第122話 船上の再会
「あれ……お前……」
お色気ムンムンなボディに胸元が見えるセクシーな薄着、そして大きな曲刀に褐色の肌。めちゃくちゃ見覚えがある……!
女の方も俺のことを覚えているみたいだし。やはりまちがいない。
「たしか……メイフォンっつったっけ? なんだってここに……?」
「く……! それはこちらのセリフだ……! どうしてお前がここにいる……!?」
「いやいや。船に勝手に乗り込んできたのはそっちだろ……!?」
つかいつこの船に乗ったんだよ!?
それほど大きな船じゃないから、こんな目立つ服と武器を持った女がいたらすぐに気づくってのに……!
「マグナ! たいへん! ルスチーヌ様の船が賊に襲われてる!」
ルドレットも姿を見せる。だが彼女もメイフォンの姿を見て、驚きの表情を浮かべた。
「だれ!?」
「たぶんルスチーヌの船を襲撃している賊の仲間だ! ルドレット、下がってろ!」
「ルドレット! ここはマグナに任せましょ!」
「くそ……!」
メイフォンは曲刀を俺に向けてくる。どうやらやる気らしい。
「狙いはルドレットか……? わるいがいまの俺は彼女の護衛なんでね。余計な仕事を増やしてほしくないんだが……」
剣は抜かない。グナ剣で立ち向かっても、俺では即座に決着をつけるのがむずかしい相手なのはわかっている。
「はああぁぁぁ!」
俺と会話をする気はないのか、メイフォンは一瞬で距離を詰めてきた。そのまま勢いよく曲刀を振るってくる。
俺が剣を抜く前に決着をつけようと考えたのかもしれないが。はじめから抜く気はない。
「わるいな……!」
俺は右手に金属の筒を握ると、その先端部から青白い光の刀身を伸ばす。そしてせまりくる曲刀を払った。
「は……?」
フォトンブレイドの刀身に触れた部分から、曲刀はあっさりと断ち切られていく。互いに剣を振りぬいたとき、メイフォンの持つ曲刀は半ばからキレイに断たれていた。
しばらくしてボチャンと水音が聞こえてくる。2つに分かれた曲刀の先端部が水路に落ちたのだ。
「せいっ!」
驚きで硬直している隙を逃す俺ではない。フォトンブレイドの刀身を納めつつ距離をつめ、胸部に拳を突き立てる。
「んかはっ……!?」
もろに打撃を受けたメイフォンは、肺にたまった空気を吐き出しながら床に倒れこんだ。
汗をかいた肢体がなかなか悩ましく、すこしイタズラしたくなる……が。さすがに今はそんなことをしている場合じゃねぇ……!
「ルドレット! なにか縛るものは!?」
「すぐ持ってくる!」
念のためメイフォンの持っていた長剣を船の片隅まで蹴り飛ばす。
しばらくまともに立ち上がれないだろうが、武器は奪っておくにこしたことはないからな。
「マグナ!」
「お、サンキュ」
ルドレットが走って縄を持ってきてくれた。俺はそれでメイフォンを縛り上げようと、腕を伸ばす。
そしていよいよその身体に触れるか……というタイミングで。メイフォンはガバッと起き上がると、そのままいつの間にか持っていた針を俺の伸ばした腕に刺した。
「いたっ!?」
前回、ラデオール六賢国で俺の衣服を斬れなかったことを覚えていたのだろう。今回はしっかりと素肌を狙ってきていた。
そもそも俺も薄着だし、肌の露出は六賢国にいた時よりも多い。
だがチクりと痛みが走っただけだ。俺はそのままメイフォンの腕をつかみあげると、強引にねじった。
「んぐうぅぅ……っ! ば……!? たしかに……刺したのに……!?」
「ああ、たしかに刺さったよ! いてぇじゃねぇか! まったく……!」
そのままメイフォンをうつ伏せに押さえこみ、馬乗りになる。そして後ろ手を組まさせてかなり強めに縄で縛っていった。
「なんで……!? あの針には、強力な筋弛緩効果のあるクスリを塗っていたのに……!?」
「え……?」
どうやらただの針じゃなかったらしい。そういや前にリリアベルが言っていたな。メイフォンが毒を持っていた可能性があるって。
「ああ……なるほどね。残念だけど、俺。そういうのほとんど効かないから」
「そん……!?」
そんなはずはない……と言いたげだな。でもいいことを聞いた。
俺はメイフォンの持っていた針を拾うと、それを彼女の目の前へと持っていく。
「筋弛緩系なら、おとなしくしておいてもらうのにちょうどいいな」
「………………っ!!?」
「てなわけで、プスっとな」
「っぁ!?」
メイフォンの腕に針を刺す。効果はすぐに出た。彼女は全身から力が抜けていき、声も出せなくなる。
「……たいじょうぶかな?」
『さてな……。まぁ呼吸はできているようだし、すぐには死なんだろう』
「そうか。それじゃ……」
とりあえずノリで、うつ伏せでよく見えているメイフォンの尻をパァンと叩いてから立ち上がる。
なんとなく六賢国での仕返しができたみたいでスッキリした。
「ルドレット! たぶんだいじょうぶだと思うが、一応この女を見ておいてくれ!」
「え……う、うん……。マグナは……?」
「俺は念のため、ルスチーヌの船を見てくるよ」
「え……? どうやって……?」
「こうやって……だよ!」
かなりの速さで船上を走る。そして思いきり助走をつけて、前方を進む船に向かってジャンプをした。
「おおおお!!」
我ながらすばらしい脚力コントロール。狙いどおりにルスチーヌたちの乗る船に下りられそうだ。
視界の下では、サムとマッソーが武装した男と戦いを繰り広げていた。マッソーはケガをしており、右腕から血を流している。サムも苦しそうだ。
そんなところに、俺は上空から強引に乗り込む。船体に着陸したとたん、船が大きく揺らいだ。
「うわ!?」
「…………!? マグナくん!?」
「なんだ、おまえぶぎゃっ!?」
有無を言わさず、男の顔面を殴り飛ばす。男はサムの方に向かって吹き飛び、そのまま床を転がった。
サムはそんな男を捕まえると、しっかりと両腕の骨を折りにいく。
「うぎゃあああああああああああ!!!!?」
おお……容赦ないな。だてに土の四聖騎士の護衛は任されていないか。
よく見るとサムもケガをしているし、ここで確実に無力化しておきたいのだろう。
「はぁ、はぁ……! ふぅ……。ありがとう、マグナくん。まさかこの距離を飛び越えて助けにきてくれるとは思わなかったよ」
「おう」
とりあえずこれで騒ぎは収まったかな……?
「……終わったの?」
奥からルスチーヌが姿を現す。彼女との話し合いで、いったん船をとめて話し合いをすることとなった。
■
「ふん。この2人が襲撃者というわけね?」
2隻の船を並べ、俺たちはいま、ルスチーヌの船へと移動していた。
それほど広くはない甲板にしっかり縛られたメイフォンと、両腕の骨を折られた男が転がされている。
「ああ。こっちの船にはこの女が襲撃しにきていた」
2人とも共通して同じ装飾の長剣を持っていた。これでなにをする気だったんだ……?
すくなくともメイフォンは、前に戦ったときに長剣はもっていなかった。
「はぁ、はぁ……。まさか……しくじるなんて……ね……」
メイフォンが苦しげに声をもらす。どうやらしゃべれるくらいには回復したらしい。
骨を折られた男の方は、あまりの激痛のためかまだ意識が戻っていない様子だった。
ルスチーヌはメイフォンの前へと移動する。そして強くにらみつけた。
「答えなさい! なにが狙いでわたしたちの船を襲撃したの!?」
「………………」
「この……!」
ルスチーヌは倒れるメイフォンの顔を踏もうと片足を上げる。それをとめたのはサムだった。
「いけません、ルスチーヌ様。淑女がとるべき行動ではございませんよ」
「………………ふん」
淑女て。だが四聖騎士では唯一ドレスを着て登場していたし。実は淑女とやらを心がけていたのかもしれない。
「素直に答えなさい。さもなくば、縛ったままこの水路に落とします」
「……好きにしろ」
「なんですって……?」
「どうせ失敗した以上、わたしにもう先はない。ここで殺したくば殺せ」
メイフォンはあきらめたような表情をしていた。うーん……覚悟が決まっているねぇ……。
「よく言いました。サム。この女を落としなさい」
「ルスチーヌ様……しかし……」
「なにをためらっているの? 四聖騎士を狙ったのです、死罪は当然でしょう」
まぁそうなのかもしれないが。サムとしては、無抵抗の相手をこのまま水に沈めるのが忍びないのだろう。
というか、オアシスから水を引いた水路だし。普通に生活用水にも使用されてそうな水路に死体を沈めるのもどうかと思う。
それに彼女を殺されると困るのは俺のほうだ。俺はメイフォンをかばうように前に出る。
「まぁ落ち着いてくださいよっと」
「マグナくん……?」
「じつは俺、ラデオール六賢国の六賢者直々に、ある依頼を受けているんです」
六賢国の代表者からの依頼。これにルスチーヌたちはしっかりと反応を見せる。
「六賢者から……?」
「ええ。ある人に盗まれたものを取り返してほしいってね。で、この女はその人物の側にいたんですよ。つーわけで。この女はこちらでいただきますね」
「ちょっと……!?」
そういうと俺はぐったりとしているメイフォンを担ぎ上げる。
いろいろ聞きたいのは本当だしな。大図書館の地下にあった巨大騎士とか。あとエンブレストの行方とか。
「その男はルスチーヌ様方に差し上げますので。尋問の続きはそっちの男を使って……!?」
さっさと俺たちは聖都に帰りましょう。そう言おうとしたときだった。両腕を折られ、意識のないはずの男の全身がビクンと跳ねる。
そして。急激に全身の筋肉が膨張し、怪物へとその姿を変えた。
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