第6話 社畜、マスコットになる

「う~いっ☆」


「18時間ぶりぃ!

 フォロピはちゃんと通知オンにしてくれてたカナ?」


 ”もちろんだよゆゆ!”

 ”ニュース見てびっくりした! 重大発表ってこれだったんだね!”


「そ~ですっ!

 ふしょーゆゆ、ダンジョン庁のイメージキャラクターに選ばれたぜ♪」


 ぴしり、とカメラに向かって敬礼するゆゆ。


 1時間後、訳も分からず着ぐるみを着せられた俺はとあるBランクダンジョンの中にいた。目の前ではゆゆがゲリラ配信を行っている。


 ”おめでとうゆゆ!”

 ”ついにオレたちのゆゆがダンジョン界の顔に!”


「へへ、ヤバいっしょ?」


 夕方のニュースで速報されたこともあり、公式ちゃんねるへの入室者は80万人を超え、今も続々と増え続けている。


「それにぃ、ウチのちゃんねるに仲間が増えるんだわ。

 よろしく、だんきち!!」


 だきっ!


(うおっ!?)


 ダンジョン庁のマスコットキャラであるタヌキのだんきち。

 その着ぐるみを着た俺にゆゆが抱きついてくる。


 各種センサーが取り付けられた高機能着ぐるみは柔らかなゆゆの身体の感触を余すことなく伝えてくれて……。


「もふっ!?」


 思わずうめき声を漏らしてしまうがボイスチェンジャーがだんきちの鳴き声に変換してくれた。


 ”だんきちもかわよ!”

 ”ゆゆともふもふ! ここは天国ですか?”

 ”中の人はこないだのスタッフさん?”

 ”中の人などいません!”


 コメントも大盛り上がりだ。


『JKアイドルの新配信パートナーとして男が出てきたら炎上するだろう?』


 とはマサトさん談で、俺も激しく同意だが、まさか着ぐるみとして配信に参加するなんて。


「今日は、イメージキャラになった記念に清く正しいダンジョン攻略をフォロピに見せるから。みんなシェアよっろしく~♪」


 ぴょんとジャンプしたゆゆがキメポーズを取り、ダンジョン配信がスタートした。



 ***  ***


「ダンジョン探索者を目指してるフォロピにお知らせ!

 最初の武器は高分子ブレードがオススメ♪」


 ザンッ!


 半透明の刀身が、飛び掛かって来たウェアウルフを真っ二つに両断する。


「まじ軽いし、すべすべ表面コーティングのお陰で汚れもつかんわけよ」


 びしりとドローンカメラに向けてポーズを取るゆゆ。

 特等席からゆゆの勇姿を堪能しても何も言われない。

 最高だなだんきち。


「それに。

 ヴァナランドのマナの澱みから発生するとはいえ、モンスターも生き物だから。

 苦しませずに”解放”したげるんだぞ?」


「もふっ!」


 モンスターの魂を構成するマナは、倒されることで一部が正しいマナに戻り、無害な動物に生まれ変わる……とされている。

 近年ペットとして輸入されて人気の高まっているミニカーバンクルなどがそれにあたる。


「ウチのちゃんねるのフォロピなら、木村ダンジョン工業の高分子ブレードLV3が3割引になるゾ!

 概要欄にリンクを貼っとくから、よろ~♪

 なんとゆゆとのコラボモデルだぜ☆」


 ダンジョン庁としても、切れ味抜群な高分子ブレードに補助金を出して推奨している。

 さすがゆゆ、アピールが上手い。


 ”探索者養成校に通うJC2です。絶対買いますね!”

 ”ワイ、既に3本ぽちった”

 ”何に使うんだよwwww”


 盛り上がるコメントを見ながら、俺はウェアウルフの死骸に向かう。

 ゆゆのダンジョン攻略の最中に”お掃除”するのが俺の仕事だ。


「もふっ(クリーナー・アインス)!」


 ぴか~


 だんきちの肉球が白く光る。


 かつん


 ウェアウルフは蒼い魔石へと昇華された。


「ありがとうだんきち!

 こうしてモンスターは”浄化”されました!

 ハイ拍手!」


「もふもふ♪」


 短い手を振り、愛想を振りまく。

 ついでにダンジョンの床を拭き掃除する事も忘れない。


 ”すご! そして可愛い!”

 ”あれって昨日の配信でスタッフさんが使ってたスキルだよね”

 ”配信切り忘れも海沢カレンに取り上げさせたもの伏線か~さすがゆゆ!”

 ”ゆゆのプロデューサーって有能だよね”

 ”いつかだんきちの個別配信も見たい!”

 ”わ、わたし的には中の人も好み♡”


 なんか勘違いされてるみたいだけど、結果的に盛り上がっているようだ。


(中の人が俺ってバレてそうだけど、おおむね好意的な反応でよかった)


 さすがゆるキャラグランプリで上位常連のだんきちである。

 周囲の全てを和ませるのだ。


「ほんじゃ、もっといくよ~♪」


 こうして、ゆゆと俺のゲリラ配信は続くのだった。



 ***  ***


「ふぅ、フォロピのお陰でスコア記録を更新できたし!」


「もふっ」


 汗だくのゆゆにタオルを渡してやる。

 配信開始から1時間、いつもより盛り上がったダンジョン探索は、フロアボスを退治してアフタートークへ移行していた。


 ”いや~、今日も楽しかった!”

 ”今日のゆゆは気合入ってたよね♪”

 ”だんきちもお疲れさま!”


「へへっ」


「最近ダンジョンを遊び場と勘違いしてるダメピがいるけどさ。本来はヴァナランドの迷えるモンスターちゃんを”浄化”するための場所なわけよダンジョンは。

 みんなもそれを忘れないでね☆」


「もふもふっ!」


 ゆゆの挨拶に合わせ、配信動画に字幕を表示する。

 ダンジョン庁案件だからね。


 <<マナーを守って探索するダンピ(ダンジョン探索者)を応援しましょう>>

 <<投げ銭は計画的に! だんきちからのお願いです>>


 ”もちろんだよだんきち!”

 ”迷惑配信者はこの動画を100回見ろ!”


「ほいじゃ、また次の配信で~☆」


「もふもふ~」


 締めの挨拶を終え、配信を切ろうとした時。


 ガタッ!!


「や、やべっ!」


 背後から大きな物音と男の声が聞こえた。


「もふっ?」


 だだだだっ


 振り返ると、数人のダンジョン探索者らしき集団が一目散にダンジョンの奥へ駆けていくのが見えた。


 どさっ


 最後尾の一人がザックを取り落とす。

 中からモンスターの牙のようなものがこぼれ落ちた。


回収者ハイエナ……か?)


 ダンジョン探索や配信をする際には潜るフロアをダンジョンポータルに事前申請する。他の探索者が攻略中のフロアには入らないのが基本マナーだ。


 だが最近、ゆゆのような素材集めやレベル稼ぎを主目的にしないダンジョン配信者の後をつけ、配信者が倒したモンスターから素材を盗んでいくハイエナと呼ばれる探索者が増加していた。


 自分の手を汚さない小銭稼ぎとして、忌み嫌われている存在だが……。


「あ~もう! キミらルール違反だぞ!

 ちょいしどーしてきま~すっ♪」


 たたっ


 ハイエナたちを追いかけるゆゆ。

 正義感の強い彼女は、配信中に遭遇したマナー違反の探索者をお説教する事がちょいちょいあった。


 ”いけ~ゆゆ!”

 ”ダンジョン庁公式配信の最中にハイエナするとか、ふとどきモノやな”

 ”ダンジョン庁に通報しますた”


 盛り上がるコメント欄。

 いままで遭遇したのはちょっとした違反者ばかりであり、ゆゆが有名配信者な事もありすぐに反省する連中ばかりだったのだが……。


(身のこなしが……速い?)


 奴らの動きが妙に洗練されている。

 たまに弊社に素材を納入しにくるハンターと呼ばれるガチ探索者のような?


 だだっ


 嫌な予感がした俺は、ゆゆの後を追うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る