第15話 王都で便利屋が利用できるようになりました。
ギルンとかいう男が拠点にしている屋敷に殴り込みにいき、俺は視界に入った奴らを片っぱしから殴り飛ばしていった。
アハトはというと、ハルバードを振るって建物を破壊しまくっている。
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」
「ひいいぃぃぃぃ!」
最初こそ何人もの男たちが立ち向かってきていたが、いまや逃げ惑う者がほとんどになっていた。
そもそもハルトが俺たちに付き従っているのだ。抵抗すること自体を諦めた者もいる。
それにアハトは建物破壊に集中しているのだが、これがまたえぐい。ハルバードの一振りで壁は砕かれ、天井は崩れるのだ。たぶん素手の方がはやいだろうけど。
そんなこんなで、俺はいま。左手でギルンの胸ぐらを掴んでいた。その両頬はぷっくりと腫れている。目にも青あざができていた。
「んでぇ? 俺の邪魔をし、荷物と旅の仲間までさらってくれたわけだけどよぉ? これどうすんの? あ? 聞いてる?」
「ひ……ひぃ……」
気持ちよく王都1日目を締めようとしていたのに……! いろんな意味で気持ちよくなろうとしていたのに……!
半壊した扉からアハトが姿を見せる。その手には見慣れない道具をいろいろ持っていた。
「魔道具らしきものが落ちていました」
「そうかそうか。きっといらないものだったから、だれかが捨てたんだろうなぁ」
「え……そ、それは……」
「あんだよ?」
「い……いえ……」
胸ぐらを掴んでいた手を離し、雑にギルンを突き飛ばす。そしてしゃがみ込むと、ギルンに視線を合わせた。
「もう一度聞くぜぇ? 俺さぁ。お前のおかげですっげぇ迷惑な目にあったんだけどよぉ。これに対してなにか詫びとかないわけ?」
「ま……まて。そもそもこんなことをして、どうなるかわかっているのか……!? 俺たちはこの辺りを縄張りに……」
俺は立ち上がると、ギルンが使っていた立派な机の前に移動する。そして無造作にその机を蹴り飛ばした。
机はすさまじい速度で壁に激突し、粉々に砕かれる。さらに壁にも穴が空いていた。
この状態で俺はもう一度ギルンに視線を向ける。
「あー……で、なんだって?」
「………………!」
「空耳かなぁ? なんかえらく生意気なことを言われた気がするんだけどなぁ……」
「ギルン。諦めた方がいい。俺はこの方たちにまったく歯がたたなかった。しかも素手だったのにも関わらず……だ」
ハルトくんが諭すように口を開く。まぁこちらから落としどころを提案してやるか。
とりあえず殴ってモノ壊して、それなりに溜飲を下げられたところだし。
『おい。魔道具や珍しそうな物を回収しろ。あと研究もしたい、魔道具について情報を引き出せ』
リリアベルさんからも指示がとんでくる。この屋敷にある魔道具類は、すでに自分のものだという認識なのだろう。
うーん、これぞ帝国製AIの思考って感じだな。辺境にあるローカル星の権利など、はなから認めていないのだ。
「よしギルン。とりあえず条件を飲むのなら、今日はこの程度で終わらせといてやるよ」
「じ……条件……?」
「そうだ。まず金。慰謝料な。あとこの屋敷にある魔道具をありったけ持ってこい。ちゃんと説明もしろよ?」
「え……」
「はやくしろ。それともまだまだこの深夜のパーティーを続けたいですってか?」
「わ、わかりましたっ!」
それからほどなくして、部屋にはさまざまな魔道具が集められた。中には黒い空間を発生させたものもある。
『おい。わたしの言うとおりに質問していけ』
リリアベルも興味が抑えられないようだ。俺は彼女の要望どおりに質問をしていく。
「魔道具ってのは、魔力持ちしか使えないんだよな? で、魔力持ちは貴族に多いから、素材となる魔晶核も彼らによく売れるという話だったが……どうしてお前たちは魔道具を持っているんだ?」
これまでの話だと、魔道具といえば貴族が使うものだというイメージがあった。どうみてもゴロツキのこいらが使用するには、若干の違和感がある。
ギルンは警戒するような視線はそのままに口を開く。
「ま……魔道具は一般に流通しているものもあれば、それこそ貴族が作成して貴族しか使わないものもある。町中に溢れているものは平民の魔力持ちが作っているし、ここにあるのもツテを使えば、金次第で用意できる」
「うん? つまり金があれば一部は購入できるってことか?」
どうやら一口に魔道具とまとめられるものでもないらしい。傾向として貴族が作成するものは、作成も扱いも高度なレベルが要求されるものが多いようだ。
対して一般に出回っているものは作成難易度も低いし、魔力を持ってさえいれば、比較的容易に使用できるのだとか。
「たとえばこの〈黒室〉。こいつは小範囲を一瞬だけ真っ暗な空間に変えるものだが、魔力を込めるだけで発動できる」
宿の部屋に放り込まれたものだな。こいつに魔力を込めて投げると、次に接触した部分を中心にあの黒い空間を作れるようだ。
また発動者は自分の魔力の影響を受けることがないので、効果範囲に入っても視界が塞がれないとのことだった。
限定的な使い方しかできないが、環境がはまれば厄介な魔道具だな。なにせアハトの目ですら、まともに機能できていなかったし。
「他にも魔力を持たない者が扱えるタイプの魔道具もある」
「まじで?」
「あ、ああ……。そういうのは魔力持ちが定期的に魔力を補充する必要があるけどな。街灯とかがそうした魔道具に相当する」
魔道具の中には、魔力が込められたシリンダーのようなものをセットして使用するものもあるらしい。
蓄えられた魔力が尽きるまでは誰でも自由に使用できるし、魔力がなくなれば再充電するか、シリンダーそのものを交換すればいい。
「なるほどね……。で、お前は部下に魔力を持つ奴がいるから、こうした魔道具も持っていたというわけか」
いいなぁ……魔力。俺もほしい……!
ギルンからは他にも〈フェルン〉を狙ったことについても話が聞けた。ハルトから聞いたとおり、どこぞの犯罪組織が〈フェルン〉欲しいと呼びかけているようだ。
「犯罪組織が犯罪組織にそんな募集をかけてんのか……」
「うちは犯罪組織じゃない。グレーなことはしているが、騎士とも揉めごとを起こさずにやってきた」
「は? まさに俺の荷物を盗んで、リュインをさらう指示を出していただろ? このことを騎士に垂れ込むとどうなるんだ? ん?」
「そ……それは……」
ギルンは顔を青くして目を泳がせていたが、やがてその場で頭を床につけた。
「おねがいします、見逃してください……! い、いま騎士にしょっぴかれたら……! 先代から継いで俺の代で潰してしまう……! それはさすがに申し訳がたたねぇ……!」
自業自得! ……と言うのは簡単だが。この状況……使えるな……!
「よぉし。それじゃこうしよう。俺たちはいろんなところを巡るつもりだけどよ。ここに顔を見せたときは、金や寝床、それに食事とかの面倒を見てもらおうか?」
「え……」
「あと調べてほしいことが出てきても、遠慮なく頼らせてもらうわ。お前はこれまでどおり、この組織を運営すればいい。ただし俺たちをもてなせ。簡単に言うとこういう感じだな」
まだまだこの世界は知らないことが多い。こういう都合よく使える奴は重要だ。
「それともそこのハルトくん以上の人物を数多くそろえて、俺たちともう一度やるか? ん?」
「………………! い、いえ……! そ、その条件でよろしくお願いします……!」
よしよし……! 王都で拠点にできそうな場所が増えたな!
今後、王都関連でなにかわからないことがあったら、ギルンに聞けばいい。それに金の工面もしてくれるし。すくなくともこれで野垂れ死ぬことはなくなったな!
一夜にしていろいろあったが、成果としてはわるくないんじゃないだろうか。
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