第7話 社畜、レベルアップする
「まて~!!」
「もふもふっ!」
ゆゆと並んで走り、ハイエナ探索者を追いかける。
『待てゆゆ! 深追いするんじゃない!』
「大丈夫だって!」
マサトさんの声も興奮したゆゆには届かない。
(……ん?)
先ほどから奴らの背中が近づいたり遠ざかったりしている気がする。
ゆゆはまだLV20で中堅探索者というレベルだし、高性能とはいえ着ぐるみの俺もいるのだ。
奴らの身のこなしなら、一気に姿をくらますことが出来ても不思議ではない。
(誘い込まれている?)
そう思った瞬間、ハイエナ探索者たちはダンジョンの床に開いた穴から下のフロアに飛び降りる。
数千階層もあるダンジョンを完璧にメンテする事は不可能で、たまにこのように崩落している場所がある。
当然、フロアが違えば出現するモンスターのレベルも違うわけで。
「もふもふっ(罠だ、ゆゆ)!!」
「え、どしたのだんきち?」
……しまった。
ゆゆに警告を発したはずが、ボイスチェンジャーのせいでだんきち語になってしまった。
ぴょいっ!
そのままゆゆは下のフロアに飛び降りてしまう。
「もふっ(ああ、くそっ)!」
俺も慌てて床に開いた穴に飛び込む。
「へっ、捕まってたまるかよ!!」
案の定、こちらを向いて待ち構えているハイエナ探索者たち。
「これでも、くらえっ!」
リーダーらしき男のそばの壁には、カバーで覆われた赤いスイッチが。
ダンッ!
男はカバーを叩き割り、スイッチを押す。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
それと同時に、男の背後の壁が回転する。
「ゲートダンジョンか!」
もはやだんきちを演じている場合ではない。
俺はボイスチェンジャーを切り叫んだ。
「え、それって!?」
日本と異世界であるヴァナランドは繋がってはいるが、常時接続していると成分の違う大気が混じり合い、お互いの環境に悪影響が出てしまう。
それを防ぐため、回転式のエアロックのようなゲートが複数個所に設置されているのだ。
グルルルル……
不用意に”接続”すると、誘い込まれた上位モンスターが居ることもあるわけで……。
「えぇ、ヘルハウンド!?」
ガウッ!!
漆黒の狼型魔獣がこちらに向けて飛び掛かって来た。
「ゆゆ!」
コイツを相手にするには、最低でも50程度のレベルが必要。
ゆゆのレベルでは、到底太刀打ちできないSランクモンスターだ。
ミスリル銀をふんだんに織り込んだ上級制服装備を身に着けているとはいっても、まともに攻撃されれば大ケガは免れない。
グオオオオオオオオオオンッ!!
「あっ……」
地獄の底から湧き出るような咆哮に気圧されてしまったのか、尻餅をつくゆゆ。
ヘルハウンドの
「くそっ!!」
なんでもいい、ゆゆを守らなければ!
考えるより先に、身体が動いていた。
俺はゆゆを守るようにヘルハウンドの前に立ちはだかる。
この着ぐるみならば、一撃くらい耐えられるかもしれない。
「クリーナー……ツヴァイ!!」
無我夢中で突き出した着ぐるみの肉球が、黄色い光を放つ。
ばしゅううううううううっ……かつん。
「……へ?」
「……は?」
「「「ウソだろ!?」」」
その場にいた全員の目が点になった。
Sランクモンスターのヘルハウンドを……活動状態のモンスターを魔石に昇華させた!?
自分のしでかしたことが信じられない。
俺は慌ててステータスを開く。
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■基本情報
紀嶺 巧(きれい たくみ)
種族:人間 25歳
LV:0→3
HP:35→82
MP:0→0
EX:0→250
……
■スキルツリー
☆クリーナー・アインス 倒したモンスターを魔石に変換する。
↓
☆クリーナー・ツヴァイ 一定の確率で活動中のモンスターを魔石に変換する。
↓
……
======
「スキルツリーが、進化してる!?」
それに、いつの間にかレベルが上がっている。
ゆゆの配信についてきただけで、モンスターを倒していないのに、何故!?
混乱する俺だが、ハイエナ探索者たちはもっと混乱していたようで。
「え、Sランクモンスターが……着ぐるみなんかに?」
へなへな
呆然と座り込んだハイエナ探索者たちは駆けつけて来たダンジョン警察に、ゲートダンジョン不正操作の容疑で逮捕されたのだった。
取り調べの結果、連中はダンジョン警察がマークしていた違法密猟者だったそうで、俺たちはダンジョン警察とダンジョン庁から感謝状を貰う事になるのだった。
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