第20話
その連絡が来た時、ユナは自分の部屋で眠っていた。
「ユナ、起きなさい」
母親の深刻そうな声で起こされて、ユナはすぐに鼓動が早くなるのを感じた。
あの死神にシュンヤの寿命を訪ねてから、ちょうど一ヶ月が過ぎていた。
「朝になってから連絡しようと思ったけれど、ユナは毎日お見舞いに来ていたから、すぐに知らせてくれたんですって」
白い車を運転しながら母親が言う。
助手席に座っているユナは「うん」とだけ答えた。
車内はとても静かで、窓の外はまだ真っ暗だ。
通り過ぎる車はほとんどなくて信号は点滅になっている。
こんな時間に母親と一緒に外にでる機会なんてほとんどなくて、なんだか異世界にでも来てしまったかのような錯覚を覚える。
病院に到着すると、母親が車を駐車場に止めている間にユナは病室へ向かった。
いつもの慣れた廊下を進み、エレベーターで2階へ上がる。
201号室の近くまで来た時、看護師さんや担当医の声が聞こえてきて歩調を緩めた。
「シュンヤ頑張って! シュンヤ!!」
「死ぬなよシュンヤ! 頑張るんだ!」
この声はシュンヤの両親だ。
ユナは唾を飲み込んで足を進めた。
病室のドアは開け放たれていて、廊下からでもその様子がよく見えた。
白いベッドに横たわっているシュンヤは心臓マッサージを受けている。
心電図がそれに連動して揺れる。
「ユナちゃん!」
シュンヤの母親がユナに気がついて手招きをした。
ユナは頷き、病室へ入る。
途端に死の香りを感じてたじろいだ。
今目の前で好きな人が死のうとしている。
その現実があまりに衝撃的でユナはベッドに近づくことができなかった。
「ユナちゃん。声をかけてあげて」
シュンヤの父親にそう言われ、やっとシュンヤの隣に立った。
入院当時はあれだけ血色のよかった顔が、今は青白い。
死神に半分魂を持っていかれているのか、すでに生気を感じられない。
「シュンヤ……」
1度名前を呼ぶと感情が溢れ出す。
「シュンヤ行かないで! まだここにいて!」
ユナはシンヤの手を握りしめて叫ぶ。
「80歳まで生きるんでしょう!? まだ死なないんだよね!?」
懸命に声をかけると、ふいにシュンヤの心臓が動き出した。
「心拍再開です!」
病室内が慌ただしくなる。
「シュンヤ、シュンヤ!」
ユナの叫びが届いたのか、シュンヤがうっすらと目を開ける。
「ユナ……」
「シュンヤ!!」
「遊園地に……水族館……それに動物園」
シュンヤが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
ユナはそれをひとことも聞き逃さないように耳を近づける。
「全部……できるよ。だって俺……80歳まで生きるから」
シュンヤはそう言って笑った。
希望をいだいて、目を輝かせて。
ユナも笑った。
そして何度も頷いてみせる。
きっとできるよ。
全部できる。
だって2人はいつまでも一緒だもんね。
シュンヤの心拍が再び弱まる。
だけどユナは笑っていた。
ボロボロと泣きながら笑っていて、その表情は未来への希望で満ちていた。
シュンヤが幸せなら、私も幸せ……。
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