私の100転生譚

真藍

第1生【始まりの生】

 私?僕?は10歳の少女に転生したらしい

「ジア?」

女性の声が不意に扉の向こうから聞こえてきた。

いったい誰だろう、少し怖がりながらも扉から顔を覗かせた。

「ごはんだよ?早く起きてきなね?」

そう言って階段を降りていった。

どうやら私の母親のようだった。

この様子を見てわかるように私にはこの身体の元々の持ち主の記憶も私自身にあったはずの「私もしくは僕」という部分的記憶だけが抜け落ちてしまっていたのだ。


それから5年後の15歳になる日、この5年間で少しずつ常識はついてきたはず.....たぶん?

「おはよう。」

私の声のみが響くだけで返事はいつまでたっても返ってくることはない。

2年前までは両親だってここにいたはずなのに、2人は2年前に起こった大災害で死体すら見つかっていない状況にあった。

なぜ私だけがこの場で生きていられるのだろうか。

「さびしい。」

毎日毎日この言葉を漏らしているような気すらする。

『お母さんはずっと私の紡ぎの儀を見たいと楽しみにしていたのに....なんでその時にそばに入れないのだろうか。』

そんな風に考えながら支度をする。

この世界では15歳の誕生日になると紡ぎの儀と呼ばれる大人への仲間入りと言われている儀式が執り行われる。

その時に与えられる《祝福》次第で今後の展望が決まってしまうそれほどに重要で大切な習わしであった。例えば幸運にしてくれるものや、仕事に適性のある能力がつくそれだけですぐにその仕事にありつけるそうだ。

「どうなるんだろう」一応期待もしていた。

でも、実は《祝福》と呼ばれているのに、逆も然りというところが本当に酷い必ずといって幸福なものとは限らない。なんなら役に立たないどころか、自身を不幸や死へと導いてしまうほどの《祝福》もある。例えばそう[迷い人]と呼ばれるものがある。目的の場所に99%辿り着くことができないそうだ。それにより家に帰ってくることができずそのままなくなってしまったり見つからず行方不明になりうることが多い。だから常に人と行動していないと死んでしまうようなもので本当に役に立たない。[迷い人]のようなものがたくさんあるのも現状であった。だからこそそう言った《祝福》を獲得してしまったものは、親の期待を裏切ったことになり、酷く叱責されたり、自身をいなかったことにするような親もいるそうだ。

私は正直そんな話を聞いてもどちらになったって良いと思ってしまった。

『ここにはもう家族もいない.....知り合いなんてものも私にはいない。だから後者の方で死んだっていい』

『なんならもう一度でいいからこの世界を親がいなくなってしまうことのないようにこの人生をやり直したい。』

そう思いながら、神像に向かって祈り願った。


「ん...?あれ?ここは?」

すると視界が眩い光に埋め尽くされ気づけばただただ真っ白な空間だけが広がっていた。

「おーい。ここだよここ!」

ふと後ろの方から声がした気がした。でも振り向いても誰一人としていない。いったい誰なのだろうか。

「あなたはいったいだれ?」

「僕の名はザグレウスだ。気軽にザグとでも呼んでくれ。」

「じゃあザグ?なんで私はこんなところにいるの?」

「思ったよりぐいぐい来るんだね。なんでか...か。まずは、謝罪をさせて欲しい。我が父が申し訳ないことをした。」

そんなありきたりな謝罪から始まった。なんでもザグの父に当たる神がザグを殺したものに雷を落としたくってしまい。それに運悪く私は当たってしまったようだ。その時に命も記憶も消し飛び、それに焦ったからか輪廻転生を司っている息子のザグを使わしたということだった。

「うーん.....まぁいいや。わざとやったことで死んだわけじゃないし.....」

でも自分で謝って欲しかったなぁ....?

「でもどうして転生をさせられてからこんなにも時間が経ったタイミングなの?5年は流石に遅すぎない?」

「えっとーそれはー」

急にザグはしどろもどろになった。

「その実は、手違いで君が教会に来てからるまで干渉ができなかったんだ。」

「神としての力ってそんなに弱いの?女の子を待たせるなんて酷くなーい?」

少し本音が...いや結構漏れてしまっていた。

「君は神に対して畏れがないんだね。」

「まぁ今はそちらが下手にというより立場として弱くなってるからね!勝手に人を死なせて勝手に転生させて、あまつさえ5年もの間放置してそちらが強く出れるはずないだろうからね?」

今思えば、少しこのよくわからない状況を楽しんでいたのかもしれない。

「楽しそうだね。」

「えっ.........?」

自然と笑みがこぼれ落ちていた。不意にかけられたザグからの言葉に私自身も驚いてしまった。両親が亡くなってから話す相手もほとんどいなかった私にとって2年ほどぶりのまともな会話でもあったからこそ人?と話せたことがとても嬉しく楽しく感じられたのかもしれない。

「まぁだからこそ君の今までの不幸を少しでも軽減するためにきた身としては嬉しいかな。」

「そうだったんだ。」

私を励ましてくれていたのか。

「だから祝福に関しても君が願っていたようなものを与えておいた。」

「え?」

正直驚いてしまったもう少しいいものを願っておくべきだと思っている最中で...

「ではまたね。」

そうザクが急に言葉を投げかけた瞬間一気に眩い光が視界を覆い咄嗟に目を瞑った。


「夢だったのだろうか。」

目を開けると教会に戻ってきていた。

夢じゃなくても自分勝手な神だなぁ

などと思いながら、元気づけてくれたことにも感謝していた。すると教会で働いているシスターさんに木の板?のようなものを手渡されたそこには《祝福》の内容が書かれていた。ただの板のようにしか見えないが《祝福》を受けている本人にしか見えないようになっているそうだ。

そして、私が得た《祝福》は[100物語]と[迷い人]だった。

[迷い人]は言わずもがな願ってしまったせいだがもう1つの[100物語]このような名前の《祝福》は聞いたことも見たこともない。

よく見ると小さな文字で下に書いてあった。

[100物語]それは100回の生まれ変わりをすることができる。そして強く願えばいきたい転生先に行くことができる。ただその代わりにこの《祝福》が100回使われるまで他の《祝福》を得ることはできない。ということらしい。


「[迷い人]か...自分のせいとはいえ普通に考えていれなくないか?本当に反省しているのかな?いやまぁ私だって悪いんだけども。」

とそんな愚痴を漏らしながらもまぁ納得することにした。

とりあえずこの人生を最後まで生きて行こう。そんな風に思うことさえできた。

なんだかたくさんの悩みが吹っ切れたような気がすらしていた。


「ジア!2番テーブルにお願い!」

それから10年、私は住み込みの従業員として街にあるレストランで働かせてもらっていた。

そう呼んだ彼女の名前はラテスさん、私が働いているレストランの店長さんだ。

年齢は..ちょっと...言えないがかなり若く見えていると思う。実年齢よりかは10歳以上は下に見られていることが多い。正直私も思ってる。

結局あの後、行き場もなく仕事に向く祝福もないため軽く人生が詰んでいた私は木陰で途方に暮れていた。そんな時に心配して声をかけてくれたのがラテスさんだった。

その後もこの店で住み込みとして働くことを提案してくれて、もう10年間もここで住み込みで働いている。新しい家族でもあり、命の恩人だ。ほんとうに頭が上がらない。

他にも友達?というよりかは兄妹のような人もできた。ちょうど階段から降りてきた。彼の名前はテルト。端的に説明すると高身長イケメンで彼も私と同じく両親を失い途方に暮れているところをラテスさんに拾われてここで一緒に住み込みで働いている。

誰1人として血のつながりがないが楽しく過ごせている。

「お兄ちゃん!早く手伝ってよ?」

「わるいわるいちょっと待ってて着替えてくるから。」

同じ状況下に置かれていたからなのか、それともこの寂しさや虚しさ、愛情を埋めるためなのか出会った当時からずっとこのような感じで敬語も上下関係もなくただ何かぽっかりと空いてしまった空間を2人で埋めるように過ごしてきた。

「キリスさんこちらいつものですよー!」

そんな風に言いながら常連さんのキリスさんのところに向かった。この店の真にありがたいのはあまりお客さんが変わらないことかもしれない。基本的に常連さんしかいないからみんなあまり私たち兄妹の事情に踏み込まないようにしてくれていて、ほんとうにありがたい。

「「「はぁーーやっと終わったー!」」」

常連客がほとんどとは言えうちのレストランはかなり繁盛していて正直3人で回すのは少々きついところではある。

店を閉めみんなで2階にある家に戻る。

ご飯を食べながらニュースを見る。ここ最近は戦争が多いようで戦争のニュースばかり流れている同じ国の中でも私たちの街と反対側の首都がある方ではかなり大きな戦争がここ3年ほどの間続いている。

 そう言えば、この10年間生きてきて疑問に感じたことが1つだけある。なぜか祝福で得てしまった[迷い人]が起こったことが1度もない。これはいったいなぜなのだろうか。不発?それともなにか条件がある?そんな風に考え始めてからもう5年も経っているのだがいまだ何かが起きる兆しが一切見えない。

「本当に不発であればいいんだけどなぁ」

流石にこの年になってからの迷子は恥ずかしいしね。

そんなことを思いながら半年もの時間が過ぎていった、活発化する相手の動きに抵抗するために武器や兵器作りなどもされ始められた。それによって出た廃棄が黒いモヤとなって空を覆ってしまっている。ついに全土で戦争が巻き起こり始め、男性のものは出兵するよう皇帝からの命が出されていた。

もちろんテルトもその命を出されていた。

「「・・・・・っ」」

「死んだりなんかしないでねお兄ちゃん.....」

「死ぬものか、家でお母さんもジアも待っててくれるんでだろ?それに国の人たちみんなが困っているんだから、助けに行かないといけないんだよ.....」

「ぅ・・・・っ。俺だって...行きたくなんかない一緒にいたいよ....」

その晩はみんなで大泣きした。

次の日頑張って快く送り出そうとするがやはり私は泣いてしまっていた。お兄ちゃんは私のことを心配してたまに振り返りながら、戦争の地へと向かっていった。

 

 それからテルトの死が知らされたのは1ヶ月後の大雨の日だった。

お母さんも私もただひたすらに絶望した。

なぜお兄ちゃんが死ななくてはならなかったんだろう。

どうして私の周りの人はいなくなっていってしまうの?もう何も私から取らないで欲しい。

次の日の朝、神像に祈りに行った。

目を瞑りこう頭の中で願った。「どうか家族が死ぬことのない世界を」と

すると紡ぎの儀と同じく目の前が眩い光に包まれ気づけば白い場所にいた.....


「ザグ?」

聞くと今度は正面から

「そうだよ」

と返答が返ってきた。

「随分と憔悴しているけどどうかしたの?。」

「どうしてお兄ちゃんは死ななければいけなかったの?」

気づけば聞かれたことに答えるのではなくそんな愚痴のような言葉を吐露してしまっていた。

「そうだね。僕だってそう思うよ。この世界にも死を司るとされている神がいてね。死に関する全てがそのものに委ねられ私たち他の神は干渉することを許されていない。なんなら僕は輪廻転生を司っている身だから彼と相反する価値観を持つ存在としてかなり嫌われているからね。だからこそ僕は君に[100物語]と呼ばれる《祝福》を与えたんだ。」

「なんで...そんな確実じゃない方法なの?」

「僕には死なせないようにする力なんてものは存在しない。だけど人の発想や考えは大きく未来や人生を変えることすらできてしまう。だからこそあのくそ死神やろうに人間の可能性やすごさを知って欲しいと願っているんだ。だから100もの生きていくそんな力を生み出して君に与えたんだよ。君はその経験を活かしていつでもお兄さんや両親を助けることができるようになるんじゃないか?僕はそんな君の可能性に賭けている。あとのことは自分で切り開いていくことしかできないよ。だから任せたよ......ジア?」

そんな勝手な神の言葉に希望を持つこともできたし絶望もした。


その後私は家に帰れなくなった。

そして人知れず死んでいった。


こうして私の始めの生が終わりを告げ、悲しみから逃れるための長く続く新たなる生が始まりを告げたのであった。




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