第27話 ルシアちゃんに話を聞きました。
つまりルシアの小間使いみたいなもんじゃねぇか……! い、いらねぇ……!
「なんでよ!? わたしの使用していた物に触れられるのよ!? もっと喜びなさいよ!」
「それで喜ぶわけねぇだろ! ……え、まさか……レッド、オボロ……お前たち……」
「やってないぞ!?」
「やってない。俺たちはまたちがう理由で、このファルクに所属することを決めている」
まったく……ルシアちゃんはわかってねぇなぁ。そういうのじゃねぇんだよ。
「まぁ福利厚生にまったく期待できないのはよくわかったぜ」
「むぅ。これならどんな男でもルシアファミリーに入りたいと思うはずなのに……」
「なぜそこに行きついたんだ……」
とりあえずルシアに限らず、どこかのファルクに所属する線はしばらく様子見だな。最古参メンバーというのは魅力的だが……。
「でもマグナたちも、ずっと無所属でやっていくには限界があるわ。それこそ船を得て未探索エリアの開拓なんてできないし、四聖剣探しも無茶よ」
「たいへん、マグナ! ルシアファミリーに入りましょ!」
「だぁ! お前も引っかき回すな!」
この地で四聖剣探しをするなら、〈アリアシアファミリー〉に入れてもらうのが一番現実的だろう。きっとこれまでに取った数々のデータもあるはずだし。
ルシアの言っていることもわかるんだが。俺はべつに一生を冒険者としてすごすとは決めていない。今はまだ……だが。
しかしそれでも、もしアハトがルシアファミリーに入りたいと言うのなら。そのときは考える必要があるだろう。
俺も一緒に行動するか、あるいはソロになるか。
「……アハト。どう思う?」
なんて答えるか……すこしドキドキしていたが、彼女はなんてことのないように口を開いた。
「フ……わたしは自分よりも弱い者に従うつもりはありませんので」
こ……こいつ……! 今日ラングに言ったこととまったく同じことを言いやがった……!
つまりどこのファルクにも入る気がないということだ。
「それじゃアハトを倒せば、自動的にみんなわたしのファルクに入るということね。レッド、オボロ。アハトと戦いましょう!」
ルシアはルシアで積極的だ。しかしアハトは表情一つ変えずに言葉を続けた。
「やめておいた方がいいでしょう。結成初日にして、マスター1人だけのファルクになりますよ?」
「な……!?」
いつもながら自信満々だねぇ……。まぁ事実なんだけど。
しかも挑発して戦いに持ち込もうとしている可能性があるから質がわるい。
だがレッドもオボロも、とくに機嫌を損ねた様子はなかった。
「さて……戦って負けるつもりはもちろんないが。アハトは今日、我らよりも先に魔獣に気づいていたな」
言われて思い出す。たしかに最初に魔獣を発見したのはアハトだった。
まぁ人間の肉眼とはそもそもわけがちがうんだけど。
「正直言って、まだ実力が測れん。だがマグナよりも極端に弱いということはないだろう」
それに関しては俺も力強く頷きを返す。
「ああ。それはないな」
「ルシアよ。まずは事情を話してみてはどうだ? せっかく得られた縁だ、場合によっては協力してもらえることもあるだろう。マグナたちもこの地で冒険者として生きていく以上、ファルクの影響は無視できんからな」
わるいなオボロ。俺たちに関しては「この地で生きていく」という前提がまったくとおらないんだ……!
それはそれとして、ルシアの事情はやはり気になる。
「そうそう、そうよ! どうしてたった3人でファルクを結成できたの? おしえておしえてー!」
思い出したとばかりにリュインも声を上げる。ルシアは一度深く息を吐くと、ゆっくり顔を上げた。
「……いいわ。どうせそのうち、いろんなうわさが回るだろうし。変な話を聞く前に、わたしから直接話してあげる。……グランバルクはわかるわよね?」
「いんや、ぜんぜん」
「初めて聞くワードですね」
「なにそれー?」
「…………………………」
ルシアは口端を上げてヒクヒクさせていた。どうやらこれも常識の範囲内だったらしい。
「はっは! マスター、マグナたちが冒険者のこともファルクのことも、本当になにも知らないのは今日1日でよくわかっただろう? ちゃんと順を追って話していかないと、伝えたいことも伝わらないぞ!」
レッドが豪快に笑いながらルシアを諭す。彼の言葉を聞いて、ルシアはコホンと咳払いをした。
「そ……そうね。昔のことだけど……魔獣大陸にはマスターグランバルクの束ねる最強のファルク。〈グランバルクファミリー〉が存在していたの」
「昔……? いまはいないのか?」
「…………ええ。それも順を追って話すわ」
かなり昔、魔獣大陸はファルク〈グランバルクファミリー〉がかなり強い影響力を持っていたらしい。
ファルクランクも最高位、所属する者も一流ぞろい。しかも数多くのファルクを傘下に治めていたとか。
「ファルクがファルクを……手下にしていたってのか?」
「そうよ。ファルク同士が一時的に同盟を組むことはあるんだけど……グランバルクは文字通り、傘下に治めていたの」
最大規模かつ最強のファルク集団、そのマスター。
グランバルクファミリーはギルドからの信頼も厚く、魔獣大陸において一時代を築いていたらしい。
またその組織力をもって、いくつもの未発見遺跡や新種の魔獣を発見していたそうだ。
その度にギルドからは表彰され、また各国からの注目度を高めていく。
「外大陸の大国も、彼の意向に逆らえないほどだったのよ」
「ただの冒険者が……魔獣大陸にいながら、そこまでの影響力を持っていたのか?」
「ええ。最大規模のファルク集団トップということは、言いかえれば魔獣大陸にいる冒険者たちを束ねる存在とも言えるわ。そして魔獣素材を外大陸に供給する要は冒険者になる」
「…………なるほどね」
つまりギルドにどれくらい魔獣素材を卸すか。またどの種類の素材を卸すか、すべてマスターグランバルク様のさじ加減ということだ。
そう聞くとすさまじいな。当然だが魔獣素材は金銭で取引される以上、市場の原理が働く。
マスターグランバルクがその気になれば、市場に流れる魔獣素材の価格を操作できてしまうのだ。
流通量を絞れば素材価格はどんどんつり上がっていく。
逆に特定の国が貴重な素材だと思って高値をつけていても、無制限に市場に放流すれば、その価格を下げることもできる。
魔獣素材はどの国にとっても、なくてはならないものだ。
ノウルクレート王国の王都も、町中には無数の街灯をはじめとした魔道具が使われていた。すでに人の生活に根付いているのだ。
そういった素材の安定供給ができなくなるばかりか、急な価格変動が起こればどこの国も民も混乱する。生活にも大きな影響が出るだろう。
マスターグランバルクは、国の存在しないこの地でそれだけの影響力を得ていたのだ。
「すげぇ人だってのはわかったよ。傘下にいる冒険者も含めると、文字通り最大派閥を作っていたわけだ。それこそ大国も機嫌をとってくるほどの」
「そのとおりよ。グランバルク系列のファルクに所属していない冒険者は冒険者にあらず……そのような言葉も生まれていたくらいだったわ」
そいつはやべぇな! つかどう考えてもやりすぎだ。
グランバルクの性格次第だが、場合によっては国からもギルドからも、厄介者でしかなかっただろう。
「グランバルクの伝説は本当に数多いわ。でも……12年前。栄華を誇っていたグランバルクファミリーは、あっという間に瓦解したの。マスターグランバルクの死によってね」
「え……」
大国を相手にできる冒険者なんて、まさに英雄そのものだろう。それほどの人物が死ぬ……ねぇ。
病死や老衰というよりは、どうしても陰謀めいたものを考えてしまうな。
マスターの死により、傘下のファルク団体も解散となったらしい。
「今魔獣大陸で活躍しているファルクの多くは、元グランバルク傘下だったところが多いのよ」
「もしかして……アリアシアファミリーやダインルードファミリーもか?」
「アリアシアファミリーはもともと傘下じゃなかったけど……ダインルードは元傘下よ」
うへぇ……精霊まで手懐けていたのかよ。そりゃすげぇ。
「まぁグランバルクファミリーがいかにすげぇファルクだったのかってのはわかったけどよ。それとルシアの事情がどう関係するんだ?」
「そうね。簡単に言うとね。わたしのおじいさまが、マスターグランバルクなのよ」
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