ファス・キス・エンド 〜ファーストキスから始まるキスエンド〜

@yatutuno

一条竜也①


「てめぇ……調子に乗るなよ。極楽浄土を敵に回したこと後悔させてやる」

「ピーピーうるせぇよ」


 背の高いビルに囲まれた路地裏で男は呟いた。

 

「こんなくせぇところに呼び出しやがって。せめて女の一人くらい用意しておけ」


 よく見ると、薄暗い路地には2人の人間が対峙し、その周囲には複数の人間が横たわっている。

 男は血がべっとりと付着した拳を握りしめ、前方にいるそいつの顔面にパンチを繰り出す。

 物凄いスピードで繰り出された拳に、目の前の人間は反応できず、そのまま地面に突っ伏した。


 周囲の状況に気にする素振りを見せず、男は踵を返し何事も無かった様に大通りへと歩みでた。

 

「くそっ、朝っぱらから服が汚れちまったじゃねぇか……」


 そう言いながらも、拳についた血を自身のシャツに擦り付けて拭きあげる。


「竜也!!」


 急に後ろから怒鳴り声で呼び止められた。声の主をしっている俺は気だるく振り返った。


「よぉ」

「よぉ。じゃないだろ。何でお前は朝から血まみれなんだよ」

「たっちゃんさすがだねー朝から気合入ってますな!」


 メガネの男が工藤蓮、メガネの女が木下雫。

 二人とも俺と同じ高校の同級生だ。


「つーかもう帰るわ。こんなんでガッコ行くとじゃがいもに捕まっちまう」


 じゃがいもとは生活指導の先生で、ゴツゴツして歪な顔付きをしてるため、そうあだ名が付けられた。


「久しぶりに遅刻しない時間に登校したかと思えばこれだもんなぁ」

「殺したの?ねぇ、また殺したの?気になる〜!」

「おい!今まで一度も殺したことねぇよ!大声で殺したとか言うな!」

「まぁとにかく、こんな時に備えてお前の親父さんから制服預かってる。これに着替えて学校行くぞ」

「ちっ、親父のやつ余計なことしやがって」

「私は血だらけたっちゃんで登校しても面白いと思うんだけどね」

「あほか」


ーーーー


 キーンコーンカーンコーン


「あ!たっちゃんどうしたの?あんたが遅刻しないなんて」


 俺に話しかけたのは櫻井奈々美。

 俺がチビのときからの幼なじみだ。

 長い髪とスカートをヒラヒラと揺らしながら近付いてくる。

 そういえばこいつのパンツ見たのは一週間前くらいか。そろそろパンツチャージしとくか。


「おう、おはよう」


 ガバッとね


「きゃぁぁーー!!」

「白か」


 うんうん、良きかな良きかな。


 周囲のざわめきが聞こえる。おい、誰だ今ありがとうって言ったやつ。


「こんの、ど変態野郎がーー!」

「げふぅぅ!!」


 奈々美の放ったボディーブローが華麗に突き刺さり、身をよじらせる。


「あんたいい加減にしてよね!いつもこんな事して!」


 すぐさまダメージから回復した俺は、奈々美の乳を揉んでやった。


 ひゃーひゃひゃ。油断する奴が悪いのだよ。


「きゃ!?何すんのよーー!!」

 

 奈々美の放ったストレートパンチがみぞおちに突き刺さり、身をよじらせる。


「み、みぞおちはやめろ。し、死ぬ」

「ふん!あんたが変なことするからよ!」


 奈々美のやつ、強くなってやがる。マジでいてぇ。


 キーンコーンカーンコーン


 始業のチャイムと共にセンコーが教室に入ってきた。


「皆席につけ。お、竜也。お前が遅刻してないなんてな。偉いぞ」


 うるせっ

 と呟き、痛み冷めやらぬままに席に座った。


ーーー


「ようやく昼飯かー!腹減ったなー」


 結局授業の殆どを寝て過ごしたせいか腹減ったな。


 昼の休み時間が始まり、俺は教室を後にする。すると、隣のクラスから蓮も出てきた。


「蓮、飯行こーぜ。マー坊とかっちゃんは?」

「マー坊は腹下してるからパスだって。カッチャンは後から行くから先に行っててくれってさ」

「そっか。じゃあ行くべ」


 コロッケパンと牛丼があちーよな。

 うん、やっぱその組み合わせだわ。

 俺の胃袋が欲してるのはそれだ。


「た、竜也くん。体育の時間中、校門のところで怖い人から渡されたんだけど……これ、竜也くんに渡せって」

「あ?んだこれ」


 急に後ろから声をかられて、紙を手渡された。


 見知らぬクラスメートから渡されたのは、折りたたまれた紙だ。紙を開くと、そこには。


『放課後clubブルージェイルに一人で来い。

逃げたらどうなるかわかってるな?

お前の身近なやつを痛めつけてやる』


 気持ち悪い手紙だな。

 むさくるしい男が書いたむさくるしい手紙だ。何で俺にはこんな手紙ばっか来んだよ。ってか手紙ってもう古いだろ。


 しかし最後の文章は頂けないな。

 全員ぶち殺す。


「なんだ、また挑戦状か?お前いつの時代生きてるんだよ」

「俺じゃなくてこの手紙くれたやつに言え。放課後皆で行こーぜ」

「何で俺も行かなきゃいけないんだよ!ここに一人で来いって書いてるだろ」

「ばーろー。殺るのは俺一人だ。お前らは近くでシコってろ。終わったらそのままブルージェイルでダーツしようぜ。今日は俺時間あるだよ」

「まったくお前は……」


ーーー


 放課後


「最近この辺、サツが多いよな」

「族が葉っぱや粉流してるらしいぞ。そのうしろにはやーさんもいるって噂だ」

「やだねーまったく。俺らの様な平和的な一般人からすればいい迷惑だな。さっさと捕まってほしいぜ」


 かっちゃんとマー坊が物騒な話をしている。

 本当に世の中どうしちまったんだ。薬なんかでハイになってもしょうがねーだろ。エクスタシーを得るのはS〇Xだけにしとけって話だ。

 やったことはないけどね。


「着いたぞ。じゃあお前らはその辺で時間潰してくれ。終わったら連絡するわ」

「お前の事心配しても無駄だし、そうするよ」

「早めに頼むぞー」


 俺は友人を背にして、地下へと続く階段を降りていった。

 ブルージェイルの扉前で立ち止まり、目を閉じる。

 俺はいつも喧嘩になるときはスイッチを切り替えて挑むことにしている。

 まぁ、有象無象などどうにでもなるんだけどね。


 ドアを手前に引き中を覗くと、案の定大勢のきもい男どもが睨みつけてきた。

 この暇人どもめ。

 キモキモ団の一番奥にダンプカーの様に大きくデブいやつがいるが、あいつがボスかな?


「来たか。とりあえずこっち来て座りな」


 ハンプティダンプティ(仮)が俺を部屋隅のソファーへ案内した。

 やはりこいつがボスだな。

 キモキモ団のガンつけをかき分けてソファーへと腰掛ける。

 

「心配するな。手は出さねーよ。俺は平和的交渉をしたいだけだ」

「なに?それは俺も賛成だ。何が目的だ?」


 ハンプティダンプティはどっしりとした体躯をより一層ソファーへと沈め、腕を組みながら提案してきた。


「俺はこの辺を仕切っている極楽浄土の幹部をしている。まぁデカいチームだ。聞いたことくらいあるだろ?お前かなり腕が立つようだな。俺は強いやつを探していたんだ。悪い様にはしない、うちに入らないか?」


 まさかの暴走族への勧誘かよ。


「な!?ハンプティ・ダンプティさん!!俺らの仇を取って下さるんじゃないんですか!?」

「うちに上等こいたやつですよ!?」


 こいつのあだ名当てちゃったよ。

 それにしても、鼻ガーゼのやつが横やり入れてきたな。

 あいつらは……今朝俺がぶちのめしたやつらか。


「うるせぇぞ雑魚どもが!!何で俺様がてめぇらの仇取らなくちゃいけねぇんだよ。てめぇの尻も拭けねぇ青二才が。いっちょ前に吠えてんじゃねぇぞ!ダンプされてぇのか!?」


 ダンプティに喝を入れられてからもギャーギャー喚いていたが、周りに殴られておとなしくなった。

 ダンプされたいってなに?


「見苦しいところを見せたな。それでどうだ?うちはでかいチームだぜぇ。悪い話ではないだろ?」


 ふぅー、ったくこいつらのコントにちょっと拍子抜けしたが、俺が族に入るわけねぇだろ。


「わりぃけど族には興味はね……」

「女だって抱き放題だぞ」


 抱き放題だぞ……抱き放題だぞ……抱き放題……抱き……


「ダンプティさん、続けてください」

「お前、まだ仲間でもねぇのに俺のこと気安く呼んでんじゃねぇ!」


 しまった、ダンプティさんの機嫌をそこねてはいけない。あくまで平和的解決の為だ。世の中喧嘩で全てを解決するなんて馬鹿のすることだ。


「ふっ、お前女好きか」

「三度の飯より好きだ」

「潔いやつめ。いいだろう」


 互いに口角が上がり、ニヤリと気持ち悪い笑みがこぼれる。


「女をものにするには、それは喧嘩が強いってだけじゃ駄目だ」

「ふむふむ」


 ダンプティは芝居がかった態度で、パチンと指を鳴らした。

 すると、スタッフルームと思われる扉から、女性が五人入ってきた。全員露出の多い服装で、開けた胸元は目のやり場に最適である。目の休憩場所に認定しよう。男ばかりのこの場所では正にオアシス。ダイブしたい。


「美人だろう?こいつらは全員俺の女だ」

「なっ!?なんだと!?」


 ガタッっとした音はソファーがゆえたたなかったが、それぐらい勢いよく立ち上がった。


 とてもモテるとは思えない容貌のダンプティパイセン。侮っていた。五人の女から好かれるとは……弟子になろうかな。いや、弟子にして下さい!


「こいつらは俺らが潰したチームの女だったやつらだ。わかるだろう?こいつらは貢物だ。チームが強く、資金も豊富にあればこういうこともできるのさ!」


 ダンプティは両手を広げて両脇に女性を抱き寄せた。大きく高笑いをしながら、手を服の内側に滑り込ませ、乳を揉みしだいた。


 服越しだがしっかり指の沈み具合がわかる。間違いなく生で触ってやがんな。師匠俺も触りたい!


 しかし、今気付いたが、女達の顔は生気がなく、カラダのあちこちには痣ができている。まさか……


「ぎゃはは。いくらおめーが強かろうが、何百人ものチームを相手にできまい。つまりはそういうことだ」

「一つ聞きてーんだが。あんたその人達殴ったのか?」

「あ?あーこいつらの痣見て言ってんだな。おいおい誤解すんなよ。これは只の躾だ。どんなやつでも、聞き分けの悪いやつには躾が必要だ。誰が上か教えただけだぜ?」


 こいつ悪びれもなくじぶんがやったこと認めやがった。


「うちに入るなら、俺の下に配属させてやる。おめーが噂通りなら、いい思いさせてやるぜ?」


 悪い豚はただの豚だ。

 女、子供、老人に手を上げるやつは許さん。

 ダンプティさんと呼んだ自分が恥ずかしいぜ。


「取り敢えず全員死刑な」


ーーー


「ま、まて!話せばわかっぷぎゃぶひ」


 よし、これで全員片付いた。

 ダンプティは他よりは少しタフだったがそれだけだ。俺の相手ではない。


 お姉さん達にももう手を出さないって誓ったから大丈夫だろう。


「ねぇ、大丈夫?とっても強いのね。ごめんね私達の為に」


 お姉さん達が謝ってきたが、元々全員殺す予定だったから問題なし。


「恨みを買っちゃったわね……本当にごめんなさい。もし良かったら触る?これぐらいしかお礼できないし」


 そう言ってGカップお姉さんが胸を差し出してきた。間違いなくそれくらいデカい。


 マジかよ。ギブアンドテイクという事だな。

 墜ちた女神を救ったのだから、当然の報酬といえる。


 いやまてよ。俺はそのために喧嘩したんじゃない。弱みにつけこむ訳では無いが、なんだか駄目な気がする。


 俺が迷ってる間、女神は両手で果実を持ち上げタプタプと揺らしている。


 さ、触りたい。

 見てくれよあの大きさ。谷間が半端ねー

 

 しかし俺はなんとか本能を抑え込み、拒否することに成功した。


「いいって。気にするな。もう帰れ」

「そう……わかったわ。次に会ったときはサービスさせてよね」


 彼女たちは名残惜しそうに去っていった。名残惜しいのはこっちだってのに。


 それにしても、思ったよりいたなー。こいつら邪魔だし隅の方にどかしとこ。

 そろそろあいつら呼ぶか。


ーーー


「おいおいまじか。何でここだけ紛争地帯になってるんだよ」

「いつもの事だろ」

「うわっ!何だこのでっけぇやつ。エグいな」

「そんなことはどうでもいいからよー。こいつら移動するの手伝ってくれ」


 至るところに血が飛散しており、いくつもの家具が壊れている店内の惨状に三人はしかめっ面をあげるが、いつものことだと直ぐに気持ちを切り替えた。


 倒れてるキモキモ団を皆でせっせと移動させ、ダーツスペースを確保した。


「つーか時間ねぇな。一時間位しか遊べねー!」

「お前今日休みじゃないのか?」


 作業も終わり、いざ遊ぼうと思ったら結構時間が経過していた。

 喧嘩に時間使いすぎてたか。


「休みつっても6時までなんだよ。そっからは普通に修練だ」

「あらー竜也ちゃんって門限6時なんでちゅかー?子供は早く帰らないとねー」


 冗談でディスってきたかっちゃんにげんこつをお見舞いしてやった。


「お前の親父怖えもんなー。俺の親父がああだったら、家出するかもしれん。世界の果てまで行ったっきりするわ」

「あんのクソオヤジ、俺よりちょっと強えからって調子乗ってんだよ。だけど俺もそろそろ壁超えてやるぜ」


 俺の親父は中国の古武道の継承者で、地元では道場を営んでいる。国家公認の人間兵器。はっきり言ってクソ強え。人間国宝でもある。小説かよ!と思うかもしれないがこれはマジだ。一般人とは一線どころか五線くらい画してる。


 そのせいで俺も小さい時から鍛えられている。

 過酷な稽古の日々。思い出すだけで血反吐を吐きそうだ。

 あの非人道的な親父の顔面に、早く一発入れてぇなー


「竜也の親父さんに最近会ってないな。俺も久しぶりに稽古つけてもらおうかな」

「うげぇ、蓮お前モノ好きなやっちゃなー」

「だははは。蓮はおめえらなんかとは気合がちげぇんだよ。でもよぉ蓮。前にお前、※内功はもう習わないって言ってたろ?」※体内から生み出される気

「俺が習うのはこっちの方だよ」


 そう言って蓮は空を切り裂いた。

 正確には切り裂いたように見えた。手には何も持っていないが、軽く握られた手から得物が伸びている。これは刀だな。

 蓮のやつ、腕上げたな。

 

 今の無駄のない動きだけで、こいつがどれだけ振ってきたかわかる。


「なぁにカッコつけてんだよ」

「お前は逃げ専だろ」


 かっちゃんとマー坊が蓮を茶化している。

 そうか、こいつらは高校からのダチだから、中坊のときの蓮を知らないのか。


「ばぁか。お前らじゃ蓮には敵わねぇよ。まぁ、その蓮も俺には敵わねぇがな!」

「分かってると思うが、俺はこれだけじゃないぞ?自意識過剰は身を滅ぼすぜ」


 眼鏡を人差し指で持ち上げ、目線を俺に送ってくる。鋭く突き刺さる眼光は俺を刺激した。


「……やんのかコラ」


 お互いに殺気立ち、周囲がピリ付き始める。

 久しぶりにこんなのも良いな。


「お、お、お、おぉーーーい!?待て待て!おめぇら怖えよ!俺らダチだろ?ダチ同士でやり合うなよ!蓮が強いのはわかったからさ!な、仲良くやろーぜ。ほら、ダーツで勝負しよ!」


 マー坊が急に大声で仲裁に入ってきた。

 まだ全然始まらねぇよ。今からボルテージを上げるとこだったけど、そうなったらマジで止まらなかったかもしれないな。


「早とちりするな。俺はいまさら竜也とやる気は無いよ。竜也もそうだろ?」

「あぁ、たりめーだろ」


 ふぅー危なく喧嘩するとこだったぜ。

 しかし中坊のときは、よく蓮と喧嘩してたけど、高校入ってからは喧嘩しなくなったな。

 俺らもおとなしくなったもんだ。


ーーー

 

「はぁ、皆でつるむのもいいけどよぉ。そろそろ彼女欲しいよなー」


 皆でダーツを楽しんでいると、かっちゃんが急にナーバスな事を言い出す。

 しかしそれには同意しておく。


「うんうん、全くだぜ」

「いや、お前には奈々美がいるだろ。いいよなー。めっちゃ可愛いし。誰もが付き合いたいと思ってるぜ?」

「はぁ?あいつのどこがいいんだよ。あんな暴力女願い下げだ」

「じゃあ俺が告ってもいいか?」

「殺すぞてめぇ」

「どっちだよ!おめぇがはっきりさせねぇから、奈々美はいろんなやつに告られてるんだぜ?マジで誰かに奪われてもしらねぇぞ」


 確かに俺は奈々美事が好きだ。だけどそんなこと恥ずかしくて言えるか!大体、告って振られたらどうすんだ!メンタル崩壊すっぞ!

 幼なじみってのはそんな簡単なものじゃねーんだよ。 


「そ、それより蓮はどうなんだよ!雫とずっと一緒にいるけど、お前らもう付き合ってるのか?」

「俺が?何故あいつと……」

「確かに蓮と雫の事は気になってたんだよ」

「付き合ってないならどんな関係なんだよ?答えによっては俺とマー坊が敵に回るぞ」


 苦し紛れに蓮にボールを投げたら、かっちゃんとマー坊が食いついてきた。


「うっ、それは……」


 蓮のやつ狼狽えてやがる。すまねえな。

 しょうがない。俺が説明してやるか。


「こいつと雫は、俺と奈々美の関係と同じだよ」

「はぁ?それはどういう……あぁそういうことか。こじらせ幼なじみ系な」

「はい敵ー。呪い殺してやる」

「呪いに頼るあたりがお前らしいな」


 でも蓮と雫の場合は、雫の方が好きって公言しちゃってるからな。マジで後は蓮次第なんだが。


 「俺は……雫と付き合う資格なんか無いよ」


 チッ

 まだそんな事言ってやがんのか。

 

「お前それは既に……あぁもういい!ダーツすんぞ!この話はもう終わりだ!」


 俺は知っている。

 何故蓮がそんなこと言うのか。

 小坊のときに、蓮が家の道場の門を叩いたときからこいつの時間は止まったままなのだ。


 高校入ってからだいぶ大人しくなったから、既に吹っ切れたと思ったけど……まだ抱えてやがんのか。


「なぁにが俺には資格がないよ、だ。カッコつけてんじゃねぇ。この中二病が」


 さすが空気を読まない男。その名もかっちゃん。マー坊ですら暗い過去を察して黙ってるってのに。


 いらつくからプスっと行っとくか。ほいっと。


「あだぁぁぁー!!てめっ!何すんだよ!!痛ぇじゃねーか!!」


 そうか痛いか。自業自得だ!

 あ、蓮お前はポケットに手を入れてるんじゃねぇ。何が出てくるか知らねぇが、洒落にならんぞ。


「キター!!おい!見てみろ!ど真ん中決めてやったぜ!ヒャッホーイ」

「…………」

「ふっ」

「おまっ!絶対ズルしたろ?正直に言え!」


 ちょっと変な雰囲気になったが、マー坊のおかげでダーツを再開できた。あまり時間はねぇが、もう少し遊んで帰るか。

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