虹を思い描くケモノ

春風心豆

第1章 獣がついた僕

つぶつぶ

 紅に染まる空と、大きな入道雲。僕はそれを教室の窓側の席から眺めるのが好きだった。空を見れば広い、僕はちっぽけなんだと、思えたら心地よい。


「世の中のものはみんなつぶつぶさ」ヒロは、教室の机をパンッと叩いて急に熱弁をはじめる。


「そうなんだね」

「なんだよ。ゆっくん反応うすーい。つまらん」

「うん」

 僕は、もうそれどころじゃなかった。雲を見ていたい。雲を見ている時は、自分の最低さを忘れられた。なんで僕はこんな事になったんだろう。

 ヒロは僕の顔を覗き込んで、言う。

「ゆっくんの見ているあの雲だってつぶつぶでできているんだよ。世の中のものは、全部原子でできてる」

 ヒロには僕の頭に乗ってるものが見えないようだ。僕の心の中の世界で何が起こってるかなんて、何も知らない。

 やめろよ、マァ。僕の頭の上に乗ったマァは、ヒロに睨みを聞かせて、鋭いツメを出そうとしている。お願いだ。マァ。心の中でマァを止める。

『チキショウ。うっさい奴だ。ヒロってブサイク』

 あぁ、はじまった。こうなったら、僕の心もマァに引っ張られる。


「ゆっくん、不思議だよねこの世界は。何でもつぶつぶなんてすごいよ」

 ヒロは感心したように、空を眺めて言う。

「うん、不思議だ。目に見えないもの程、大事な物だ。でも、人は肝心な時には大事なものを忘れてしまうんだ。自分の心の闇に飲まれて忘れた時には、もう遅いんだ。遅いんだよ」

 僕の言葉に自然と、力が入る。

「ゆっくんはいつも意味深な事を言うねぇ」

 意味深か。

 本当に大事な物に気づいた時にはいつも遅い。もう一度手に入れようだなんて、思っても遅い。この世の中にある大半のものが人や何かから与えられ生きているのに、自分で全てを手に入れたと思っている。感謝を忘れてしまう。

 

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