第11話 新スキルを試してみよう

「ユウナ! 体重が730グラム、ウエストが1.5㎝増えているぞ!

 素数を数えながらスクワット200回!!」


「ひいいぃ~!?」

「鬼~! 悪魔~! 兄貴~っ!!」


「…………」


 カフェテラスでのお忍びデート(?)を楽しんだ後、ダンジョンポータルに併設された探索者向けトレーニングセンターにやってきた俺たち。


『へへ~、タクミおにいちゃんにおごってもらえたし、あたし今日のトレーニングはがんばっちゃおっかなぁ~』


 なんてのたまっていたユウナだが。


 食べ過ぎをあっさりとマサトさんに看破され、地獄のブートキャンプに突入する。


「 2、3、5、7、11、13、14!」


「14は素数じゃないぞ、ゆゆ!!」


「ひいぃ~!? プロデューサー細かいし!!」


 ゆゆコスに着替えたユウナが、腰と手足に負荷バンドを取り付けられてスクワットをしている。


 ゆゆの制服コスの上着は丈も短く、へそチラもチャームポイントだ。

 覗いたお腹がぷにっていては、アイドルとして示しがつかないだろう。


 よし!!


「ゆゆがぷにった責任の一端は俺にもあります!

 懺悔と感謝のスクワット300回!!」


「その意気やヨシ!!」


 俺もゆゆの隣に並び、スクワットを開始する。


「ふへ!? タクミっち回数増えてね!?」


「問答無用!!」


「ぬひゃああああああっ!?」


 探索者としてレベルを上げていけば、体力や魔力、筋力は増大していくのだが食べ過ぎによるお腹のぷにりはどうしようもない。

 おのれの努力で撲滅する必要があった。


 それに……。


「29、31、37……んんっ、んんっ!」


 両手を頭の後ろに組み、必死の形相でスクワットを繰り返すゆゆ。

 頬は紅潮し、肉付きの良い太ももに玉の汗が浮かぶ。


 ……イイ!!

 憧れのアイドル配信者のトレーニング姿をこんな近くで堪能できるなんて!!


「ゆゆ! 俺も頑張るから君も頑張れ!!

 出来ればもっと激しく!!」


「ふひっ!? 後方保護者面なのにちょい変態ムーブを感じるし!」


「はっはっはっ!!」


 すっかり打ち解けた俺とゆゆの様子に、大笑いするマサトさん。

 こうして俺たちは1時間ほどトレーニングに勤しむのだった。



 ***  ***


「マサトさん! ここにモモ上げダッシュを3本入れるのはどうでしょう?

 健康的な太ももとふくらはぎの脚線美はゆゆのチャームポイントの一つですし、より強化すべきかと!」


「ほう、いい着眼点だねタクミ君。さっそく次の基礎トレから取り入れよう!」


「やべぇ……このトレピたち脳筋過ぎ?」


 トレーニングの後、休憩室のソファーの上に寝転がっているゆゆ。


 俺とマサトさんはウキウキと更なるトレーニングメニューを練る。

 これだけ身体を動かしたのは久しぶりだ。

 探索者細胞が喜んでるのが分かる!!


「……探索者ハイには付き合ってられないぜ☆

 こそこそ」


「トレーニングの合間には糖分補給が必要だな……おお、こんな所にパティスリー・エデンの限定シュークリームが!」


 こっそり逃げ出そうとしているゆゆの様子はバッチリ把握していたので、備え付けの冷蔵庫から特製スイーツを取り出す俺。


「ああああっ!? 自分のちょろさが嫌になるぅ!

 でも激ウマ神ってる!!」


 はむっ!


 バリっとしたシュー皮からあふれ出す芳醇なカスタードクリーム。


「さいこう~♪」


「スポンサー様ご提供ありがとうございます」


 パシャリ


 そんなゆゆのスイーツ顔を写真に収め、公式ちゃんねるにアップしてもらう。

 たちまち数千のコメントがつき、スポンサーのサイトがアクセスしづらくなった。


 アイドルJK配信者とは、これほどの広告効果を持つのだ。


「さて、休憩が終わったら格闘スキルのトレーニングをしよう。

 せっかくだし、フォロワー限定のショート動画を取りたい。

 タクミ君、君もだんきちになってくれ」


「ほひ?」


「え、俺もですか?」


 かくして、だんきちの着ぐるみを着てゆゆのトレーニングを手伝うことになった。



 ***  ***


「しゃいっ☆」


 ゆゆの上段蹴りを、だんきちの腕に装着したミットで受ける。


 ばしっ!!


「も、もふっ!」


 蹴りはさすがの威力で、耐衝撃性を大幅に高めただんきち改と言えど、思わず後ずさってしまうほどだ。


 だが何より……っ!


 ふわり。


 いくらスパッツを履いてるとはいえ、短いスカートから惜しげもなくのぞくゆゆの美脚がその……すごくすごい。


「む? だんきちぃ?」


「もふふっ!?」


 誤魔化しきれない助平な視線に気づいたのか、ゆゆの形の良い唇がニヤリと歪む。


「ゆゆ、スーパーコンビネーション♪」


「も、もふもふっ!?」


 技名を叫ぶと同時に軽く腰を落とすゆゆ。


 右ストレートをけん制に、左足での連続キック。

 ”魅せ”技ではない、ゆゆのフィニッシュブローだ。


(……ん?)


 ガチの攻撃に一瞬焦る俺だが……。


 軸足となる右脚の運びや右ストレートの構えに、僅かな”無駄”が見える。

 右ストレートの反動を利用して回し蹴りに移行すれば、もっと素早く連続攻撃を叩き込めるのだが。


(試してみるか)


 俺はこっそりスキルツリーを展開する。


 ======

 ■基本情報

 紀嶺 巧(きれい たくみ)

 種族:人間 25歳

 LV:8

 HP:215/215

 MP:0/0

 EX:2,373

 ……


 ■スキルツリー

 ☆クリーナー・アインス 倒したモンスターを魔石に変換する。

 ↓

 ☆クリーナー・ツヴァイ 一定の確率で活動中のモンスターを魔石に変換する。

 ↓

 ☆クリーナー・ドライ 支援対象の”無駄”を消去し、行動を最適化する。

 ……

 ======


 ヘルハウンドを浄化したことで大きくレベルアップし、新たに進化した俺のスキルツリー。

 説明文を見る限り、味方に対して使うスキルらしいが……。


 支援系のスキルだから、問題ないだろう。


「もふもふ(クリーナー・ドライ)!」


 そう判断し、スキルを発動させる。


「……ふへ?」


 ぐんっ


 技の発動姿勢に入ったゆゆの右脚がわずかに動き、予備動作から”無駄”が消えた。


 ぴこん!


【反動を利用した左足での回し蹴り:追加効果度A+】


 それだけではなく、空中にガイドメッセージと蹴りの方向を示す矢印が表示される。


「え、なにこれ?

 ……試してみよっ♪」


 一瞬戸惑うゆゆだが、俺のスキルによるバフ効果と判断したようだ。


 ばしっ


 くぐっ!


 ガイドメッセージの通り、右ストレートの反動を利用して大きく腰をひねり、回し蹴りの体勢へ移行する。


 ズゴゴゴゴッ!!


 とても美少女が放った蹴りとは思えない効果音と共にローファーの踵が眼前に迫り……。


「もふっ(ちょ、まっ)!?」


 ドゴッ!!


「もっふうううううぅぅぅぅ!?」


 鮮やかなゆゆの回し蹴りがだんちきの腹に炸裂し……俺はトレーニングルームの壁際までふっ飛ばされたのだった。


「……ありゃ?」


 唖然としたゆゆの声を最後に、俺は意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る