恐竜の卵?

平中なごん

一 一大発見

 中国・遼寧省某所。川沿いの断崖を見上げる中世代ジュラ期の地層が露出した発掘現場……。


「グラニュート博士! ちょっとこれを見てください!」


 今日も変わらず現場で発掘作業に精を出していた私を、助手のエリ・サトナカがいつになく大きな声で呼んだ。


「どうしたサトナカ君? 羽毛の痕跡でも見つかったのかね?」


 少し離れた場所で手を振る彼女の方へ向かいながら、私はその興奮した様子に冗談まじりにそう答える。


 まあ、冗談ではあるし、本気でそう思っているわけではないのだが、その可能性がまったくないというわけでもない。


 ここら辺一帯はドロマエオサウルス科などの羽毛を持った獣脚類──即ち〝羽毛恐竜〟が多数発見されている非常に重要なエリアである。


 滅多にない大発見ではあるものの、羽毛の痕跡が残された化石が見つかることもけしてないわけではないのだ。


「いえ、羽毛ではないんですが、これはスゴイものが出てきたかもしりません」


 しかし、サトナカ君は私の冗談もスルーすると、大真面目な顔をしてそんな言葉を返す。


「スゴイもの?」


 なんだろう? 羽毛ではないスゴイものとは……?


 地表から1mぐらい掘り返した彼女のいる穴へ降りた私は、怪訝な表情を浮かべてその足下にあるものを見つめる。


「これは……卵か!」


 すると、それは岩石の中に半分ほど埋まっている、恐竜の卵らしき楕円形をしたものの化石だった。


 全長は15㎝くらい。亀裂も入っていないので、もしも卵だったら割れずに石化したものになる。


「見たことのない形状だ……新種の可能性もあるな……」


 だが、その表面には短い突起のような凹凸が無数に並んでおり、よく見知った恐竜の卵とはずいぶんと違った特徴を持っている。


 恐竜のものではないかもしれないが、他の爬虫類や両生類の卵でも新種ならば大発見である。そして、新種の恐竜の卵であるならば、それこそセンセーショナルなニュースとなるであろう。


「やりましたね! 先生!」


「新種だったら世界的ニュースですよ!」


 思わぬその発見に、集まって来た発掘チームの他の隊員達も俄に盛り上がりを見せている。


「割れてないし、中にはまだ幼体が残っているかもしれない。ともかくも慎重に取り出そう。CTスキャンにかけてみれば、ちょっとおもしろいことになるかもしれないぞ!」


 サトナカ君達同様、それを見ては私も興奮を抑え切れず、勤めて冷静さを装いながらも、昂る声でチームの者達にそう命じた──。

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