ヌンチャクと怪鳥音

 カンフー映画好きが高じて、ヌンチャクを購入した後輩バカがいた。

 日々の講義を当然のようにサボり、キャンパスの芝生の上で練習を重ねた彼は、いつしか、それなりに様になるようにまで上達した。

 こうして彼はドヤ顔で演舞を決め、いわゆる怪鳥音というのを出すようになる。

 その熱意を勉学に向けろとかは言ってはいけない。かつての大学生はこんなものなのである。

 そして、これからする話にはこの後輩はまったく関係ない。


 次郎丸(仮名)は食い意地がはっていて、色々なところをなめまわす。

 食事を待つ間はケージを舐め、食後は自分の皿を舐める。

 彼の食い意地はここでとまらない。となりのケージの太郎丸(仮名)が食事を済ませてケージを出ていくと、すかさず中に侵入し、太郎丸(仮名)の皿を舐め回すのである。

 料理をしていれば、下に何かが飛んでこないかと待ち構えている。ただし、落ちてきた食材を食べようとすると、ものすごく怒られるということを彼は理解している。

 頭のよい彼は、煮汁や油の類ならば、飼い主たちも気が付きにくいということも学習し、床を舐めるようになった。


 恥ずかしい話であるが、それほど家を綺麗にできていない。

 床には髪の毛やホコリがおちていることがある。

 それがうまいわけはないのだが、次郎丸(仮名)はそれを舐めていることもある。

 そして、ここで舐め取った髪の毛がこれから語るソポクレスも尻を出して逃げる悲劇につながるのだ。


 先日、朝食後、次郎丸(仮名)が庭でふんばっていた。

 彼は散歩や遊びに行くと、半分出ていても意地でも我慢する(注1)が、家にいるときは食後すぐにふんばりに外に出ていく。

 後をついていき、落とし紙で彼の黄金の炎フラムドール(注2)を受け止めていた私の前で彼は中腰のまま、移動していく。

 出が悪いようだ。

 そのうえ、きばりにきばって出した先っぽは尻から離れない。

 次郎丸(仮名)が尻を振る。

 カジンのものとおぼしき長めの毛髪で次郎丸(仮名)の肛門と連結されたヌンチャクが私を襲う。

 「ホゥワァッ!」

 ヌンチャクの手痛い一打をくらった私の口から怪鳥音(ボーイソプラノ)が漏れる。

 それでも、私は武道の有段者だ。ただではやられない。落とし紙で相手の得物を引っこ抜く。

 髪の毛というのは細いから、それなりに尻がきゅっと痛むらしい。

 「キュアッ!」

 次郎丸(仮名)が怪鳥音で応える。

 こうしてある朝の私たちの決闘は相打ちで幕を閉じるのである。

 どんとしんく、ふぃーーーる。


注1:このあたりについては、「ブリ:ぶりぶり」、『御痴走帖』を参照していただけると幸いである。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657029655846/episodes/16817330658520826047

注2:私はスーパードライ生ジョッキ缶を愛飲しているので許していただきたい。なんのことかわからない人は「うんこビル」とかいう言葉で検索したりしないように。おいちゃんおにいちゃんとの約束だよ

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