第19話 あたしのヒーロー
「美味しいか、ユウナ?」
「うんっ! ありがとう、タクミおにいちゃん!」
シャワーを浴び、部屋着に着替えたユウナはすっかり落ち着いたようだ。
ソファーに座り、俺の淹れたココアを嬉しそうに飲んでいる。
「も~、あたしも動揺してたけど、今考えれば最後まで足は動かせたんだよね。
金的してやればよかったな~、ばこーんと!」
にやり、といたずらっぽい笑みを浮かべ、スリッパを履いた足をパタパタと動かすユウナ。
だが、その足先は僅かに震えている。
「…………」
「あまり無理すんな?」
ぽん、とユウナの頭に手を置き優しく撫でる。
「あう。
……抱きしめてもらっていいですか?」
「ん」
彼女の隣に座る。
ぎゅっと抱きついてくるユウナ。
「よしよし」
ぽんぽん、と軽く背中を叩いてやる。
「……えへへ。
思い出すなぁ」
「10年前、ヘルハウンドに襲われた時もこうしてぎゅっとしてくれたよね。
やっぱりやっぱり、あたしのヒーローじゃぁ」
「ふふ、その時のユウナはお漏らししてたけどな」
「ぷぅ、それは忘れてよ~」
ぷくっとふくれたユウナにほっぺをつねられてしまった。
「……他に何かして欲しい事はあるか?」
「プリン食べたい」
「よし」
先ほどまで行われていた現場検証の合間にコンビニで買って来た限定プリン(3個セット)を冷蔵庫から取り出す。
「たべさせて~」
「ああ」
俺は1つ目のプリン(りんご味)を開封すると、ぷるぷるのプリンをスプーンですくい、ユウナの口元まで持って行く。
「ぱくっ……ん~~~♡」
目を閉じ、ぷるぷると震えるユウナ。
かわいい。
「肩揉んでほしい~」
「よしきた」
プリンを食べ終えたユウナは、ぐっと伸びをする。
変なところを痛めているかもしれないからな、筋肉系のケアが必要だろう。
「んん~♡」
少し強めに肩を揉んでやると、気持ちよさそうな声を漏らす。
「ゲームぅ」
「はいよ」
ゲーム機を取り出すと、最新ゲームをダウンロード購入してやる。
ゲームのタイトルは「ユトリートファイターGX」……驚異のグラフィックスを誇る最新格ゲーだ。
「へへっ、やったぁ3連勝!!」
もちろん、接待プレーに徹する。
「あ~そうだ、明日提出の課題があるんだ……けど?」
可愛く上目遣い。
……だんだんお願いが図々しくなってきた。
いつものユウナに戻ってきている証拠だ。
「どれどれ」
課題のタイトルは「郷土史における土着戦国大名の変遷」……マニアックすぎる内容だ。
「う!」
途中まで書かれている内容を見たが色々とヒドイ。
伊達政宗は東北地方の大名だし、ザビエルは日本人じゃない!
「よし!」
「ほえ?」
「タクミの歴史ブートキャンプ、開始!!」
「ひいいいぃい~!?」
JKアイドルが赤点で留年、というのは外聞が悪すぎる。
俺は心を鬼にして、ユウナを指導することにした。
「問題を1つ解くごとに、ケーキ1つ進呈!!」
「ひえぇ~、アメとムチの絶妙なバランス~!」
「間違えたら朝飯にピーマン追加!」
「おに~、タクミにぃ、管理栄養士~」
「…………ふむ?」
どこかに出かけていたマサトさんが帰ってきたのはそんなタイミングだった。
*** ***
「よし」
じゃれ合う俺たちの様子を見たマサトさんは、いかつい顔をほころばせて頷くと一枚のパンフレットをテーブルの上に置く。
「これは?」
パンフレットの表紙には白亜の豪邸が描かれており、「新緑と潮風に抱かれた、天上の
「建売住宅のパンフレットだ。
知り合いの不動産屋を叩き起こして貰って来た」
「建売住宅、ですか?」
今ユウナが住んでいるのは賃貸マンションで、マサトさんが持ってきたのは一戸建て住宅のパンフレット。
家を買う、という事だろうか?
「このマンションは厄介な連中にバレたみたいだからね。
もっとセキュリティ万全な高級住宅街に引っ越そうと思う」
「そして」
にやり、と俺に微笑みかけるマサトさん。
「タクミ君、君も一緒に住むんだ」
「……えええっ!?」
マサトさんから、驚きの提案がされたのだった。
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