットの少女はとまどった表情を浮かべ、ベンチから立ち上がった。
「私の彼氏。ケンタって言うの」
突然紹介されてアリスは戸惑う。
一緒にいるこの少女はキユナという名前で、アリスとは小学校時代からの付き合いがある。
キユナもアリスも地味で目立たないタイプで、決して人前に出るような子じゃない。
高校に入学してからはまわりに彼氏ができ始める子が多くなってきて、キユナもアリスも指を加えて彼女らを見ていたのだ。
そんなキユナに彼氏ができたなんて、知らなかった。
「はじめまして、ケンタです」
丁寧に差し出された手を握りしめる。
ケンタと名乗った彼は背が高く、優しそうなタレ目をした少年だった。
「一体、いつから?」
ベンチに座り直してアリスは聞く。
ケンタはキユナの隣に座った。
「一週間くらい前かな? 放課後にケンタが告白してくれたの」
キユナはその時のことを思い出したのか、頬を赤く染めた。
ケンタも同じように耳まで真っ赤になっている。
お互いに付き合うのは初めてなのかもしれない。
アリスは信じられない思いで交互に2人を見つめた。
「ケンタ君は、元々キユナのことが好きだったの?」
「そうだね。可愛いと思ってたよ」
その返答にアリスはまだ信じられない思いで左右に首を振った。
どうして地味で目立たないキユナを好きになったの?
思わずそんな質問をしてしまいそうになり、慌てて口をつぐむ。
正直、キユナに比べれば自分の方が可愛くてスタイルもいいと自負していた。
彼氏ができるのだって、きっと自分の方が先だと。
それが見事に裏切られてしまった形になったのだ。
キユナはまるで自慢するように、ケンタの腕に自分の腕を絡めた。
2人共照れくさそうにしているけれど人目を気にする気はさなそうだ。
「告白って、どんな風だったの?」
まだ信じられずにいるアリスが2人へ質問をする。
もし嘘をついているなら、話がかみあわなくなるはずだ。
しかし、そんなことにはならなかった。
「授業が終わるのを待って、俺がキユナを呼び出したんだ」
「教室の前で待っていたの」
「それから誰もいない校舎裏に移動して、告白した」
「その時足元に花が咲いてて、それを摘んでくれたの」
キユナはそう言うとカバンから栞を取り出した。
それは花をラミネートした手作りだ。
透明なラミメート用紙の中にはピンク色の小さな花が入っている。
それを見せられたアリスは奥歯を噛み締めた。
どうやらこの2人は嘘なんてついていないみたいだ。
本当に付き合っているんだ。
そう思うと悔しくてうつむいてしまう。
キユナとアリスは友人同士だけれど、心のどこかでライバル視もしていた。
お互いに似ている性格をしているから、少しでも相手よりも有利な立場だと思いたいのだ。
それなのに自分は負けてしまった。
そんな気がした。
「昨日は学校が休みだったから、ケンタと2人で映画を見に行ったの。ファンタジーもので、面白かったよ。アリスも今度行ってみたら?」
笑みを浮かべてそう言うキユナを睨みつける。
彼氏のいない自分が一体誰と映画を見に行くのか?
そう聞かれているような気分になった。
「ごめん。もう遅いからそろそろ帰るね」
「え、もう? まだ7時前だよ?」
そう言ったのはケンタだった。
ケンタはスマホで時間を確認している。
この場の空気が全然わかっていない様子のケンタにアリスは苦笑いを浮かべる。
「私も暇じゃないの。もう帰らないと」
適当な言い訳が見つからずに言い、2人に背を向けた。
「わかった。じゃあ一緒に帰ろう」
後からキユナに腕を掴まれて咄嗟に振りほどいていた。
はっとして振り向くとキユナの驚いた顔が目の前にある。
ごめんと謝ろうと思ったけれど、言葉が喉につっかえて出てこなかった。
結局そのまま足速に公園を出る。
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