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「それから、唐辛子の提供にあたって一つ商人ギルドにお願いがあります。

唐辛子の種自体は僕の方で入手が可能です。ですが僕の方では現物の入手しかできません。そこで商人ギルドの方で農家に唐辛子の栽培依頼をかけてほしいんです。

唐辛子は身の中に種を作ります。なので一定数は出荷せず翌年に種まき用に確保しつつ・・・という形で栽培できませんか?今年1年に関しては僕の方で現物を卸す形でカバーしたいと思います」


エコラックさんはここで自分が呼ばれた最大の理由が分かったようだ。

単純に冒険者ギルドと僕との間で現物のやりとりをするだけならば、ポーションと同じように商人ギルドに仲介書を作成してもらって卸せばいい。

しかし栽培する土地もない状態でいつまでも僕の現物卸に頼っていては、僕の秘密は誰かに悟られ、それと時を同じくして僕は探られないように、この地から離れようとするだろう。


商人ギルドにとってこの世界の常識にとらわれない僕のスキルは有用と言えるだろうことは僕自身も分かる。

逆の立場なら当てにしたいだろうと思うわけだしね。

でも僕が、この上ないほどに目立ってこの上ないほどに稼ぎたいわけでは無いことは商人ギルドとて把握してるはずだ。

その気があれば希少な品を大量に入荷し、方々に恨みを買いながらも大儲けできるわけだし、ギルドもそれはわかっているはずだ。


そうしないといいうことは、僕が勇者召喚によって呼び出された存在である、という点と照らし合わせれば、ある程度の余裕を持った状態で平穏に暮らしていきたいだけということは、ある程度商いに通じる物ならば想像することは容易なはずだ。

となれば目立ちにくい方法としては、きっかけ自体は僕が作り、商人ギルドとそこに通じる農家が主体になって育て、卸し、販売する。

この形が一番目立ちにくいはずだ。


しかし事は街の安全性あるいは戦略の幅が広がることによって冒険者はもちろん、唐辛子の粉を非戦闘要員も持ち歩くことである程度、魔物対策ができることにもなるため、早急に取り入れる必要もでるだろう。

となると最初のうちは目立つことにはなってしまうが、僕も最大限の助力をしていく必要がある。


そういうわけで、冒険者ギルドはもちろんのこと、商人ギルドも巻き込んだ形をとることにしたのだ。


結局、僕が考えていた通り、最初のうち・・・というか安定して生産ができるまでは僕の方でも卸す形になった。

といっても積極的に卸すわけでは無くあくまでも不足分を卸していく形になる。


商談がまとまりギルドを出る。

近いうちに商人ギルドに唐辛子を卸しに行くことにしよう。



しかしあれだけ近い距離にゴブリンの集落ができてしまうことや、スタンピードの可能性が高まっていることを考えれば最早一刻の猶予もないと見るべきだろう。

そうなると今回の商談とは別に大量の現物を卸すとしても、唐辛子そのものは商人ギルドに卸し、商人ギルドで人手を雇い、その手間賃として冒険者ギルドが支払うという形にしたほうが経済活動にはつながる。


とはいえ初めての試みでもあるので、乾燥昆布の時同様に利益を求める形はやめた方がいいだろう。

人々の安全を盾に自分の利益を上げようとする行為は、あくどい商人と同じ気がしてしまう。

そうなると貢献度が下がりせっかく解放された飲み物屋が再び閉鎖されてしまう可能性も出るだろう。

僕自身にもデメリット、そして街にもデメリットがあるならそういう行為は避けたい。

今回は慈善事業として、現物を入手する代金だけを頂戴しよう。


そしてそれ以上に早急に解決しなくてはいけないのが領都の安全確保だ。

現在僕がホームにしているこの街は領都から少し離れた場所に位置している。

そしてこの街から魔物の森と領都から魔物の森では、領都からの方が近い状態になっている。

とすればスタンピードが起きた際に猶予がなくなりやすいのは領都ということになってしまう。


どういう理由化は不明だが、魔物はなぜか人間の住む方向に近寄ってくる。

まあ人間も魔物にとっては食料なのだと考えるのならば、

森の中の少量が減ってくれば、魔物が人間の町によってくるのは至極当然のことと言えるだろう。


加えてこの街と領都で比べれば、言うまでもなく領都の方が人口は多い。

となるとより食料の多い領都の方に向けて、より多くの魔物が寄ってくるのは避けられないはずだ。

実際にスタンピードが起きれば、いくら向こうの方が戦力が充実しているとはいえその反面襲い掛かってくる数も多い領都の方が被害は大きなものとなることが予想される。


この話は悠長に待ってられない。

明日にでも商人ギルドに唐辛子を大量に卸して領都の方に向かった方がいいだろう。

しかし僕一人が行ったところで、防衛に有益な戦略を伝えることはできても、防衛力の直接的な強化には繋がりにくい。


となるとアビー達に協力を要請するのが望ましいだろう。

そう思った僕は今日中にアビー達にもう一度あってお願いをすることにした。

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