第94話 久しぶりにシグニールに帰ってきました。
数ヶ月後にメルナキアを迎えに行くという話に落ち着き、俺たちは久しぶりにシグニールに帰ってきていた。ああ……やはり我が家は落ち着く……。
「でも本当によかったのか? メルナキアを連れていくことにしてよ」
『問題あるまい。メルナキアの持つ魔道具や歴史に関する知識は有用性が高い。それに彼女はもっている知識を応用し、自分の研究として活用する
ただの頭でっかちではなく、知識の応用もできる……か。
たしかに過去の学会での活躍ぶりを見ると、若くしてその技術を持っていることはわかる。
「マグナたちが異世界人だと知ったら、きっとびっくりするでしょうね!」
「俺からすれば、リュインたちが異世界人みたいなもんなんだけどな」
冷蔵庫から水を取り出し、グィっと喉に流し込む。いい感じに冷えていて気持ちいい……!
「それよりよ。次の目的地だけど、アンバルワーク信仰国でいいよな?」
「いいのではないでしょうか」
『貴石の件と、精霊の謎について多少は解明できるかもしれんからな』
そう。あれからメルナキアと話して判明したことがあるのだ。
どうやらアンバルワーク信仰国は、精霊に対する研究がどこよりも進んでいるらしい。考えてみればそれはそうなのだが。
ラオデール六賢国では歴史や魔道具の研究が進んでいるが、精霊に関してはそこまで進んでいない。
そもそも精霊化がめったに起こらないし、そこに興味を持つ研究者もすくないのだ。
そしてこれに食いついたのがリリアベルだった。彼女はアンバルワーク信仰国に行って、精霊に対する知識を増やしたいようだ。
アハトにとっても損はない。貴石を確保できれば、それだけアハトのメンテナンス設備が整えやすくなる。
(俺にとってもメリットが大きい。精霊使いになれるというメリットがなぁ……!)
つまり向かわない理由よりも、向かう理由の方が多いのだ。たとえ精霊と戦争中だとしても。
……というか、精霊と人種の戦争ってなんやねん。
「わたしは反対っ! よっ!」
ところがここで反対の声を元気よくあげたのがリュインだった。
「…………? なんでだ? むしろリュインに案内してもらおうと思っていたんだけど?」
「あの国に行っても、四聖剣の手がかりなんてないもの」
「え? そうなの?」
むしろ縁が深そうだけどな。本当に実在するのなら、だけど。
「わたしはあの国で、四聖剣の伝説を知ったわ。でも具体的にどこにあるのか、そうしたことはわからなかったの」
「うーん……」
リュインがどの程度探していたのかはわからないが。1人ならできることに限界があっただろう。
ただでさえ〈フェルン〉は他の精霊から狙われやすい。精霊の多い土地でソロ活動を続けるには、リスクの方が大きいというのは想像つく。
「でも俺たち、まだアンバルワーク信仰国で四聖剣の話を聞いたわけじゃねぇし。もしかしたら新しい発見があるかもしれないぞ?」
「むぅ……そ、それは……そうなんだけど……!」
どうもはっきりしないな。いつもはきはき自分の意見を話すのに。
「…………もしかして。会いたくない知り合いがいるのか?」
「ぎくっ」
そういえばこの森を出るとき、リュインがなにか言っていたような……? 生意気な女を思い知らせてやるとかなんとか……。
「それじゃ次はアンバルワーク信仰国ということで」
「なんでよ!?」
「まぁどうしてもいやなら、べつにここでお留守番でもいいぞ? 安全なのはまちがいないし」
「んぐぅ……!」
リュインは両手を組みながら右往左往していた。
そういえば慣れたせいで気にしてなかったけど、いまだにどうやって浮いてるのか謎なんだよな……。
「つかよ。大図書館の地下二階に自由に入れるようになるには、六賢者とリリアベルが直接会う必要があるだろ? どうすんだよ」
『それについてはいろいろ考えてある。メルナキアを迎えに行くまでには間に合うだろう』
「なにが!?」
まさか……球体ドローンに変わる、新たなボディを鋭意制作中とかじゃないよな……!?
『とにかく次に向かう地は砂漠だ。アハトには念のため防塵対策を施しておく』
「ああ……それは大事だよな」
『あくまで念のため、だ。おそらくなにもしなくてもだいじょうぶだろうがな』
それから、とリリアベルが言葉を続ける。
『光子リアクターの出力を上げることに成功した。これにより、この大陸内であればアハトの外部武装を転送可能だ』
「おお……!」
つまりこの大陸であれば、無敵のアハトさまを倒せるものが存在しないというわけだ。まぁもとからいないだろうけど。
『フォトンブレイドも稼働時間が伸ばせるように再調整しておく。ああ、それから。新たにもう1本作製しておいた』
「まじで?」
『まじだ。しかも原材料の5割がこの星産という特別性だぞ』
そりゃすげぇ。リリアベルはずっと、この星の資源で帝国にある物を再現できないか研究し続けていたのだろう。
また稼働時間が伸びたフォトンブレイドが2本になるということは、実質エネルギー切れを気にしなくていいということだ。
アンバルワーク信仰国は物騒な精霊が多いという話だったし、これは心強い。
さっそく飛んできたドローンにフォトンブレイドを渡す。そのドローンは代わりに特別製のフォトンブレイドを渡してくれた。
「しかしよくこの星の資源を活用できたな……」
『ああ。魔晶核と輝竜石が役立った』
「え……」
魔晶核には〈エーテル〉というものが含有している。このことを把握したリリアベルは、これまで得た情報を参考にして解析の手法を変えたらしい。
その結果、魔晶核から〈エーテル〉を属性別に抽出することに成功したそうだ。
またアバンクスが話していたように、魔道具は〈エーテル〉属性の配合比率が肝になってくる。
これらを踏まえて、いくつもの演算を繰り返し、データ上でさまざまな魔道具を開発していたらしい。
「そんなことができるのか……」
『といってもわたしたちには魔力がないからな。実際に作成しても使えはしないのだが……ここで面白いモノが手に入った。それが輝竜石だ』
正確には、青竜公からもらったサンプル品……つまり小ぶりな屑石だ。
しかしこれの解析を進めていくうちに、いくつもの特性が明らかになったらしい。
『魔晶核には魔力をとどめておく機能がある。まぁ魔力を持つ魔獣に存在する器官だ、これは予想がつく。そして輝竜石は、使い方次第でこうした魔力を増幅できる特性がある』
「使い方次第……?」
『普通の状態では不可能ということだ。まだこの素材を完全に使いこなせてはいないが……加工の仕方次第で、いくらでも可能性を秘めている。青竜公にはぜひとも、報酬の輝竜石をいただきたいところだ』
これまで集めてきた魔道具や魔晶核を解析し、いくつも計算をし続けてきたことで、さまざまな活用法が明らかになったのだろう。
きっとこの星の研究者が何年もかけて解明できることを、短い期間で終えたにちがいない。
もとがスーパースペックのスペシャルAIだからな。その演算能力を惜しみなく趣味に注ぎ込めるんだ、リリアベルも楽しんでいることだろう。
『とにかく準備にしばらく時間がかかる。その間、このあたりの魔獣を倒して魔晶核を集めつつ、転送装置を設置した場所の様子を見てきてはどうだ? 光子リアクターの出力に余裕ができたからな、見回ってくるぶんには問題ないぞ』
そうか……なら久しぶりにノウルクレート王国の王都でものぞいてみるかな。ハルトにクロメの話もしておきたいし。
「アハトはどうする?」
「しばらく防塵処置を受けておきます」
「そうか。リュインは……」
視線を向けると、まだむずかしい顔をしてあっちこっち飛んでいた。まぁしばらく放置でいいか……。
「なら適当に魔獣を狩ってから、ちょっと王都に行ってみようかな」
こうして俺は束の間ではあるものの、久しぶりに王都へ行くことにしたのだった。
■シグニール 拠点レベル3
ノウルクレート王国のある大陸限定ではあるが、アハトの武装を転送できるようになった。またフォトンブレイドもVer3に。
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