第25話 メンヘラちゃんは事情聴取を受けている




【長髪のプレイボーイ 孝也たかや 一週間前】


 ――あのバカ、ぜんっぜん電話出やがらねぇ。なんだよ、「最後に話せて」って。ふざけるのも大概にしておけよ。俺のことおちょくってんのか


 訳の分からないことを言われて苛立ちが募る。


 ――また、いなくなろうってのか……?


 ヴ―ッ


 メッセージの着信バイブレ―ションの音が聞こえた。

 悠からかと俺はすぐに携帯の画面を見る。


〈ねぇタカ♡ これから会えなぃ? タカに会いたいなぁ~♡♡〉


 ――悠美ゆみか……


 俺は悠美に会おうかどうか迷った。何もなかったら快諾していたかもしれない。しかし、今は悠のことが気になる。

 でも気にしていても連絡は取れない上に、家の場所も変わっちまってるから突き止めようがない。


 ――気を紛らわせるのに、使ってやるか……


 俺は悠美にいつものホテルで待ち合わせしようとメッセージを送った。

 こんなときだからか、悠がちらつく。

 悠は、こんな感じじゃなかった。俺に惚れているってことも全部解っていた。

 口下手だし、たまにわけの解らないことを言い出すような女だけど、やけに思慮深くて、俺の女癖の悪さも気が付いていてた。

 それでもいいって、そう思って俺のそばにいたはずなのに。

 証拠なんてなくても、解っていたんだろうな。距離感があっても、俺のことになるとやたら鋭くなるような女だ。

 俺が甘えたいときに、いつも黙って受け入れてくれた。余計な詮索も何もしなかった。ただ、黙って抱きしめて撫でていてくれていた。下手な慰めの言葉や、気遣う態度もなくただ、受け止めてくれた。

 俺がをしても、あいつは逃げたりしなかったのに。


 ――なのに………………


 俺は左手首の傷痕を見つめた。消えることのない、俺の罪、弱さ。

 別に本気で死のうと思った訳じゃない。だが、手首を切った俺を、あいつは必死に止めてくれた。泣きながら。いつも、すました顔しているくせに。あいつの涙を見たのなんて、あれが最初で最後だった。

 それから1度も泣いているところなんて見たことがない。俺に見せないようにしているんだろうってのは分かるが。

 あんなやり方卑怯だったって解っている。


 あいつはそれから俺のこと、もっと離れられなくなった。

 それが心地良かった。甘えすぎていた。いるのが当たり前でだから女遊びもエスカレ―トしていった。

 悠が、いなくなるわけないって思っていた。


 当時、悠から連絡が途絶えて、数日経ったときに俺から連絡を入れた。

 なかなか返事が来なかった。でも俺はそんなに気にしていなかった。それでも何日経っても連絡がこなかった。

 少し、不安になってもう一度連絡を入れた。

 それでもあいつから返事がなかった。


 ――あの時は、柄にもなく電話かけまくったりメッセージ送りまくったりしたな……


 俺は悠美と待ち合わせのホテルに、一抹の不安を抱きながら向かった。


 それから事が済んでから悠にまた連絡したときに、とんでもない事になっていることが発覚した。




 ***




【中性的な女 悠 現在】


 …………………………。


 うっすらと目を開くと、天井とかカーテンが白いってことよりも、頭がぼんやりするという事の方が真っ先に気になった。

 頭が重いし痛い。

 それからどうでもいい視界情報が徐々に入ってくる。


 ――どこだ、ここ……病院か? いってぇ………………


 頭も痛いが、それと同じくらい身体中痛い。よくみたら身体も傷だらけだ。特に腹部が痛い。少し身体を動かそうとするだけで痛みが走る。


 ――今、何時なんだろう。もう外は暗いけど……


 私が動けもせずに途方に暮れていると、ガラガラガラガラガラ…………と扉が開く。

 誰か入ってきた。カーテンで仕切られているから誰なのか解らずに緊張が走る。

 カーテンだから特にノックとかそういう概念はないが、カーテンはいきなり開いた。そして、その者は身体を半分起こしている私と目が合う。


「!!!」


 ダサいお上品なセーターを着た、ひょろいメガネの男が私の元に駆け寄ってきた。


「目が……覚めたのか…………!! 良かった……!」


 そのひょろいメガネの男は私を抱きしめた。

 他のどんな感情よりも「痛い」という感情が先行する。


「ちょっ……!」


 私はそのひょろメガネを引き離した。力がうまく入らない。身体中痛いからだ。

 そんなことよりもだ。

 もっと重要なことがある。


「あなた……どちら様ですか?」



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