紳士なネコは魔法が使いたい
萎びた家猫
第1話 おはようなのである!!
吾輩はいつものように街の喧騒で目を覚ました。体を少しだけ起こし窓の外を見ると、外では忙しなく働く大きな人、そして元気に遊んでいる小さな子どもで溢れかえっていた。
「ふあぁ......いい朝なのである!! お天道様もおはようなのである!!」
「あらやっと起きたのね」
そう言って部屋の何処かから声が聞こえてきた。吾輩は声がする方向へ、顔を向けると声の主におはようをする。
「ししょー、おはようなのである!!」
「はい、おはよう。ちゃんと挨拶できて偉いわね?」
このヒトは吾輩の魔法のししょーである!!
ししょーは吾輩の言葉を理解できる、とても頭のいいヒトなのである!!
「昨日は魔法の練習をして疲れたのでとてもよく眠れたのである!!」
「そんなに、にゃーにゃー鳴いても何を言ってるかわからないわよ? お腹がすいたのかしら?」
「確かにご飯は欲しいであるが、違うのである!!」
ていせいするのである。言葉は結構伝わらない事が多いのである。でもししょーは頭がよいので欲しいものをすぐ用意してくれる。
吾輩は紳士なのでちゃんとお礼を言えるのである。
「ししょー、ありがとうなのである!!」
「ありがとうって言ってるのかしら?」
「そうなのである!! しんしのマナーなのである!!」
「......そう、偉いわね」
ししょーはなんだか嬉しそうだ!! ししょーが嬉しそうだと吾輩も嬉しいのである!!
あっ、頭を撫でられたのである!! ししょーの手は温かいから好きなのである!!
んにゃーゴロゴロ......
「さて、開店の準備もしなきゃいけないからさっさち朝食を作ろうかしら。フィラムは......そうね危ないから、テーブルで待っていて頂戴。」
フィラムは吾輩の名前なのである!!
「わかったのである!!」
本当はお手伝いしたかったのであるが、お願いを聞いてあげるのも紳士のマナーなのである。
吾輩は大人しくご飯を待つのである!!
吾輩は我慢ができる紳士なのである!!
そうしてテーブルでししょーと朝ごはんを待っていると、店の入口でチリンチリンが鳴った。
「アリシアいるか?」
お店の入り口を見ると旅人の様な格好の人が入ってきた。
「うん? フィラムしかいないのか」
「おお!! 【剣のヒト】であるか!! ししょーは今朝ごはんを作っているので、少し待ってほしいのである!!」
この人はいつも不思議な剣を持っているので、吾輩は【剣のヒト】と呼んでいる。たしかししょーからは"ウィリアム"と呼ばれていた気がするのである。
「......何か伝えようとしているのか? すまないが猫の言葉は介さない」
むう......やはり、言葉が伝わらないのは不便なのであるな。ししょーがいる厨房は、あのチリンチリンが聞こえにくいので、吾輩は呼びに行ったほうが良いのであろうか。
しかし、ししょーからは待つ様に言われているのである。うーむ、悩ましいのである。
「ふむ。落ち着きのないフィラムが、ここで大人しくしているという事は、アリシアは研究室か厨房だろうか......急ぎの用なのだが」
なんと吾輩が落着きがないと言うであるか!? 紳士な魔法使いを目指している吾輩が、そんなはず無いのである!! これはこうぎせねばならぬっ!!
「吾輩はいつもれいせいちんちゃくなのである!!」
「なんだ、いきなり騒ぎ始めて腹でも減ってるのか? ではアリシアは厨房か」
吾輩はそこまで食いしん坊ではないのである!! こういう事はちゃんとこうぎせねばならぬ。紳士としてのメンツというものがあるのである!!
ふむ。この前、騎士のヒトが言っていたことをマネしてみたのだが、メンツとは一体何であろうか? ししょーに褒めてもらえる吾輩のそうめいな頭を持ってしても、とんとわからぬ。
「あら誰か入って来たと思ったらウィリアムさんじゃない。まだ開店してないんだけど?」
「すまない、急ぎの用だったのだ。それにお前は常に起きているだろう」
おお、ししょーが戻ってきたのである!! ししょーからも、吾輩が食いしん坊でないと言ってほしいのである!!
「どうしたのフィラムそんなに興奮して......ああ、お腹が空いたのね? ほら、落ち着いて食べるのよ?」
そう言ってししょーは吾輩の前にご飯を置いた。
「違わないけど違うのである!!」
むう......やっぱり早く魔法を覚えて、ししょーとお話出来るようになりたいのである。
......うむ。ししょーの作った朝ごはんは、今日もいい匂いで美味しいのである!!
「そんなにがっつかなくても、ご飯は逃げないわよ」
「毎回思うのだが、ただの猫にしては食べる量が多くないか?」
「そうかしら? 最初は少ないって、うるさかったからこんなものだと思ってたんだけど」
「いや、土木の男衆とさほど変わらない量は流石に多すぎだと思うのだが......?」
「確かに小柄な割には大食いなのかしら」
「......まあ金に余裕があるやつに拾われたのは幸運だったな」
むむ? "剣のヒト"が吾輩の背中を撫でてきたのである。遊んでほしいのであろうか?
でも今は朝ごはん中なので、かまってあげれないのである。 少し待っていてほしいのである!!
「飯を食べている最中は大人しいな」
「あとは寝てる時くらいかしら、大人しいのは。それより用があったんじゃないの」
「ああ、この間の魔導具がまた必要になりそうだから、幾つか作ってもらいたい」
「あら、この国また戦争でもするのかしら?」
ししょーと夜空の人がお仕事の話をしているのである。 せんそうとは何であろうか?モグモグ
「恐らくとしか言えないな」
「あら同じ穴の狢なんだから、教えてくれてもいいじゃない」
「ならば、さっさと国の要請に従えばいいではないか」
「嫌よ。確かに研究設備は良いけど、自由に研究できないもの」
確かに自由に出来ないのは、吾輩も嫌なのであるな。モグモグ。
「だったら国からお達しが来るまで待て」
「ふーん、次は何処とするのかしらね?」
「はあ、言えないと言っているだろう......」
何だか難しそうな話をしているのである。
お達しとは確か手紙であったか。 ししょーは国王様から手紙を貰っているのであろうか? 吾輩もいつか、お天道様から手紙をもらってみたいものである。
「まあ良いわ。それで、魔導具は何個くらい必要なの?」
「まったく、お前は会話の流れが自由気まますぎる。ペットは飼い主に似るってのは本当みたいだな」
うーむ、吾輩とししょーは似てるのであろうか? でも大きさは全然違うのである。それに吾輩はまだ魔法を使えてないのである......ししょーに恥じない立派な魔法使いに吾輩は早くなりたいのである。
「あら私とこの子がそっくりなんてよくわかったわね」
「誰でも気がつく。今回は10個程あれば問題無い」
「10個ですって? ということはやっぱり大き目の戦争が起こるみたいね。帝国との戦争を再開するの? 怖いから引っ越そうかしら......ねえ、フィラム?」
引っ越しであるか? むぅ......でも吾輩はこの街が好きなのである。それに吾輩は紳士であるからして、街の少年少女達の面倒も見なければいけないのである。
それをほうきするのは、紳士としていけない事では無いのだろうか。
「......これ以上の詮索は、王命により処罰の対象とする」
「あら、困るとすぐそれね」
「いくらお前でも国王陛下に逆らうなら俺が始末する」
「いい忠誠心ね? でも......あなた程度が私を止められると?」
ししょーと剣のヒトが喧嘩しているのである!! これは吾輩がちゅうさいしてあげなければならぬ!! お友達は仲良くしないと駄目なのである!!
「ししょーと剣のヒト!! 喧嘩はダメなのであるっ!!」
「......大丈夫よフィラム。ちょっとフザけていただかだから。そうよねウィリアム?」
「......はぁ、あまりおちょくるな」
「ええ、ごめんなさいね。魔導具は今日中に作っておくから明日、開店してから来なさい」
「開店してから来いと言うのなら、店を開ける時間をキッチリ決めろ」
「それはこの子に言って頂戴な」
むむ、吾輩であるか?
「......フィラムの起床に合わせてたのか。どうりで時間が不規則なわけだ」
思い出してみるとししょーはいつも吾輩が起きてから、お店を開けている気がするのである。ししょーは優しいのであるな!!
「ししょーありがとうなのである!!」
「......何もわかってなさそうだな」
「そんなこと無いのである!!」
「ふふ、さてフィラム。今日は注文された魔導具を作らなきゃいけないの」
剣のヒトと今は話していたものであるな!! ししょーの弟子である吾輩もお手伝いするのであるっ!!
「おお!! 吾輩もお手伝いするのである!!」
「危ないから、今日は貴女に休日をあげるわ。自由に遊んできなさい」
うーむ、どうやら吾輩の出番は無いようである。でも1日自由に遊べるのは久し振りなので気分が良いのである!! 早速出かけるのである!!
もちろん吾輩は紳士なので、吾輩専用の玄関から出る前にお出かけの挨拶を忘れぬ。
「ならお散歩に行ってくるのである!!」
「はい、いってらっしゃい。夕方には終わるからそれまでに帰ってきて頂戴ね?」
「では俺もお暇するとしよう。金はいつも通り受け取りのときに持ってくる」
「ええわかったわ。それじゃあ、ふたりとも気をつけて行ってきなさい」
「......失礼する」
「わかったのである!!」
ししょーに見送られながら、剣のヒトと扉を抜け外に出る。瞬間、剣のヒトは何処かへと消えてしまった。
なにがどうなっているのかわからぬが、お散歩を始めてから直に、そんな不思議現象をみて、今日は何か色んなことが起りそうでワクワクが止まらないのであるっ!!
「ふーむ、まずは少年少女達に会いに行くのである」
吾輩は少年少女がいつもいる公園へ向かうことにした。
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